1-4 グローバル・コンテンツ制作の全体最適化に向けた取り組み~効率化を実現した制作プロセスと開発基盤~
木下 孝博 Kinoshita Takahiro
1998年PFUソフトウェア入社。
翻訳者・翻訳コーディネーターとして従事。現在は、ローカライズ・エンジニアリングを担当し、主に、多言語ローカライズの効率化や品質確保のためのツール作成やインフラ構築を行っている。
報告者:赤間ゆみな
このセッションでは、グローバル・コンテンツ制作において、品質を維持したままスピードアップするための全体最適化への取り組みについて報告された。
取り組みの背景
PFUソフトウェア株式会社の主力製品であるスキャナの世界同時出荷に伴い、製品に添付されるマニュアルも開発スピードの向上が求められている。これまでも同社では、スピードアップのために個別の施策を実行してきたが限界に達していた。このため、日本語マニュアル開発時からグローバル化までの全体の作業を最適化する必要性がでてきた。そこで、グローバル視点でのコンテンツ制作、スタイルおよび制作プロセスの標準化、開発基盤の整備の3点に取り組みはじめた。
グローバル視点でのコンテンツ制作
後工程の翻訳を意識した原典(日本語版)の作りこみを目的とし、DITAを導入しシンプリファイドテクニカルジャパニーズ(STJ)を適用した。
DITAの特長であるトピックの再利用などで文章量を30%削減し、翻訳を含めた全体の工数を10%から20%程度削減した。また、STJの適用により、誤訳による手戻りを減らし、翻訳のしやすさを10%向上させた。
スタイルおよび制作プロセスの標準化
日本語、英語、多言語(日英多)での一貫したコンテンツ制作環境の整備を目的として、「スタイルガイドの整備」と「日英多での一貫プロセスの策定」を実施した。スタイルガイドを日英多で横断的に規定したことで、グローバルブランドとしての一貫性を確保し、(スタイルなど)言語に依存しない要件については非ネイティブでもチェックできるようにすることで作業を分業化し、効率化した。また、日英多での一貫プロセスの策定により、それぞれの言語ごとに異なっていたプロセスを標準化し、重複を除いた。この結果、全業務、全言語共通の統合インフラを適用できるようになり、さらに作業の効率化を推進することができた。
開発基盤の整備
DITAを適用し、トピック指向でマニュアルを開発する場合、トピックごとにファイルを管理するため、ファイルの絶対数が多くなり、データ管理が煩雑化してヒューマンエラーによる手戻りが増えることが予測された。これを防ぐために、「日英多ワークフローシステム」および「用語管理システム」を構築した。ワークフローシステムの構築により、翻訳部署で翻訳対象のファイルだけが自動で抽出できるようになり、また、用語管理システムにより、画面のGUIは自動で変更が反映されるようになったため、ヒューマンエラーを原因とする手戻りが減少した。
これらの3つの施策を個別に実施するのではなく、3つを併せて全体的に最適化したことにより、グローバル・コンテンツ制作における「開発期間の短縮」、「コストの削減」および「品質の向上」を同時に達成することが可能となった。