第 34 回 JTF 翻訳祭 2025「開港の地で、翻訳・通訳の未来を切り拓く」を振り返って
第 34 回 JTF 翻訳祭 2025 実行委員長 石川 弘美
この度、第 34 回 JTF 翻訳祭 2025 を無事に終えることができました。横浜という歴史的な開港の地を舞台に、今回のテーマ「開港の地で、翻訳・通訳の未来を切り拓く」を設定し、業界の未来を照らす講義と交流が繰り広げられました。
コロナ禍という未曾有の状況がもたらした変化は、私たちの生活様式やイベント開催のあり方に大きな影響を与えました。その影響を受け、過去 2 回の翻訳祭ではオンラインとリアル開催を並行して行いましたが、今年はこれまでの経験を踏まえつつ、リアル開催をオンデマンド配信後に位置付けました。
この意図は、オンデマンド配信を通じて参加者の皆さまが事前に共通の認識を共有し、それを基盤にリアルで集う皆さまがより深くお話できるようにするためです。翻訳祭は、知識の共有だけでなく、業界内のつながりを深める場でもあるべきだと考えています。

●オンデマンド配信セミナー
リアル開催に先立ち、オンデマンド配信を 2025 年 10 月 1 日(水)から 10 月 31 日(金)まで、ちょうど 1 か月行いました。JTF の会員には、翻訳者・通訳者のみならず、翻訳会社、通訳会社、ツールベンダーなど、多様な立場の方々が含まれています。この多様性を活かし、プログラム委員の皆さまには、業界のあらゆるステークホルダーにとって有益となる、バランスの取れたプログラムを構成いただきました。
翻訳・通訳の各分野に関する専門セミナーをはじめ、プロジェクトマネージャーの役割を紹介するセミナー、発注企業の視点を共有する講演など、多面的な企画を展開しました。これらが皆さまの日々の業務に少しでも寄与し、スキル向上の一助となっていれば幸いです。
●会場開催セミナー
リアル会場は 2025 年 11 月 5 日(水)、国の重要文化財である横浜市開港記念会館(通称:ジャックの塔)にて、午前 10 時より開催いたしました。赤レンガと花崗岩が織りなす歴史的建築の空間が、翻訳祭にふさわしい重厚な雰囲気を醸していました。
開会にあたり、経済産業省・関様より、産業界における翻訳・通訳の重要性について力強いご挨拶を賜りました。続く JTF<ほんやく検定>1 級合格者の表彰式は、厳粛かつ晴れやかな空気に包まれ、本年度の翻訳祭の幕開けとして華を添えました。

基調講演では、言語心理学者の今井むつみ様が「AI 時代に求められる言語力」をテーマに登壇され、認知科学の観点から AI と人間の言語能力の本質的な相違について示唆に富むご講演をいただきました。急速に発展する AI 技術が生成する文章と、人間が身体性と経験に基づき構築する意味との相違を明確に示され、参加者に多くの示唆を与える内容となりました。
特別セミナーでは、漫画家・シナリオライターの川合円様より「幕末通詞に学ぶことばの力」と題し、横浜ゆかりの幕末の通訳者・森山栄之助を取り上げ、当時の通詞の役割や修学法をご紹介いただきました。
時代やテクノロジーが変わろうとも、通訳に求められる資質には普遍性があることが示され、参加者の心に強く響く内容となりました。

●リアル開催ならではの特別企画
リアル会場にお越しいただく皆さまに、対面ならではの価値をお届けするため、以下の企画を実施いたしました。
「翻訳会社社長対談 ―経営者視点で見る翻訳業界―」
業界を牽引する 4 社の代表が登壇し、その場だからこそ語られる率直な意見交換が繰り広げられました。

「英日翻訳ミニコンテスト 入賞者発表&講評」
JTF 副会長の高橋聡氏より、応募作品に対する詳細な講評を頂戴しました。難度の高い課題であったため、応募者の皆さまも腕を試される機会となったようです。

「ゆるっと名刺交換会~翻訳祭スペシャル~」
会場参加者が気軽に交流できる場として、多くの自然な会話と新たなご縁が生まれました。

その他、スポンサーセミナーや、校正・翻訳理論に関する専門セミナーも開催し、多様な学びを提供しました。
また、ネットワーキングの充実を図るため、初参加の方にも親しみやすい場として、非公式の少人数前夜祭を実施いたしました。事前の交流を通じて、当日の会場でもリラックスしてご参加いただけたとの声を多く頂戴しました。
これらの取り組みが少しでも業界内のネットワーキングの役に立っていれば幸いです。
●展示会場
会場 1 階の展示スペースでは、ダイヤモンドスポンサー様・ゴールドスポンサー様による企業展示ブースを設置いたしました。出展企業は以下の通りです。
【ダイヤモンドスポンサー】
Plunet GmbH、RWS グループ(SDL ジャパン株式会社)、翻訳テクノロジー株式会社、memoQ Translation Technologies Ltd.、Phrase
【ゴールドスポンサー】
アイ・ディー・エー株式会社、株式会社アメリア・ネットワーク、株式会社ホンヤク社、株式会社インターブックス、株式会社コングレ・グローバルコミュニケーションズ、Word Connections sarl、日本特許翻訳株式会社、日本映像翻訳アカデミー、株式会社十印、株式会社知財コーポレーション、株式会社翻訳センター、株式会社アスカコーポレーション、株式会社サン・フレア

休憩時間になると多くの参加者が訪れ、会場は終始大いに賑わいました。最新の翻訳ツールをその場で体験される方、翻訳サービスについて具体的に相談される方など、どのブースも熱心なやりとりが続き、活気あふれる空間となりました。会場はやや手狭でしたが、休憩時間には多くの来場者で賑わい、参加者同士が情報交換をしたり、展示ブースを見て回ったりと、活気あふれる雰囲気となりました。
ご出展いただきましたスポンサー各社様、そして足をお運びいただきました皆様に、改めて御礼申し上げます。
●交流パーティ
交流パーティは、参加者の皆さまがゆとりを持って交流できるよう、広いスペースを確保したロイヤルホールヨコハマ「ヴェルサイユの間」にて開催いたしました。本パーティは、翻訳祭を支えてくださるスポンサー様の多大なるご協力のもと実現したものであり、当日はスポンサー様からのお言葉も頂戴いたしました。会場全体が前向きな空気に包まれ、参加者同士の活発な交流が生まれていました。


また、参加者の皆さまにお楽しみいただくため、事前キャンペーンとして抽選プレゼント企画を実施し、交流パーティ内で当選者の発表を行いました。関係者一同、頭をひねって賞品を選定したものですが、当選された方々に喜んでいただけていましたら幸いです。
●おわりに
最後になりますが、1 年間にわたりボランティアとしてご尽力くださった実行委員の皆さまに、心より御礼申し上げます。

また、スポンサー様、後援団体の皆さま、ご登壇いただいた皆さま、ご参加くださった皆さま、そして裏方として支えてくれた JTF 事務局の皆さまのご支援により、今年も充実した翻訳祭を開催することができました。課題もございましたが、これらを次回の改善につなげ、さらなる発展を目指してまいります。来年の翻訳祭も、変わらぬご支援・ご参加のほど、よろしくお願い申し上げます。
