日本翻訳連盟(JTF)

TAUS User Conference/Localization World Seattle 2012

TAUS User Conference/Localization World Seattle 2012

河野弘毅 
日本翻訳ジャーナル編集長

 
2012年10月中旬に米国シアトルで続けて開催された2つのイベント(TAUS User Conference 2012およびLocalization World Seattle 2012)に参加しましたので速報として簡単に報告します。

 



名称●TAUS User Conference 2012
期間●2012年10月15日(月)~ 16日(火)
場所●Edgewater Hotel(シアトル)
主催●Translation Automation User Society (TAUS)
詳細●http://www.translationautomation.com/conferences/taus-user-conference-2012.html

 



TAUSは翻訳業界のオピニオンリーダーのひとりであるJaap van der Meer氏が設立した非営利組織であり、翻訳における技術革新の発展と普及をその目的としています。Google・Microsoft・Oracle・Ciscoなどのクライアント企業、SDL・Lionbridge・Moravia・WelocalizeなどのMLV、Acrolinx・SYSTRAN・XTM・Atrilなどの翻訳支援ツールメーカー、EU特許庁(EPO)・NICT(日本)などの政府機関が会員に名を連ねています。

TAUSは欧州・北米・アジアの各地で毎年イベントを主宰していますが、User Conferenceは各イベントの中でも最も大規模であり、全世界から約100名の業界関係者が一堂に会して、二日間(同時開催の小会議も含めると三日間)にわたって情報や意見の交換と交流を深める場となっています。本年度のUser Conferenceは去る10月15日(月)および16日(火)の二日間にわたって米国シアトルにて開催されました。

初日の冒頭にTAUSの2013年にむけての展望が提示されました。TAUSといえば機械翻訳のイメージが強いのですが、言語資産アーカイブ(TAUS Data)の構築や品質管理基準(Dynamic Quality Framework)の制定など、複数のプロジェクトに継続して取り組んでいます。2013年にむけては、1.Technology(機械翻訳等)、2.Data(言語資産アーカイブ)、3.Metrics(品質管理基準)に加えて4.Interoperability、すなわち翻訳業界における次世代技術標準(主としてAPI)の提唱ならびに調整、という4つの業務を柱として活動する旨が示されました。

その後の議論は「地元企業」であるマイクロソフトによるキーノートスピーチがあり、それに続いてパネルディスカッションとオムニバス形式のプレゼンテーションが交互に提供されました。TAUSのプレゼンテーションは3分間のプレゼンを5社が立て続けに行うというように密度が高く、2日間での登壇者は約50名に達します。その一方で、ネットワーキングのための時間をたっぷりととってあり、かなりの参加者が顔なじみの様子でした。

50名の発表内容は特定のテーマに的を絞っているわけではなく、多様な内容をこの速報で伝えることはできませんが、ここで行われた議論の動画が公開される予定ですので、ご興味のある方は下記のURLをチェックすることをお勧めします。議論の一部は、日本翻訳ジャーナルの次号で紹介する予定です。
 
http://www.youtube.com/user/TAUSvideos?feature=watch


 

かつてビートルズが宿泊したことで有名。
TAUSの会場となったEdgewater hotel。桟橋の上に建てられた個性的な建築で、

 

TAUSの会場の様子。開放的な窓から臨む内海の眺望がすばらしく、
セッションの途中に窓辺まで来たかもめがこちらをうかがっていた。

 



名称●Localization World Seattle 2012
期間●2012年10月17日(水)~ 19日(金)
場所●Bell Harbor International Conference Center(シアトル)
主催●The Localization Institute, MultiLingual Computing, Inc.
詳細●http://localizationworld.com/lwseattle2012/about.php

 



TAUSが開催された週の後半には、ローカリゼーション業界最大の国際イベントであるLocalization WorldがTAUSが行われたホテルと隣接する会場で実施されました。こちらは約500名が参加し、約40のセッションと同時に、約50社が出展する展示会が開催されました。

こちらのイベントについても、開催前夜のレセプションや初日の夜のディナーなど、ネットワーキングの機会がいろいろと工夫されており、人脈の重要性は国内以上かもしれないという点が強く印象に残りました。翻訳支援ツールのメーカーが多数出展していましたが、機械翻訳の台頭とクラウドベースへの移行という時代の趨勢を反映して興味深いシステムが多数出展されており、この分野における国内業界の遅れをあらためて痛感する結果となりました。

私自身は翻訳業界で長く禄を食んできたにもかかわらず英会話が不得意なのですが、Localization Worldの場で行われている交流・情報交換・商談の活発さを見ていると、英会話が苦手などということを言っている余裕などこの業界にはないのだという差し迫った現実を思い知らされ、いろいろと反省することばかりでした。とはいえ、立ち止まっていても仕方ないので、今回の経験を糧に多少なりとも世界で通用する業界人?への成長を目指すことを心に誓いました。

従来は北米と欧州を中心に年二回のペースで開催されてきたLocalization Worldですが、2013年は新しい試みとしてアジア(4月10日-12日・シンガポール)、欧州(6月12日-14日・ロンドン)、北米(10月9日-11日・シリコンバレー)の年三回の開催が予定されています。世界の翻訳業界・ローカリゼーション業界の動向を体感できるこの貴重なイベントに、日本国内から一社でも多くの翻訳会社が参加するようになることを願っています。



周辺は気持ち良い散策コースになっている。
Localization Worldの会場の入り口。この建物も海岸沿いで、

もっとも広いセッション会場の様子。


参加者に配られるパッケージの中身。
各社工夫をこらしたノベルティグッズやパンフレットが盛りだくさん。


展示会場の中に設けられた軽食コーナーの様子。

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