3-C 今こそチャンス!助成金獲得の㊙テクニック~助成金受給を完全アドバイス~
武田倫明 Takeda Michiaki
武田社会保険労務士事務所 代表大学卒業後、流通業界及び教育研究機関の人事部にて約10年間、労務管理及び社会保険等の実務に携わる。2003年9月、武田社会保険労務士事務所を開業。中小企業を中心に労務管理、規程作成、人事制度構築、人材採用等に従事。現在は、サービス業、メーカー、金融、IT、不動産、建築業、介護、飲食、設計事務所等多方面に顧問先を持つ。労働基準監督署をはじめとする役所の対応にも強く、各種助成金申請も多く手がける。第一線で培われた長年の確かな実務経験に裏付けられる実践的なノウハウ・解決手法は、他者と一線を画す。
報告者:長谷川祐子
助成金の概要
この講演の対象は、翻訳者、翻訳通訳学習者、翻訳会社の実務者の方、翻訳会社の実務者の方、従業員を雇っている事業主(個人・法人)、人事ご担当者である。ただしいずれも雇用保険の適用事業所になっていることが要件だ。
助成金を取れたら取りたい、という人は多いだろう。助成金には、雇用促進・労働環境改善を目的とする厚生労働省系・起業支援・産業復興を目的とする経済産業省系・自治体が取り組む施策に沿うことを目的とする自治体系がある。助成金を獲得するにはタイミングが重要。助成金は予算が決まっており、予算がなくなり次第終了となるケースが多い。使いやすい助成金ほど早く締め切る可能性が高い。例えば、介護支援取組助成金などは、告知されて短期間で申請が殺到し、締め切られてしまった。取りやすい助成金は不正受給も多く、そのような助成金は調査が入るケースが多いので注意したい。
キャリアアップ助成金
この講演では主に、厚生労働省系の助成金を紹介する。厚生労働省系の助成金には、キャリアアップ助成金・特定求職者雇用開発助成金・人材開発支援助成金などがある。
そのなかでも今は、キャリアアップ助成金が話題である。我々の事務所でもこの助成金の申請の依頼が中心である。これは、非正規雇用労働者(有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者)に対して、正社員化、人材育成、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度である。現在、安倍政権が正社員を増やすことに力を入れている背景もあり、使いやすいように制度が改正されている。
キャリアアップ助成金のなかで重要なのは、有期雇用から正規雇用に転換したケースである。これを申請すれば1人あたり57万円出るので、事業主にとっては悪い金額ではないだろう。
一番重要なのは、有期雇用から正規雇用に転換する「正社員化コース」だ。これは、有期雇用で雇い入れた社員を、正社員に転換し、その後その社員が6ヶ月間継続して働き続けているという実績があれば、支給申請できる。申請の流れは、該当者が正社員になる前のタイミングで、まずキャリアアップ計画書の提出を行う。そして、正社員転換後、6ヶ月を経過した段階で支給申請を行い、入金されるのはおよそその6ヶ月後だ。
ここで、申請から受給までの具体的な作業を紹介する。
ステップ1
有期契約の雇用契約書を取り交わす。賃金台帳・出勤簿を作る。ここでチェックされるのは、事業主がきちんと残業代を払っているかどうかだ。現在は長時間のサービス残業を減らそうという流れになっているので、それに沿うような労働環境を整えることが大切だ。
ステップ2
就業規則を作る。企業が助成金を申請する場合には、就業規則が必要になる。10人未満の事業所を運営する事業主にはこれが億劫に感じられる場合もあるだろうが、必要あれば社会保険労務士など外部の専門家の力も借りて作るといいだろう。キャリアアップ計画書を作ることも必要だ。会社都合退職履歴の有無も確認しておきたい。様々なケースがあるだろうが、従業員を解雇したケースがあると、一定期間申請できなくなる。正社員を増やす流れに逆行する行為とみなされるためだ。
ステップ3
無期雇用の正社員雇用契約書を取り交わす。原則として、フルタイムかつ月給制であることが要件となるため、必然的に雇用保険・社会保険の加入が求められる。
さらに今年からは、有期雇用から正社員転換しただけでなく、「企業として生産性を上げている」という実績があれば、15万円多く72万円が出るようになった。生産性の計算は複雑だが、これも入力すれば生産性要件を満たしているかを確認できる厚生労働省のサイトが用意されている。それを活用してもいい。
なお、派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用した場合には、有期雇用者を正規雇用に転換する場合より高い85.5万円が支給される。派遣労働者からの切り替えでは、派遣就業場所ごとの同一業務にて6ヶ月以上の期間継続して労働者派遣を受け入れていた事業主であることが条件。6ヶ月間のうち、別々の人物が入れ替わりで働いていた場合にも対象となる。例えば、Aさんが最初の2ヶ月、Bさんが次の3ヶ月、Cさんが次の1ヶ月働いていた場合にも、対象となる。この場合には最後のCさんが正社員化の対象となる。
正社員化する過程において、正社員に求められるスキルを備えた人材を育てる人材育成を行っている企業もあるだろう。ここで、キャリアアップ助成金の中の一つのコースとして人材育成コース(有期実習型訓練)を紹介する。
人材育成にはOJTとOFF-JTがある。OJTとは、適格な指導者の指導の下、事業主が行う業務の遂行の過程内における実務を通じた実践的な技能およびこれに関する知識の習得に係る職業訓練。OFF-JTとは、生産ラインまたは就労の場における通常の生産活動と区別して業務の遂行の過程外で行われる(事業内または事業外の)職業訓練。いわゆる「座学」だ。
これを利用するには、作るのに手間がかかるが、ジョブカードの作成が必要。OJTとOFF-JTの割合については、OJTの割合が多い方が実施しやすい。実施報告書は、現在のルールとしては手書きになる。出勤簿と報告書の日時が一致していること。講師については、別の助成金でも講師になっている場合は、スケジュールの付け合せをされるので注意。人材育成コースは不正受給が比較的多いため、抜き打ち調査が入りやすい。人材育成コースから正社員化するコースの流れの場合は、最短で入社から3ヶ月後経過後に正規雇用転換ができる。
正社員化コースは、1人登用するごとに申請でき、年間15人まで申請できる。人材育成・登用試験を行う効率を考え、統一した時期に正社員登用する企業もあるだろう。その場合には、同じ時期に複数の対象者をまとめて申請することになる。
助成金を獲得する㊙ポイントとしては、助成金の支給決定権者を知ること。キャリアアップ助成金は、役所の窓口に行かなければ申請できない。その際、担当者によって審査の基準に温度差がある。申請する時には、担当者の反応も見ながら行うといい。ただ、一見厳しそうな担当者であっても通る場合もあるので、あきらめずチャレンジしてみてもいいだろう。次に、取りやすい助成金を狙うこと。制度改正に関する情報は前触れなく、突然変更・更新されていることも多いので、最新情報を正確に捉えて、随時バージョンアップすること。社内における労使の協力体制も重要だ。
東京都正規雇用転換促進助成金
キャリアアップ助成金を申請し、それが東京都にある事業所であり東京都内で勤務する労働者が対象である場合に、キャリアアップ助成金に上乗せして支給される。支給額は一人当たり最大50万円。国のキャリアアップ助成金と違い、東京都の窓口に行かず郵送での申請も可能なので、手間が少ない。ただ、申請してチェックされるポイントがかなり細かい。また、都税の滞納歴が無いことも要件となる。この助成金は平成29年9月29日をもっていったん終了となった。しかし好評だったので、再度行われる可能性がある。
中小企業両立支援助成金
中小企業を対象に、仕事と家庭の両立支援を趣旨とした助成金。女性従業員が妊娠し休業(産前休業・産後休業・育児休業)を経て職場復帰する場合に支給される育児休業等支援コース、男性従業員の育児休業取得者を対象にした出生時両立支援コースがある。女性従業員の場合は、ただ妊娠・出産を機に休ませるだけでなく、職場復帰プランを作り、面談を重ねることもポイント。
特定求職者開発助成金(特開金)
障害者や60歳以上の高齢者やシングルマザーなど就職が難しいとされる方を、ハローワーク等を通して新たに採用すると支給される。ただこれは対象者が限定される。雇い入れる前に計画書を作ることも必要だ。採用できる対象者がピンポイントで現れれば申請支給できるが、対象者がより限定されない助成金の方が使いやすいだろう。我々の事務所にこの助成金の申請に関する依頼がある場合は、高齢者やシングルマザーが対象になっていることが多い。
65歳超雇用推進助成金
65歳以上への定年の引き上げ、定年制の廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかを導入した事業主に対して支給される。