日本翻訳連盟(JTF)

検定合格者のその後

JTF ジャーナルでは、JTF<ほんやく検定>1~2 級合格者を対象に合格後のお仕事の状況についてアンケートを行いました。

検定をどのように活かしているのか、検定合格後にどのような活動をされて、お仕事を獲得されたのか、ご紹介しています。

JTF<ほんやく検定>受験を検討している方々はぜひご一読ください。

アンケートは以下の8項目です(2022年12月掲載時点)。

1)前職について教えてください。
2)翻訳者を目指そうと思ったきっかけや動機をお聞かせください。
3)翻訳者になるために行ったことや具体的な学習方法を教えてください。
4)JTF<ほんやく検定>を受験した理由は何ですか?
5)JTF<ほんやく検定>合格は仕事の受注に影響がありましたか?具体的に教えてください。
6)普段使用されている辞書やツール、お薦めの勉強会などありましたら教えてください。
7)「翻訳者になって良かった」と感じることを教えてください。
8)JTF<ほんやく検定>の受験者、また翻訳者を目指している方へ、アドバイスをお願いします。


笠川 梢

第64回 
英日翻訳
医学・薬学1級

第67回
日英翻訳
医学・薬学1級

メディカル、出版翻訳者。大阪生まれ、奈良育ち。
立命館大学政策科学部卒業後、オーストラリア語学留学や社内翻訳を経て、2005年からフリーランスで医療関連の主に英日翻訳に携わる。

最新訳書『ネイティブが教える日本人研究者のための国際学会プレゼン戦略』(講談社、共訳)。

1)前職について教えてください。

貿易関係の会社で輸出入関連の事務や、商品カタログの翻訳などをした後、製薬会社で派遣社員としてですが英文事務、後に翻訳を担当しました。

2)翻訳者を目指そうと思ったきっかけや動機をお聞かせください。

英語が好きで、高校生の頃から英語を使った職業に就きたいと思っていました。結婚するまでは大阪で英文事務や翻訳を派遣社員として続けたいと思っていましたが、遠方に転居することになり、地方でも英語を使った仕事を続けられる翻訳を選びました。

3)翻訳者になるために行ったことや具体的な学習方法を教えてください。

英語力を高めるために英検1級取得のための勉強をして、合格しました。並行して、翻訳学校の通信講座を受講して、その課題をしたり、推薦図書を読んだりしました。

4)JTF<ほんやく検定>を受験した理由は何ですか?

ほんやく検定は単なる英語の試験ではなく翻訳に特化していることに加え、自分が専門としたい医学・薬学の分野で受験することができたので、合格すれば自分の実力を客観的に示すことができると考えたからです。

5)JTF<ほんやく検定>合格は仕事の受注に影響がありましたか?具体的に教えてください。

よい影響がありました。それまで英検など英語関連の資格しか持っていなかったので、医薬分野の翻訳というさらに専門性の高まった領域でも仕事ができることが対外的に伝わりやすくなったと思います。信頼性が高まり、特に同業者からの問い合わせが増えました。

6)普段使用されている辞書やツール、お薦めの勉強会などありましたら教えてください。

イカロス出版から発行されているメディカル翻訳向けのガイドブックや『通訳翻訳ジャーナル』に掲載されている記事などを参考に辞書やツールを揃えています。英語学習や医療系のPodcastもよく聞いています。翻訳関係のセミナーや勉強会の情報は主にSNSで収集して、できる限り参加しています。

7)「翻訳者になって良かった」と感じることを教えてください。

田舎に住んでいますが、通訳や英文事務などの仕事があまりない土地で子育てと仕事を両立させつつ、地方で英語を使える仕事に就けていることによかったと思います。常に新しい英語表現や情報に触れられるところも魅力です。英語好き人間なので、英語の勉強が仕事に直結することがうれしいです。

8)JTF<ほんやく検定>の受験者、また翻訳者を目指している方へ、アドバイスをお願いします。

過去問を入手して、時間を計って訳す練習をしておいたほうがよいと思います。訳出や調査、見直しなどの当日の時間配分を事前に考えてシミュレーションをするとともに、解説をしっかりと読み、求められる訳語の傾向を知っておくことが合格への近道だと思います。応援しています!


鍋岡 奈津子

第72回 
日英翻訳 
医学・薬学
1級

フリーランス医薬翻訳者(日⇔英)。
札幌出身、福岡在住。
北海道大学大学院地球環境科学研究科修士課程修了。
企業等で化学分析や研究業務に従事。
2013年に副業として医薬翻訳業務の受注を開始、2014年に専業の翻訳者として独立し、現在9年目。
主に治験関連文書の英訳と和訳を受注しています。

1)前職について教えてください。

大学院修了後、化学分析を受注する会社で高分子材料の分析や研究業務に従事しました。この会社で英語を使用する機会は少なく、翻訳者になろうなどとは全く考えていませんでしたが、日本語の技術文書の書き方について容赦ない指導を受けたことが現在の翻訳者としての土台になっているような気がします。その後、公的な研究機関で画像解析や統計解析に関する研究業務に従事しました。この機関での業務がきっかけとなり、在職中に翻訳の学習を開始しました。

2)翻訳者を目指そうと思ったきっかけや動機をお聞かせください。

もともと英語は好きでしたが、大学入試が終わってからは必要最低限の英語学習しかしていませんでした。前職で英語論文を書くことになったときに、自分の考えていることを英語で正確に表現することができず、もどかしい思いをしました。そこで英語で技術文書を書く方法に関する書籍を多数読んだのですが、いつの間にか英文テクニカルライティングの魅力に取り憑かれ、「研究者や技術者が苦労して得た成果を英語でわかりやすく世界に伝えるためのお手伝いがしたい」という思いに至り、翻訳の道を志すことにしました。

3)翻訳者になるために行ったことや具体的な学習方法を教えてください。

会社員を続けながら、1年間でひと通り英語の復習をした後、医薬翻訳の学習を始めました。医薬の分野を選んだ理由は、それまでに培った化学全般、生体高分子、分析化学、統計解析などの知識と経験を活かせると感じたことと、自分自身病院に行ってお薬を処方してもらう機会が多く、一番身近で興味があったからです。なお、一般的に翻訳は和訳から始めるのが基本かと思いますが、私は上述のような経緯で翻訳を始めたため、英訳の学習に重点を置きました。主に、通勤時間と夜間に英語、翻訳、医薬に関する書籍やウェブサイトを熟読しましたが、私は医学薬学に関するバッググラウンドがないため、特に医薬に関する英語は書き写し、入力し、聴き、暗記し、英語と日本語の両方を脳に染み込ませるように努めました。その後、医薬翻訳の通信講座(英訳)を受講し、ネイティブチェックを受ける機会を増やして品質のさらなる向上を目指しました。

4)JTF<ほんやく検定>を受験した理由は何ですか?

地方在住のため独学と通信講座だけで翻訳学習を進め、翻訳のお仕事を開始したので、自分の実力を証明してくれるものが欲しいと思うようになり、ほんやく検定(医薬日英)を受験することにしました。最初の2回は3級合格でとても悔しい思いをしたため、半ば意地になってしまい、1級に合格するまでは医薬翻訳者として人生を終えることができないというくらいに考えていました。3回目の受験当日は朝から発熱してしまい、決して万全の状態とは言えませんでしたが、解熱剤のおかげで無事1級に合格することができました。

5)JTF<ほんやく検定>合格は仕事の受注に影響がありましたか?具体的に教えてください。

合格後は少し自信が生まれたのか(もともと自分に自信がないタイプです)、合格前より余裕をもってお仕事に取り組めるようになった気がします。また、合格者リストを見た翻訳会社からトライアルのお誘いをいただいたり、自分から応募した場合でもトライアル免除で登録させていただいたりすることがあります。

6)普段使用されている辞書やツール、お薦めの勉強会などありましたら教えてください。

必要と思われる辞書はひと通り揃えていますが、英訳のときに一番よく使う辞書はOxford Collocations Dictionaryです。また、イートモは医薬翻訳に関連する文例が豊富なのでおすすめです。

7)「翻訳者になって良かった」と感じることを教えてください。

翻訳のお仕事を始めて9年目にもかかわらず、まだまだ自分の実力不足を実感する場面が多く、また業界全体の先行きも不透明なため、「翻訳者になって良かった!!」と手放しで喜べるような状態ではありませんが、一生をかけて学習したいと思えるものを手に入れたという点では良かったと思っています(キラキラしたエピソードではなく申し訳ありません)。

8)JTF<ほんやく検定>の受験者、また翻訳者を目指している方へ、アドバイスをお願いします。

私は翻訳のお仕事を始めてから1級に合格しましたが、できればお仕事を始める前に1級に合格するくらいの実力はつけておいた方がいいと思います。私も合格して初めて翻訳者として本当のスタートラインに立てたような気がしています。学習中は本当に翻訳者になれるのか不安だと思いますが、その不安を解消するための道標としてほんやく検定を利用しても良いかもしれません。また、ベテランになると検定を受けづらく?なるかも?しれませんので、できれば早めに受験することをおすすめします。本気で合格したい場合は、ぶっつけ本番ではなく、過去問に目を通して傾向を把握し、本番での時間配分を考えておくと合格しやすくなると思います。また、私は英訳から翻訳のお仕事を始めましたが、後から一部の治験関連文書の和訳も受注するようになり、英訳と和訳の両方を手掛けることで相乗効果が得られることを実感しているため、翻訳者を目指している方は両方向の翻訳ができるように学習の計画を立てると良いのではないかと思います。


林 茉以子

第75回 
英日翻訳 
政経・社会 
1級

東京外国語大学英語学科及び中国清華大学大学院ジャーナリズム・コミュニケーション学院卒業後、中国北京の国際放送局にて記者/翻訳者として勤務。その後国連団体での広報担当を経て、現在は外国メディアの日本取材サポート及び自治体等に向けた海外広報のコンサルティング業務に携わっています。

【主な翻訳実績】
・国際機関のプレスリリース、報告書
・中国/欧米主要メディアのニュース記事、映像番組
・企業・団体、教育機関の広報資料

1)前職について教えてください。

約10年間、メディアや広報、国際協力の業界で翻訳を含む実務経験を積んでまいりました。

2)翻訳者を目指そうと思ったきっかけや動機をお聞かせください。

小さい頃カリブ海の島国プエルトリコに住んでいた際、多様な背景を持つ人々と関わり、交流することの面白さやすれ違いを経験しました。そのことがきっかけになり、人と人をつなぐコミュニケーションの仲介者になりたいと考え取り組んでまいりました。

3)翻訳者になるために行ったことや具体的な学習方法を教えてください。

学生時代から現在に至るまで、継続して英語や中国語に向き合ってきた一歩一歩が今につながっていると思っています。まず、学生時代の経験が土台になりました。英語においては、大学での膨大なインプットと、イギリス留学におけるアウトプットの機会がありました。中国語については、北京の大学院での学びとともに、現地翻訳会社での業務やインターンシップを経験しました。
そして両言語において、社内翻訳を中心に翻訳実績を多く積んでまいりました。日常的に英語や中国語を用いて働くとともに、翻訳会社で翻訳コーディネーターとして勤務した経験は、翻訳者としての業務にも役立っています。

4)JTF<ほんやく検定>を受験した理由は何ですか?

仕事において翻訳をする機会は多かったものの、自身の翻訳の質や水準について客観的な評価を得る機会がほとんどなかったため、ほんやく検定に興味を持ちました。そして、今後フリーランスを含め、さらに翻訳の機会を広げていきたいと考え、その道を探るために検定受験を決意いたしました。

5)JTF<ほんやく検定>合格は仕事の受注に影響がありましたか?具体的に教えてください。

幸運にも1級に合格することができ、自信につながっただけでなく、実際に複数の翻訳会社にて翻訳者として登録いただくことができました。そして、合格者名簿を通じてお問い合わせをいただく機会も多くあります。現在も継続してお仕事をいただいており、ほんやく検定の合格は前に進む上で非常に大きなステップになりました。これまで受けた様々な検定の中で、具体的に仕事に直結しているという意味で最も意義があったと感じております。また、検定合格後、日本翻訳連盟に入会させていただいたことで、縦のつながりだけでなく、翻訳者の方々との横のつながりを築くことができたことも大変ありがたく思っています。

6)普段使用されている辞書やツール、お薦めの勉強会などありましたら教えてください。

翻訳支援ツールmemoQを使用しております。

7)「翻訳者になって良かった」と感じることを教えてください。

日々様々な情報に触れ、その情報を広く伝えることができること。人との出会いがあり、人と人とをつなぐ役目を果たせることです。翻訳は大変素晴らしい仕事であり、これからもそうした熱意を忘れずに取り組んでいきたいと思っております。

8)JTF<ほんやく検定>の受験者、また翻訳者を目指している方へ、アドバイスをお願いします。

アドバイスができる立場にはないのですが、検定については与えられた時間内にいかに集中して取り組み、疑問点を残さずやり抜くことができるかが大切だと感じました。日々の翻訳作業の地道な積み重ねが生かされる試験です。私もまだ道半ばではありますが、検定合格は大きな一歩になったと日々実感しています。頑張ってください。


池田 悟

第76回・第74回・第66回・第65回 
日英翻訳 
科学技術 
2級 

フリーランス翻訳者です。
主に日英翻訳の仕事を請け負っています。
得意分野は、IR・ディスクロージャー(日英)と環境(日英)です。
その他の保有資格としては、翻訳実務検定TQE3級(環境、IT、電気、機械の日英4科目に合格)、工業英検1級、公害防止管理者等国家試験(ダイオキシン類)などがあります。

1)前職について教えてください。

地方自治体で行政事務職員をしておりました。

2)翻訳者を目指そうと思ったきっかけや動機をお聞かせください。

本屋さんや図書館に行ったときに、面白そうだと感じる本の多くが翻訳書だったことがきっかけで翻訳に興味を持つようになりました。洋書を読むのが好きだったこともあり、翻訳の仕事に関わりたいと考えるようになりました。

3)翻訳者になるために行ったことや具体的な学習方法を教えてください。

タイム・ニューズウィーク・エコノミストなどの洋雑誌を数百冊多読しました。全て図書館のバックナンバーで、無料で勉強することができました。「多読」に加えて、文法学習や翻訳技法などの「精読」系の学習も並行して行いました。

4)JTF<ほんやく検定>を受験した理由は何ですか?

数ある翻訳検定の中でも、伝統があり有名な検定であったため、受験を決意しました。

5)JTF<ほんやく検定>合格は仕事の受注に影響がありましたか?具体的に教えてください。

合格前は、翻訳会社のトライアルに応募しても書類選考に通らないということが多かったのですが、合格後は書類選考で落ちることは少なくなり、トライアルまで進めるようになりました。受験の結果、合格することも多くなり、実際にお仕事を頂く機会も増えました。

6)普段使用されている辞書やツール、お薦めの勉強会などありましたら教えてください。

電子辞書検索ソフトの「EBWin4」をメインに使用しており、辞書や対訳表の情報は全て本ソフトで検索できるように整理・集約しています。

7)「翻訳者になって良かった」と感じることを教えてください。

クリエイティブな欲求と知的欲求の両方を満たしながら楽しく働けるところです。あとは、自分のペースで仕事を進めていける点も魅力です。

8)JTF<ほんやく検定>の受験者、また翻訳者を目指している方へ、アドバイスをお願いします。

プロ翻訳者に求められる能力は年々高くなっており厳しい側面もありますが、しっかりとした能力があって努力を惜しまない翻訳者には常に仕事が絶えないという現実もあるようです。学ぶべきことは非常に多いので、年に2回の本検定をモチベーションにして努力を重ねるのも良い方法です。私自身、さらに上位の級に合格できるように頑張りたいと思います。

共有