日本翻訳連盟(JTF)

2-2 翻訳・通訳のISO規格の最新動向

田嶌 奈々 Tajima Nana


JTF/ISO規格検討会 翻訳プロジェクトリーダー
株式会社翻訳センター 品質管理推進部 部長
外国語大学卒業後、複数の会社で約4年、株式会社翻訳センターで約8年、実案件の品質管理業務に従事。2012年以降、分野や案件の枠を越え全社の品質向上を推進する部署を起ち上げ、社内作業の標準化や仕組み作りを行っている。ISO規格策定には2012年のマドリッド総会から参加。TC37 SC5国内委員。

森口 功造 Moriguchi Kozo


JTF/ISO規格検討会 副議長・機械翻訳プロジェクトリーダー
株式会社川村インターナショナル 執行役員・ゼネラルマネージャ
品質管理担当として株式会社川村インターナショナルに入社。チェック、翻訳、プロジェクトマネジメント等の制作業務を経験し、2011年からは業務全般の統括として社内管理に携わる。ISO規格策定にはJTFのISO検討会発足時から参加し、当検討会では副議長を務める。TC37 SC5 国内委員。

佐藤 晶子 Sato Akiko


JTF/ISO規格検討会 通訳プロジェクトリーダー、JTF理事
Atelier Ark Mary 代表
外国為替専門銀行勤務後、個人事業主として翻訳・通訳・講師業務に25年以上従事。博士後期課程で言語文化学を専攻し「品質管理の父」デミングを研究。 ISO総会では通訳、通訳機器両部会に参加。JAT通訳分科会委員長。TC37 SC5国内委員。

報告者:赤間ゆみな
 



各規格の現状と位置づけ

翻訳の国際規格 ISO 17100

欧州規格EN15038をベースに要件を緩める方針で調整され、2015年早々に発行の見込み。本規格は認証規格であるため、ISO準拠のサービスを提供する会社は遵守が必須。外注先の翻訳者にも一定の要件が定められるため、個人翻訳者にも影響する。

ポストエディット作業についての国際規格 ISO18587

2014年10月末にCommittee Draft (以下、CD)からDraft International Standard(以下、DIS)の段階へと進んだ。指定参照規格はISO17100。今後、更に改訂・再投票が行われ段階を踏み発行に至る予定だが、一足飛びに発行に進む可能性もある。

コミュニティ通訳に関する規格 ISO13611

本年度中の発行が決定。位置付けは認証規格ではなくガイドライン。尚、コミュニティ通訳とは公共性の高い病院、警察、教育機関等で行われる対価の伴う通訳という定義。

通訳一般に関する規格 ISO18841

ベルリン総会にて長時間議論、日本も規格策定チームに加わり検討した結果、CDに移行。1月22日期限で投票が行われ、DISへ移行するか、CDで再検討するか決まる予定。位置付けは認証規格。

その他

通訳機器の既発行規格ISO2603 、ISO4043についても欧州委員会を中心に見直しが行われ、2016年度を目途に新たな規格を発行予定。

全規格共通の中心議題は資格要件

注目はISO 17100 3章「翻訳者の要件」、ISO18587 5章「ポストエディターの資格要件」、ISO13611 4章「通訳者の技能と要件」、ISO18841 2章「通訳サービス提供者の一般要件」。

翻訳者については「政府認定の翻訳資格」の要件がベルリン総会にて削除。「翻訳の学位」または「翻訳以外の学位+翻訳経験2年」または「翻訳経験5年」、いずれかを満たせばよいとなったが、日本の課題は翻訳の学位が存在しない点といえる。

ポストエディターについては当初、翻訳者と全く同じ要件が求められていたが、改訂版CDではポストエディターとしての経験が要件に加わり、緩和された。ポストエディターは必ずしも翻訳者である必要はないという現場の声を反映した結果である。

コミュニティ通訳者についてはガイドラインなので大きな波紋はないが、日本の「通訳案内士」を、要件を満たす資格として認めてよいか等の議論がある。

一般の通訳者については現在進行形で要件変更を要求中。最新案では「通訳の学位」または「通訳以外の学位及び180時間のトレーニング、及び100日程度の経験または政府、政府間機関、非営利機関が授与する学位・認定資格」と要件が実務寄りに変更されたが、これでも日本の現状には合わず、更なる改訂を求めている。

発行後に考えられる日本への影響

発行後、世界各国のベンダーが認証取得に動くと予想される。東京五輪等、国際入札の際に認証取得が入札要件となる可能性が高いため、日本の会社が認証未取得であれば大変不利。しかし、現状では日本に認証機関はなく、規格を国内規格化するのか、邦訳版にするのかも未定である。
将来の認証機関設立を促すためにも、今からできるだけ多くの関係者にこの内容を伝えたい。

 

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