日本翻訳連盟(JTF)

5-1 自動車日英技術翻訳の基礎~稼げる日英翻訳者になるためのFirst Step~

仲谷 幸嗣 Nakatani Kouji


工業高専電気工学科卒業後、造船所の電気エンジニア、自動車会社のサービスエンジニアを経て、翻訳業界へ。(株)トランスワード代表取締役。1998年から現在まで(株)トランスワードの技術翻訳教室主任講師を務め、卒業生の多くは現在の自社の社員および外部協力翻訳者として活躍中。

報告者:伊藤晃基
 



このセッションでは、英文におけるテクニカルライティングの基本事項と(株)トランスワード内での通訳者の育成方法を主に紹介された。仲谷氏は翻訳者が守るべき基本事項を8つ挙げた。1つめは、読者にとって読みやすいフォントであることである。英文であればArialが主流であり、日本文であればMS明朝もしくはMSゴシックが主流である。2つめは、短く直接的な文章を書くことである。例えば、補助動詞などは使用せず、簡潔に伝わる直接動詞を用いるのである。3つめは、作業の順番、考える順番を書くことである。そして、言いたいことは最後に持ってくることも大事である。前半に持ってきてしまうと、後半を見ないことが多いためである。4つめ、技術文書は左揃えであることである。左揃えのメリットとして、横方向の目の動きが少ない、上下の区別がしやすい、などが挙げられる。5つめはハイフンを正確に用いることである。ハイフンは連続した単語をどのようにくっつけて読んでもらうかを指示する役割を持っている。それゆえ、翻訳上、複数の単語をハイフンでつなげて新しい単語を作ることもある。6つめ、短縮形はなるべく使わないことである。7つめ、分詞構文の主語使いのミスをなくすことである。日本人がよく陥ってしまいがちなこのミスはネイティブの方から見ると、とても歪な文章なのである。副詞節の主語と主文の主語の一致を意識するべきである。最後は、パラレリズムを守った文章であることだ。読者の期待に沿った翻訳であることを大事にするべきである。この8つの事項すべてに共通していることは、読者の視点を大切にしているという点である。読者にとって読みやすい文章でなければ、うまい翻訳とは言えないのである。

翻訳者の育成方法について

(株)トランスワードでは、社内で翻訳者を育成している。昔は外部の翻訳者向けの教材を販売していたが、いまは行っていない。具体的な育成方法について以下で述べる。まず、翻訳レベルを学習レベル、新人レベル(0.5年~1年)、初級レベル(1年~2年)、中堅レベル(2年~3年)、リーダーレベル(3年以上)に分ける。それぞれのレベルに応じたトレーニングを行い、最終的には深い専門性や広い知識を兼ね備えた翻訳者になることを目的としている。翻訳業として注目されがちなスキルとして、広い分野での業界用語や、翻訳テクニック(単位の知識など)が挙げられる。もちろん、学習レベルでこれらの知識を学べるのだが、仲谷氏が最も重視するスキルは、タイピングの速度である。初級レベルの段階で、1分間で300文字打てるようになるまでトレーニングを行う。このように基礎から鍛え上げていく方法で、人材育成に取り組んでいる。
 

 

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