第33回JTF翻訳祭2024
「ことばを伝える ― 情報、技術、文化、そして心を伝える」を振り返って
報告者:大会実行委員長 中野真紀

昨年に引き続き2度目のハイブリッド開催、そして初の地方開催となった第33回JTF翻訳祭2024が無事に終了しました。
開催地となった石川県は、2024年元日に能登半島地震、さらに9月には奥能登豪雨と立て続けに大きな災害に見舞われました。一時は翻訳祭の開催も危ぶまれたものの、復興に向けた取り組みが広がるなか、10月24日(木)・25日(金)の2日間にわたって、当初の予定どおり、金沢市文化ホールで開催することができました。
当日は晴天にも恵まれ、ご参加いただいた皆さまには、翻訳祭だけでなく古都の趣と新しい文化の躍動が融合した金沢の街を楽しんでいただけたようで大変うれしく思っております。また、この翻訳祭金沢開催が、石川県の復興に少しでもお役に立てたのであれば、喜ばしいかぎりです。


初日の基調講演には、石川県にゆかりのある芥川賞作家であり、言語とコミュニケーションを活動のテーマとされている九段理江氏をお迎えし、今回の翻訳祭のテーマ「ことばを伝える」に合わせた、「『ことば』の力を信じて」というタイトルでご講演いただきました。
講演および質疑応答では、受賞作や著作活動についてのみならず、ことばや翻訳に対する考え、石川県の思い出、筋トレや日常生活と多方面に話が及び、あたたかく和やかな雰囲気のなか、たくさんの刺激を受けるすばらしい機会となりました。
同日晩に金沢ニューグランドホテルで開催された交流パーティーには、うれしいことに、会場の収容人数の上限に達するほどのお申し込みをいただきました。
少しでも開催地にちなんだ特色をと、石川県の地酒を10種類ご用意させていただいたところ、大変好評で、すべてを飲み比べされ、気に入ったお酒を翌日お土産として購入された方もたくさんいらっしゃったようです。九段理江さんをはじめ、登壇者の皆さまにもご参加いただき、熱気に包まれた会場では、各所で大いに話が盛り上がっていました。
コロナ禍以降、オンラインのみで完結するイベントが増えました。たしかに便利ではありますが、こうして一堂に会して久しぶりに会う方々と旧交を温め、また新たなつながりを築ける交流の場は、何物にも代えがたい大切な機会であるとあらためて実感したひとときでした。

交流パーティー



乾杯の音頭

中野大会実行委員長
2日目のセミナーでは、石川県を拠点に活躍されている翻訳者や経営者のほか、出版翻訳者、AI・LLM翻訳の専門家、映像字幕翻訳家としても活躍されているお笑い芸人の方など、多彩な顔ぶれの登壇者にさまざまなテーマについてお話しいただきました。
今回、新しい試みとして初めて実施した「翻訳ミニコンテスト」は、応募いただけるのが会場参加者のみであったにもかかわらず、大変多くの方に挑戦いただきました。当日の訳文講評や講師の解説は、応募した人だけでなく、予習なしに初めて課題を見た人でも学ぶところが多く、アンケートでもたくさんの方にご好評をいただきました。
金曜の夕方に会場開催が終了したあとも、金沢の街のあちこちでさらに交流を深めたり、そのまま週末まで滞在して観光されたりした方がたくさんいらっしゃったようです。

入場制限になるほど盛況

視点で考える AI 翻訳活用法

通訳・翻訳の地域戦略~金沢から考える

求む名訳 英日翻訳コンテスト
10月29日からは、基調講演とスポンサーセミナーを除く会場開催プログラムの録画のほか、多岐にわたるセミナーも追加してオンデマンド配信が開始されました。
オンデマンド専用プログラムも、日本語のポイント、原稿や翻訳の品質管理、特許・医療・IR、さらには音訳の世界まで多彩なラインナップとなり、1ヵ月にわたってそれぞれご都合のよい時間に皆さまにご視聴いただきました。
オンデマンド配信は当初は11月30日までの予定でしたが、途中システム障害があり半日ほどご視聴いただけなくなってしまったため、最終的に1日延長して12月1日までの配信となりました。その際は、ご参加いただいた皆さまには大変ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げます。
このシステム障害以外では、初の地方開催となった金沢の2日間も含め、すべてのプログラムを大きなトラブルなく大盛況のうちに終えることができました。ご参加いただいた皆さま、関係者各位に心より感謝申し上げます。
ただ、いくつかの課題も残りました。これらは2025年の翻訳祭につなぎたいと思います。引き続き日本翻訳連盟へのご支援、ご指導の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
このあとにJTFジャーナルでは、第33回翻訳祭2024より石黒圭氏(国立国語研究所教授)の講演「接続詞の考え方・使い方」を掲載予定ですので、どうぞお楽しみに!