2-1 日本経済 アベノミクス:政治と政策
Robert Alan Feldman, Ph.D.
ロバート・アラン・フェルドマン
1998年、チーフ・エコノミストとしてモルガン・スタンレー証券会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)に入社。2003年、株式調査部長を経て、現職。日本経済の見通しや金融市場動向及び政策動向の予測を行っている。1990-97年の間、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券で主席エコノミストを務め、1983-89には国際通貨基金(IMF)に勤務。マサチューセッツ工科大学で経済学博士号、イエール大学で経済学/日本研究の学士号を取得した。
※2000年から「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系列)にコメンテーターとして出演している。
報告者:熊谷玲美(フリーランス翻訳者)
このセッションでは、日本経済が世界のなかで置かれている状況や、景気の行方、アベノミクスの構造と評価、さらにはエネルギー問題について、多面的な指摘と問題提起が行われた。
世界経済の見通し
米国の経済成長は穏やかな回復傾向。一方、ガバナンスの問題を抱える中国では、経済はあまり良くならないだろう。そのほかの国々は、新興国の与信の問題、中国減速の影響、米国の利上げの影響という3つの要素の影響を各国が違った形で受けるため、途上国全体をまとめて扱うことはできない。
全体的に見れば、世界の状況は日本にとってそれほど悪くはない。
日本の状況
実質輸出入が回復傾向にあるのは良い材料。またインバウンドツーリズムも大きく伸びている。物価については、本当にデフレ脱却できているのかが問題だが、物価指数によって見方が異なる。原油価格下落の影響をのぞけば物価は上がっているというのが日銀の見方だ。
労働について、女性の労働参加率は増加しているが、高齢化の影響で労働参加率全体は増加していない。労働者が減るなかで、GDPの2%成長を達成するには、生産性を高め資本ストックを拡大しなければならない。雇用成長率が年0.5%減少する場合、年10%の設備投資の伸び率が必要な計算になる。
アベノミクス「第三の矢」の進展状況
アベノミクスの「第三の矢」に関して、農業、医療、エネルギー、教育、行政、労働、企業統治、税制などの分野について評価した。農業改革、企業統治の分野は進展している。税制改革も、マイナンバー導入には脱税を防ぐ効果があり、大きな進歩である。労働分野は進展が見られない。中小企業と大企業で平均賃金に大きな格差がある。医療改革も問題の大きさに比べて進んでいない。アベノミクスは、進展している面はあるが、今後注意して見ていくべき点もたくさんある。
財政再建
国の債務比率を安定化することが大切であり、そのためには60兆円の財政調整が必要。方法としては、「消費税34%+社会保障歳出カット0%」から「消費税10%+社会保障歳出カット47%」まで幅広い選択肢があるが、会場の参加者の反応としては、「消費税22%+社会保障歳出カット23%」という中間的な選択肢への支持が多かった。
エネルギー問題
エネルギー使用量は、「エネルギー使用効率」「生活水準」「人口」という3つの要因で決まる。現在のペースで増え続けると、50年後のエネルギー使用量は現在の250%になるため、エネルギー使用効率をどうやって上げていくのかが重要である。必要になるのは技術革新であり、特に蓄電池の技術はどんどん上がっていくだろう。
最後に、エネルギー使用量の決定要因を、翻訳者の需要にも当てはめることができる。技術革新があれば翻訳の効率も上がる。ソフトの活用などによって効率化することが今後のポイントになるだろう。