日本翻訳連盟(JTF)

「私の通訳者デビュー」古賀朋子さん編

第7回(番外編):通訳者じゃなければどうやって生きていたのか想像もつかない

松本佳月さん主宰のYou Tube「Kazuki Channel」のインタビュー内容を、先月まで6回連載で紹介してきました。古賀さんはKazuki Channelのインタビューが終了した2022年8月以降、どのようなお仕事や活動をされているのでしょう。編集部から質問をお送りしてみました。古賀さんからの回答をそのまま番外編としてお届けします。

■その後のお仕事やご活動など近況について教えてください。

仕事の内容は依然として製薬、自動車が多いが、環境、サステナビリティ、インクルージョン、ダイバーシティなど(繁忙期ということもあり)多種多様な案件に対応中。休みは繁忙期のピークになってからはほとんどない状況。週末に通訳の仕事自体が入っていなくても案件の予習があるため。

仕事とは直接関係はないが、2024年11月末から韓国に短期留学することになった。久々の学生生活、海外生活で期待と心配が入り混じった気分で過ごしている。繁忙期の最中に留学準備をしているので、毎日のタスクが非常に多く例年の繁忙期以上に忙しく過ごしている。

勉強会を一緒にしている通訳仲間が韓国留学前に壮行会を開いてくれた
(写真はすべて古賀さん提供)
■現在、お仕事に関係することで、興味を持っていることは?

サステナビリティやダイバーシティやインクルージョンなどは個人的に興味がある。仕事のやり方でという意味であれば、どうしたら効率よく仕事をして休みを取れるか、プライベートとのバランスを取れるか、どうしたらクライアントのお役に立てるかはいつも興味を持って考えている。

■仕事以外の趣味や余暇の過ごし方、気分転換の方法は?

旅行、BTSのファン仲間とBTS関連のイベントやいわゆる聖地に行ったりする。BTSのコンテンツを見る。散歩をする。友達と美味しいものを食べながらおしゃべりする。アーユルヴェーダの施術を受ける。

BTS SUGA のコンサートを観にシカゴへ
ファン友達とグッズの列に一番乗り
■これまで通訳してきた中で、とくに思い出深いことやその理由、エピソード。

初めて通訳者として入った会議。自分では全然ダメだったと思う出来だったのに、サムズアップとともに褒められたから。ある海外出張に行ったらブースに天井がなく意味がないだろうと込み上げる笑いを噛み殺しながら通訳していたこと。

強いてあげればこんな感じですが、案件が非常に多いので、どんどん流れて忘れていきます……。

■通訳者になってよかったと思いますか? その理由は?

よかったというか、通訳者じゃなければどうやって生きていたのか想像もつかない。自分の天職だと思っているので。仕事をしながら日々新しいことを知るのが新鮮だし、誰かのお役に立てていると感じる。良い訳ができた時に素直に嬉しい。

■20年間通訳を続けられてきて、当初と変化したことや意識があれば。

蓄積された知識や技術が日々の通訳に活きていると感じる。準備をするときの勘所が初めの頃より分かるようになってきた。漏らさず訳すことへの意欲や熱意は変わっていないと思う。

■通訳者として大事にしていることは?

必要な準備をしっかりとして臨むこと。ただ直訳をするのではなく、その分野に関わる人が実際に使っている表現をできるだけして、分かりやすく伝えること。基本的にスピーカーのメッセージをそのまま伝えること。日本語や英語としてなるべく自然な表現をすること。通訳の精度を上げるために必要な環境などについて通訳エージェントやクライアントに臆せず伝えること。通訳そのものはもちろんのこと、何をお手伝いすればコミュニケーション全体の役に立てるかを考えて行動すること。

■通訳者として活躍されるようになってからはどんな勉強をしていますか?

通訳仲間と月に1回ぐらいのペースで勉強会をしている。その月のホスト役が動画教材を選んで、残りのメンバーで同時通訳を行う。そしてフィードバックをしたり訳語の議論をしたりする。ニュースアプリのバナー通知をオンにしておいて、特に世界の英語ニュースを見出しだけでもチェックするようにしている。ある案件の予習で勉強して得た知識が、他の案件の通訳で役に立つこともとても多い。

■AIによる通訳や翻訳について、どう思っていますか?

(現在翻訳はお引き受けしていないのであくまでも翻訳者の話を聞いた印象で答えると)現時点で翻訳への影響の方が大きいと思う。特に理路整然と書かれた英語のマニュアルのような翻訳は機械翻訳に取って代わられているように思う。

通訳もエントリーレベルの通訳者が入る仕事は多少奪われている(奪われていく)と思われる。また通訳する内容が一方的な発表で原稿が存在し、登壇者がそれを読むだけという場合には、人間の通訳者ではなくAIで対応する動きが出てくると思う。

ただし、英日通訳者として感じるのは、日本語話者の文法が崩れていたり、省略が多い、また曖昧な表現が多いため、通訳者が調整したり補ったりしていることが多いこと。この部分はまだまだAIには難しいと思う。つまりスピーカーが日本語で話す場面がある限りAIが完全に取って代わるのは難しいと考える。

また英語のネイティブスピーカーだけではなく、日本人も含めた第二言語話者も多くなっているので、この部分もAIでは難しいと思う。(これは訛りのある英語スピーカーが話している際の現在の文字起こしの精度を見ても分かる。)

■これからの通訳・翻訳業界に希望することは?

業界としてもっと通訳のユーザーを啓蒙する必要があるのではないか。通訳者がきちんと音を取って訳出できる環境作り、資料の提供の徹底などを啓蒙していく必要があるように思う。また(私が接点がないだけなのか分からないが)若い通訳者が少ないように感じる。通訳者のメンタリングシステムのようなものがあっても良いのかもしれない。個人的には通訳者同士が用語の共有などもっと助け合う風土になると全体の訳出が底上げされるかもしれないと感じる。

■さいごに、読者(通訳・翻訳者、通訳・翻訳者を目指す方など)に向けてメッセージを。

通訳業はとても大変だが、同時にやりがいのある仕事だと思う。仕事を通じて知識を増やすこともできるし、本人が望めば長く続けることができる。どんな企業においても個人の成長や貢献がより求められる時代に、すでにそれをしている職業が通訳者であり、翻訳者だと思う。この仕事を目指す人がこれからも出てくることを願っている。
(2024年11月)

←第1回:大学在学中のボランティア通訳がきっかけ
←第2回:秘書兼翻訳者、英会話学校講師を経て、アメリカの大学院へ
←第3回:大学院卒業後、アラバマの自動車工場の社内通翻訳者に
←第4回:米国から帰国、4社で社内通翻訳者を15年経験した後、フリーランスに
←第5回:コロナ禍を経て、フリーランスとして多忙な日々へ
←第6回(最終回):フリーランスは「自分はどうしたいのか」を考えながらやっていく

◎プロフィール
古賀朋子(こが ともこ)
日英同時通訳者
千葉県生まれ。神田外語大学外国語学部英米語学科を首席卒業(GPA:3.95)。モントレー国際大学院(現ミドルベリー国際大学院)通訳翻訳学科にて会議通訳修士号取得。大学在学中から秘書兼翻訳者として勤務。英会話学校で講師、主任講師を歴任。大学院卒業後はアメリカのアラバマ州の自動車工場にて通訳翻訳者として勤務。帰国後、製薬会社、損害保険会社、MLM企業にて通訳翻訳者を務める。社内通訳者歴15年。2020年からフリーランス通訳者として活動。共著に『同時通訳者が「訳せなかった」英語フレーズ』(イカロス出版)。趣味は旅行、BTS、韓国語学習。
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