日本翻訳連盟(JTF)

「私の通訳者デビュー」古賀朋子さん編

第6回(最終回):フリーランスは「自分はどうしたいのか」を考えながらやっていく仕事

フリーランス日英同時通訳者、古賀朋子さんの「私の通訳者デビュー」を、松本佳月さんが主宰するYouTube「Kazuki Channel」からインタビュー記事にまとめて、6回連載で紹介します。最終回は、クライアントとレートの変遷、月の平均受注数、これから通訳者、フリーランスを目指す人へのメッセージなどをお話いただきました。
(インタビュアー:松本佳月さん、酒井秀介さん)

●クライアント、レートの変遷とコロナ禍の影響く

酒井:2年弱フリーランスとしてやってきて、最初の頃にお取引が多かったクライアントやエージェントと、現在のそれとを比べると、どれくらい入れ替わりましたか。それから、具体的な金額はさておき、古賀さんの体感で、レートはどれぐらい変わったんでしょうか。

古賀:まず、入れ替わりはあります。最初の頃はすごく受けていたけれど、今はほとんどお受けしていない会社もあります。また、以前私がいた会社から直で受けることになった案件があって、それが今は結構多いです。そこでレートを結果的に押し上げている部分があるので、体感でどれぐらい上がったかというと、数千円ぐらいですか。2000~3000円くらいかな。

酒井:そんな感じですか。イメージとしてはもっとなんですが、それも調べてみると面白いかもしれませんね。

松本:通訳者のレートって、1時間いくらとか、そんな感じなんですか。

古賀:もともと通訳者のレートは、半日もしくは全日で出すんです。

松本:そういう単位なんですか。

古賀:半日だと4時間以内とか、全日だと7時間と言ったり8時間と言ったりするんですけど、そういう単位だったんです。でも、コロナ禍になって、遠隔通訳が増えてきた時に、短い会議がすごく増えたんです。

松本:現地に行かないしね。

古賀:通訳者からするとちょっと意味がわからないんですが、「移動しなくなったから半日レート払わなくていいよね」みたいな話が出てきて。もちろん単に全体のコストを下げたいという望みもあるんでしょうけど、遠隔がどんどん普及してきて、「1時間いくら、2時間いくらでやりますか?」という質問が出てくるようになったんですよ。

だから、その1時間、2時間という案件を下がったレートで受けるかどうかというところがあります。これは通訳者ごとに対応も違うし、もしかしたらひとりの通訳者の中でも、ここの会社からはそういう仕事も受けるけど、ここからは受けないということもあるかもしれません。

松本:古賀さんのポリシーは、ここの会社からは受ける、受けないと臨機応変に対応する感じですか。

古賀:そうですね。でも受けないことのほうが多いです。

松本:時間給では受けない。

古賀:1時間いくらというのは基本的にはあまり受けませんね。1時間であっても、それに対して準備をする時間がありますので。もし聞かれれば「半日単位で」と言いますね。

松本:現地に行っていた時は、交通費は出たんですか。

古賀:交通費は、私の印象だと、東京に住んでいて東京の案件だと出ないことがほとんどです。もちろん東京都外とか、遠くに行くとなれば交通費は出るという会社が多いと思います。

自動車イベント通訳中(写真はすべて古賀さん提供)
●意識的に休みを取るく

酒井:時期によって違うと思いますが、だいたい月に何件ぐらい、もしくは何日ぐらい稼働しているのでしょうか。

古賀:何件という数え方ですが、例えばある会社の案件で、3日間の会議の場合、それは1件ですか、3件ですか。

酒井:3件にしておきましょうか。

古賀:3件とすると、今の状況で言うと、今月(8月)は現時点で26件、7月は25件。3月と6月がすごく忙しくて、3月36件、6月34件です。

松本:それじゃあ、月にまるまる1日休みの日はありますか。

古賀:あまりなかったんです。でも、最近それじゃいけないと思って、受けられるだけ受けていたのを改めようと努力しています。最近はたまに「ああ、土曜も日曜も休んだ。奇跡的!」みたいな感じの時があります。先月、今月はそこをすごく意識して、休みをきちんと取ろうと思ってやっていたので、前よりは休めています。

酒井:分野的な割合はどうですか。今、多い分野はありますか。

古賀:やっぱり自動車と製薬が多いですね。あとはバラバラではあるんですけど、ただ、ここ数年の流れとしてはエネルギーなども増えてきています。それからダイバーシティーなどがちょっと増えているかなという印象です。

バリ島のランプヤン寺院
鹿児島旅行
●何事も自分で決断する覚悟をく

松本:最後に、これから通訳者を目指す方、またこれからフリーランスになりたいと思っている方たちに向けて、どういうアドバイスがありますか。

古賀:フリーランスになって思ったことは、決めなければいけないことがたくさんあるということでした。自分が事業主で、やるもやらないも、引き受けるも断るも自分の自由です。ものすごく自由がある一方で、大きなことから小さいことまで日々決断をたくさんしなければいけない。それがすごく大変だなと思ったことの一つです。だから、そういう覚悟を持ってフリーランスになっていただくといいんじゃないかなと思います。

松本:一国の主ですからね。会社に属していると受け身の姿勢になってしまいがちじゃないですか。待っていれば仕事が来るから。でも、フリーランスはそうじゃないというのはやっぱり大きいですか。

古賀:そうですね。私が個人事業主としてどう変遷してきたかを酒井さんは知っているわけですけど、やっぱり最初の頃は、決められないとまでは言わないけれど、どこか人に頼るというか、「どうですかね?」と人に聞いて、人の意見によって自分の道を決めようとするところがあったと思います。

特にいろいろお話するようになった最初の頃は、酒井さんから「古賀さんはどうしたいんですか?」という問いをすごくもらいました。当たり前のことなんですけど、そうやっていざ問われると、「そうだよね、私はどうしたいんだろう」ということをすごく考えるようになります。会社員はそういうことを考える余地があまりないと思うんです。言われたことを言われたようにやるのが優秀な会社員だと思うので。

でも、フリーランスはそうではなくて、自分はどうしたいのかとか、どこに行きたいのかとか、それをすごく考えながらやっていく仕事だと思います。それがすごくいいところ、楽しいところかなと思うので、そういう気持ちでフリーランスになっていただけたら嬉しいなと思います。

●悩んだ時に相談できる場を持つく

松本:酒井さん、最後に何かありますか。

酒井:そうですね。カセツウで相談を受けたいっていう人が増えちゃうな。

松本:いや本当に。悩んだ時に相談できる人がいるのは心強いし、自分がどうしたいのかをひとりで悩んでいるよりも、話すほうが効率がいい。こういう言い方が合っているかどうかわからないけど、とってもいいと思います。

古賀:私はもともと、石橋を叩いて渡らない性格なんですよ。

松本:渡らないのね。

古賀:そう。それが一つあります。それから、酒井さんが「こういうことをやったらどうですか」と言ってくれた時に、「それをやったらどういうメリットがあるんですか」って、すぐ聞いていたんです。この問いかけを酒井さんに何度もしたと思うんです。つまり、目に見えやすい、割とすぐ分かりやすい結果が想定されてないとやらない。もしくは慎重になりすぎてやらない。そんなふうだったと思います。

でも、酒井さんにいろいろ聞いていただくようになって、「とりあえずやったらいいじゃないですか」「やってみて効果があるかもしれないし」と言っていただいたことで、前ほど考えてばかりいて何もしないみたいな感じではなくなったなと感じています。

もちろん仕事がメインではあるんですけど、プライベートにおいても、「とりあえずやってみるか」という精神が、前よりはあるような気がします。それもありがたいところだと思っています。

酒井さんのクライアントの通訳者を対象に開いた Zoom 説明会にて
今回のインタビューを行った松本佳月さん主宰のYouTube「Kazuki Channel」

松本:そう、仕事だけじゃないんですよね。自分が悩んだ時に、「これ、酒井さんに相談したら絶対こう言うだろうな」というのが自分の中で勝手にあって、相談する前に解決しちゃうとか。古賀さんとふたりでご飯を食べながらしゃべっていて、「これ、サカイズムだよね。なんか私たち染まってる?」みたいな。いい意味でね。

それから、カセツウさんのグループセッションなどで、たまに古賀さんと一緒になったりすると、みんながいろいろ質問を投げたりする時に、酒井さんが答える前に私たちが答えちゃったり。ごめんなさい。でもそれって、なかなか面白いなって思いますね。

古賀:そうですね。イズムが浸透しているんだと思います。

松本:そうです。こんなご縁をいただいたのも嬉しいことですね。この三人が出会ったことも、とってもよかったと思います。古賀さん、どうもありがとうございました。

古賀:ありがとうございました。

「KazukiChannel」2022/09/01より)

←第1回:大学在学中のボランティア通訳がきっかけ
←第2回:秘書兼翻訳者、英会話学校講師を経て、アメリカの大学院へ
←第3回:大学院卒業後、アラバマの自動車工場の社内通翻訳者に
←第4回:米国から帰国、4社で社内通翻訳者を15年経験した後、フリーランスに
←第5回:コロナ禍を経て、フリーランスとして多忙な日々へ

◎プロフィール
古賀朋子(こが ともこ)
日英同時通訳者
千葉県生まれ。神田外語大学外国語学部英米語学科を首席卒業(GPA:3.95)。モントレー国際大学院(現ミドルベリー国際大学院)通訳翻訳学科にて会議通訳修士号取得。大学在学中から秘書兼翻訳者として勤務。英会話学校で講師、主任講師を歴任。大学院卒業後はアメリカのアラバマ州の自動車工場にて通訳翻訳者として勤務。帰国後、製薬会社、損害保険会社、MLM企業にて通訳翻訳者を務める。社内通訳者歴15年。2020年からフリーランス通訳者として活動。共著に『同時通訳者が「訳せなかった」英語フレーズ』(イカロス出版)。趣味は旅行、BTS、韓国語学習。

◎インタビュアープロフィール
松本佳月(まつもと かづき)
日英翻訳者/JTFジャーナルアドバイザー
インハウス英訳者として大手メーカー数社にて13年勤務した後、現在まで約20年間、フリーランスで日英翻訳をてがける。主に工業、IR、SDGs、その他ビジネス文書を英訳。著書に『好きな英語を追求していたら、日本人の私が日→英専門の翻訳者になっていた』(Kindle版、2021年)『翻訳者・松本佳月の「自分をゴキゲンにする」方法:パワフルに生きるためのヒント』(Kindle版、2022年)。

酒井秀介(さかい しゅうすけ)
通訳者/翻訳者向けの勉強会コミュニティ「学べるカセツウ」を主催。辞書セミナーや英文勉強会などスキルアップ関連をはじめ、キャリア相談、実績表やレート設定等のコンサル、目標設定コーチング、交流・雑談会、カラダのメンテナンス、弁護士や税理士相談会等、通訳翻訳以外のテーマも幅広く開催。詳細はXアカウントhttps://x.com/Kase2_Sakaiを参照。
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