「私の翻訳者デビュー」渡邉ユカリさん編
第5回(最終回):翻訳者を目指す方へのメッセージ
フリーランス英日・日英翻訳者、渡邉ユカリさんの「私の翻訳者デビュー」を、松本佳月さんが主宰するYouTube「Kazuki Channel」からインタビュー記事にまとめて、5回連載で紹介します。最終回は、これから翻訳者を目指す方へのメッセージをいただきました。
(インタビュアー:松本佳月さん)
●継続のためのモチベーション
松本:趣味でも勉強でも、今始めれば、3年後にはできるようになっていることもある。そういうふうに考えると、いくつになっても、70歳になっても80歳になっても、始められるよね。
渡邉:韓国語がまさにそうだわ。始めたかったけど、本を買っては2~3ページ読んで放っていたのが、Doulingoの連続記録を途絶えさせたくない、「こんなに続いてるのに、これでやめたらもったいない」という思いが、アプリに向かわせる強制力になっています。おかげでけっこう韓国ドラマが聞き取れるようになりました。
松本:わかるようになると楽しいからね。
渡邉:まだまだそこまではいかないけど、しゃべってみたら楽しいでしょうね。私の好きなパク・ソジュンのファンミーティングで質問してみたいんですよ。
松本:それっていい目標じゃない。すごいモチベーションだわ。
渡邉:ファンクラブに入っているんですけど、まだイベントなどに出たことがないんですよ。何年か前、たぶんコロナ前のファンミーティングの様子がアマゾンプライムにあがっていたんです。そこで、最後にファンが質問していて、質問者の3人目くらいが日本人で、その人が韓国語で話していたんです。それに「日本の方がそんな質問してくれて」みたいな感じで答えてて、「あ~いいなぁ。私も、あれやりたい」とか思って。
松本:やってやって!
渡邉:それが目標ですよ。こういう話していると元気が出ますね。
●「あと一歩前に出たらできる」
松本:時間を忘れちゃうよね。本題に戻って、最後にユカリさんから、これから翻訳者を目指す方に、何かメッセージをお願いします。
渡邉:私は英日が中心で、日英もやっていて、英語と日本語の翻訳者なんですけど、翻訳が上達するためには、英語の勉強だけ、日本語の勉強だけではなくて、訳す練習というのも一定量必要だということを言いたいです。
英語がすごくできる人は素養がすごくあるんです。日本語を書くのがうまい人も、理解した内容をちゃんと表現するための重要な要素があるんです。どちちも揃っているのに「私、翻訳がうまくないんです」と言って諦めちゃうのは、材料を持っているのに料理を作らないみたいな感じで、もったいないと思うんです。
素材を持っている人は、それを料理する練習が必要なので、何らかの方法――学校に通うのでも好きな本を見つけてやるのでも、自分に合った方法を探して見つけて、一定量の訓練をする時間を経て、「いける」と思ったら、翻訳会社に応募してほしいと思います。
残念なことに、いいところまで来て、あと少しのところで辞めちゃう人がすごく多いと思うんです。夢だとか手が届かないこととか思わずに、「もうあと少し、あと一歩前に出たらできる」ということを伝えたいです。
そんなに難しい、できない仕事ではないと思うんです。難しくないとは言えないけれど、夢ですとか憧れですとか、そういうもんじゃない。一定以上の訓練を積めばできる仕事だと思うので、頑張ってやってほしいですね。
松本:そうやって、ちゃんと登録できたら、その後また実際の仕事でどんどん鍛えられていくからね。それこそやってみないと実力はつかないので、やるしかないですね。
渡邉:やるしかないです。やっているうちにうまくなるというのは本当にあると思います。
●経験値の積み重ねが力に
松本:私たちでも、今でもそうじゃない。これからまだまだスキルを上げていかなきゃいけない仕事だから、まだまだこれで終わりじゃない。スキルを上げるのは日々の経験だし、失敗することももちろんあるけれど、その失敗は次に活かせばいい。一回失敗したことって忘れないじゃない。もう二度とこの失敗はしたくない、こういう間違いはしたくないという経験が積み重なっての今なので。
だから、失敗したら仕事が来なくなる場合もあるので「失敗を恐れずに」は言い過ぎかもしれないけど、そういうことを積み重ねて、どんどん仕事に活かしていってもらえればと思います。
渡邉:そうですね。経験値ですよね。「これって何て訳せばいいんだろう」とすごく悩んで悩んで、ひねり出して、「これがいいかも」という経験を通して、だんだん悩む時間が少なくて済むようになってくる。
最初の頃はたぶん、すごく時間がかかって訳して、「プロってこんななの?」と思うかもしれないけど、それを続けていると悩む時間が徐々に短くなっていくので、だんだん仕事になるような速度でできるようになるんですよ。
松本:辞書の引き方にしても調べ方にしても、だんだん効率よくできるようになってくるので、それはもうやるしかないわけですよね。
渡邉:そこになるまでには時間がかかるけど、今稼働している人たちもみんな、「こんなので仕事になるのかな」と思う時期を超えての今なんですよね。だから、そこまで行く前に手を離さないでほしいと思います。
松本:行き詰まったら、例えば、セミナーに行ってみるとか、翻訳学校に行ってみるとか、そういうことをすれば、もうちょっと効率よくたどり着く方法もあるからね。
渡邉:ルール的なことを教えてくれる講座もあるし、「こうやってやるといいよ」みたいなコツのようなものも、ないとは言えないので。
松本:ただ、学校に行けば翻訳者になれるわけではないから、そこは気をつけてもらいたいですね。行って、それをどう活かすかっていうことが大事。
渡邉:そうですね。自分がやるのが一番なんだけど、先生に教えてもらえると、より良い方法を学べたりするし。
松本:そうそう。プロになってから学校に行っても全然いいと私は思っています。どんどん行かれたらどうかな。
渡邉:単発の講座とかもあるしね。私も結構そういう講座を受けて、目からウロコだったこともありました。英訳もやるので冠詞のセミナーを受けたり、遠田和子先生のセミナーを受けたりとかしましたね。
松本:今日は、たくさん楽しいお話を聞かせてもらってありがとうございました。
渡邉:ありがとうございました。
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◎プロフィール

渡邉ユカリ(わたなべ ゆかり)
英日・日英翻訳者
愛知県名古屋市生まれ。愛知県立大学外国語学部卒。ホテル勤務、メーカーでの貿易事務職、社内翻訳者を経て2011年よりフリーランス翻訳者。現在は主に契約書・定款などの法律文書の他、会計・財務関係の報告書など、会社関連書類全般の英日・日英翻訳をてがける。金城学院大学非常勤講師(2017年〜、翻訳演習他担当)。JAT(日本翻訳者協会)会員。訳書にジョエル・レビー著『A CURIOUS HISTORY 数学大百科』『あなたも心理学者!これだけキーワード50』(浅野ユカリ名義)、ベン・リンチ著『DIRTY GENES ダーティ ジーン』他。著書に『翻訳者になるため、続けるためのヒント』(Kindle Direct Publishing)。
◎インタビュアープロフィール
松本佳月(まつもと かづき)
日英翻訳者/JTFジャーナルアドバイザー
インハウス英訳者として大手メーカー数社にて13年勤務した後、現在まで約20年間、フリーランスで日英翻訳をてがける。主に工業、IR、SDGs、その他ビジネス文書を英訳。著書に『好きな英語を追求していたら、日本人の私が日→英専門の翻訳者になっていた』(Kindle版、2021年)『翻訳者・松本佳月の「自分をゴキゲンにする」方法:パワフルに生きるためのヒント』(Kindle版、2022年)。