日本翻訳連盟(JTF)

「翻訳の日」連動企画 パネルディスカッション
災害時の多言語支援~多文化共生社会に向けた取り組み~

第 1 回:多言語支援に関わる団体の活動、翻訳・通訳者の意識

9 月 30 日の「翻訳の日」を記念して、2024 年同日、災害時の多言語支援に焦点を当てたパネルディスカッションが公開されました。今年 1 月 1 日に発災した石川県での大地震や、増加する水害など、日本での災害が相次ぐ中、在日・訪日外国人の方々への支援はますます重要な課題となっています。このディスカッションでは、多文化共生社会における災害時の多言語支援の現状について、立場の異なるパネリストが各自の視点から意見を交わし、今後の課題や展望を議論しました。その模様を採録編集し、3 回に分けてお届けします。

初回は、各パネリストの取り組みを紹介するとともに、事前に実施したアンケート調査の結果をもとに、翻訳・通訳者の災害時の多言語支援に関する意識について考察します。

◎パネリスト
一般財団法人自治体国際化協会(クレア)多文化共生部 多文化共生課課長 滝澤正和
ランゲージワン株式会社 執行役員 多文化共生推進ディレクター カブレホス・セサル
一般社団法人日本翻訳連盟理事/第 33 回 JTF 翻訳祭 2024 実行委員長/個人翻訳者 中野真紀

◎ファシリテーター
一般社団法人日本翻訳連盟会長(JTF)/株式会社翻訳センター 代表取締役社長 二宮俊一郎

第 1 回:多言語支援に関する団体の活動、翻訳・通訳者の意識
第 2 回:発災時の支援と事前準備の現状
第 3 回:多言語情報をどう届けるか

●はじめに

二宮:皆様、こんにちは。翻訳の日を記念して、パネルディスカッションを開催いたします。私は、本日ファシリテーターを務めます日本翻訳連盟の二宮俊一郎と申します。よろしくお願いいたします。

本日のテーマは「災害時の多言語支援」です。皆様もご存知の通り、現在、日本には多くの外国人の方が訪れていますし、居住される方々も増えてきております。英語を母国語とされない方々もたくさんいらっしゃっています。

また一方で、災害の発生頻度も増加してきているように思います。今年1月には能登半島地震が発生し、甚大な被害をもたらしました。8月には日向灘沖地震が発生し、南海トラフ地震情報も発表されました。地震だけでなく、台風をはじめとした風水害も大きな被害をもたらしております。被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

日本に日本語を理解されない方々が多くいらっしゃる現状において、被害を少しでも軽減するために、外国語を専門とする我々に何ができるのでしょうか。

本日は、災害時の多言語支援において、翻訳者、通訳者、あるいはベンダーである我々に何ができるのかを考えるきっかけをご提供したいという思いで、パネルディスカッションを開催します。

●パネリスト紹介

二宮:本日参加していただきますパネリストの方々をご紹介します。まずは、主に行政の立場で多文化共生促進に取り組んでいる、一般財団法人自治体国際化協会、多文化共生部多文化共生課課長の滝澤正和さんです。滝澤さん、ひと言ご挨拶をお願いします。

滝澤:自治体国際化協会、多文化共生課の滝澤でございます。当協会は、全国の自治体の共同組織として、地域社会の国際化に向けて取り組んでおります。外国人の住民が地域社会の一員として共に生きていくため、多文化共生のまちづくりに取り組む自治体や地域国際化協会の支援を行うなどの活動をしております。本日はどうぞよろしくお願いします。

二宮:続いて、多文化共生促進の実務に携わっている方をご紹介いたします。株式会社ランゲージワン執行役員、営業部多文化共生推進ディレクターのカブレホス・セサルさんです。セサルさん、よろしくお願いします。

セサル:ご紹介に与りましたランゲージワンのセサルと申します。弊社ランゲージワンは、多文化共生社会の中で欠かせない通訳サービスや翻訳サービスなどを提供している会社です。ひと言でいうと多言語コンタクトセンターの運営をしておりまして、クライアントからのニーズに応えるために、私のような通訳者が50名ほど、1つのコールセンターで待機しています。後ほど詳しく説明させていただきます。本日はよろしくお願いします。

二宮:最後に、オンラインでご覧いただいております皆様とおそらく同じ立場にいらっしゃる方として、翻訳者の方にご登壇いただきます。日本翻訳連盟(JTF)理事で個人翻訳者の中野真紀さんです。中野さん、よろしくお願いします。

中野:JTF理事でフリーランス翻訳者の中野と申します。今年のJTF翻訳祭の実行委員長も務めております。今年の翻訳祭は会場が石川県になりますが、私の出身地でもあり、先ほど二宮会長のお話にもありましたように、今年の年明け、甚大な地震の被害に見舞われました。その際、私もいろいろな方から安否を気づかうご連絡をいただきました。私自身は家族も含めて特に問題はなかったのですが、そういった状況の中で日本語がわからない方はどうしているんだろうということがすごく気になりましたので、本日、この機会にそうしたお話を伺えるのを楽しみにしております。よろしくお願いします。

左から中野真紀氏は、カブレホス・セサル氏、滝澤正和氏、二宮俊一郎氏

国際化推進支援のための自治体共同組織:一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)

二宮:それでは、各団体についてもう少し詳しいご紹介をいただきたいと思います。まず、滝澤様からお願いします。

滝澤:当協会の概要について説明します。一般財団法人自治体国際化協会は、自治体の国際化推進を支援する等を目的とする自治体の共同組織として、1988年に設立されました。英語名Council of Local Authorities for International Relationsの頭文字を取って、略称をCLAIR(クレア)と言っております。

全国47都道府県、20の政令指定都市に支部があります。東京の本部には、次のような部署があります。

・自治体の海外における経済活動や、日本と海外の自治体の姉妹交流をはじめとした国際交流活動の支援などを行う「交流支援部」
・多文化共生社会を目指した地域づくりを支援する「多文化共生部」
・地方自治体などが外国青年を招致し、外国語教育の充実や地域レベルでの国際交流を推進するJETプログラムを実施している「JETプログラム事業部」

また、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、ソウル、シドニー、北京の7つの海外事務所があり、海外の地方行財政制度や地域活性化のための方策に関する情報収集、提供などを行っています。

多文化共生部の取り組みについて、もう少し詳しく説明します。CLAIRの多文化共生部では、下図のような、大きく5つの取り組みを行っています。

1つ目は、情報提供、災害対応支援です。本日は災害時の多言語支援がテーマですので、こちらにつきましては後ほど改めて詳細を説明させていただきたいと思います。

2つ目は、多文化共生の政策立案支援です。自治体等の先進的な施策に関する助成などを行っています。3つ目として、担い手の育成、連携の支援も行っています。人材を育成するための研修を実施したり、連携を促進するための取り組みを行っています。4つ目として、NGO、NPOとの連携、5つ目として、地域の中核的な民間国際交流組織である地域国際化協会の活動支援なども行っております。

また、FacebookやXを活用した情報発信を行っています。CLAIRの取り組みや多文化共生に対するイベントなども発信していますので、ぜひフォローなどしていただければと思います。

クライアントと外国人間の通訳を行う多言語コールセンター:ランゲージワン

二宮:続きまして、セサルさんからランゲージワンのご紹介をお願いします。

セサル:ランゲージワンは、多言語コンタクトセンターとなります。設立自体は2015年4月ですが、実はグループ会社の中で、2011年10月から多言語事業部として始まっております。

我々のコールセンターのことを、Multi-Language Operation Centerの頭文字を取ってM-LOC(エムロック)と呼んでいます。365日24時間運営し、日本語を含め14言語の通訳対応をしています。非常に高いセキュリティのコールセンターであり、通訳経験が豊富な通訳者が多くいることが特徴です。他には、クライアントと外国人利用者の利便性を考慮したソリューションを提供しております。

サービス概要として、弊社では業種的に幅広く通訳サービスを提供させていただいています。利用方法としては、「サービス概要」の図の真ん中下方に「マルチチャネル対応」と書いてありますが、電話、メール、チャットなどのツールを使って利用することが可能なセンターとなっています。対応言語は右側に記載した14言語となっています。

次に、サービスメニューの主な内容を説明いたします。

まず「サービスメニュー①」の図の左側が三者間通訳です。クライアントまたは団体の職員、外国人利用者、その間に入る私たちランゲージワンの通訳者、この三者間で対応させていただくシーンとなります。主な通訳形態は、逐次通訳となります。

使われるシーンとして、クライアントの受付窓口に外国人が来訪した時、外国語対応が必要な際に私たちのセンターへ発信いただき、スピーカーフォンでの通話などで外国人と受付窓口の間の通訳サービスを行います。この図は「二地点三者間通訳」を表していますが、三地点三者間通訳、三地点四者間通訳、四地点四者間通訳のシステムもあり、すべて電話での接続となります。

図右側の「AIハイブリッド通訳」は、タブレット端末上に、自動翻訳と私たち通訳オペレーターの顔が表示され、ハイブリット型の映像通訳サービスを実現します。まずは自動翻訳にて対応し、対応しきれない場合にオペレーターに接続して対応いたします。自治体、病院の受付カウンターなど、対面での外国人対応にご好評をいただいています。

「サービスメニュー②」図の「電話一次受付」は、最近弊社で力を入れているサービスです。外国人が日本人の従業員とお話する際に、共通の言語がないので少なからずストレスが発生することがあるかと思います。そのストレスを解消するために、我々が先に外国人利用者から電話を受けて、然るべき担当者に三者間設定して通訳させていただいております。

さらにその利便性を向上させたものが、「サービスメニュー③」図の「Qlick LinQ(クリックリンク)」というサービスになります。クライアントのWEBページにリンクを貼っていただいて、そのリンクから弊社の通訳コールセンターにつないでいただく形となります。これにより、外国人利用者が受付に来場することなく通訳サービスが利用できます。

右側は、今まで受付カウンターで、タブレットを使って提供させていただいていたサービスの代わりに、QRコードでご連絡いただく通訳サービスです。受付側ではタブレットの準備や操作方法の説明が不要となり、利用者はスマホ等でQRコードを読み込んで通話料無料で利用することができます。

他にもいろいろなサービスを提供しているのですが、今回このイベントに関連するものとしては、災害時に被災地の避難所や、外国人被災者と支援者の中に我々が入って通訳サービスを提供しておりますので、また後ほど詳しくご説明します。

個人、企業、団体会員からなる産業翻訳通訳の業界団体:日本翻訳連盟(JTF)

二宮:最後に、私から日本翻訳連盟(JTF)の紹介をさせていただきます。一般社団法人日本翻訳連盟は1981年に設立されました。現在、翻訳者、通訳者を中心とした個人会員が625名、翻訳通訳会社や翻訳支援システム、機械翻訳ベンダーの方々、あるいはクライアント企業からなる法人会員が184名加入しています。

主な活動として、JTFほんやく検定、セミナー、JTFジャーナルの発行、翻訳祭の開催、業界調査、求人情報の発信等を行っています。まだ未加入の方がいらっしゃいましたら、ぜひ加入をご検討いただければと思っております。

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