日本翻訳連盟(JTF)

翻訳会社としての品質向上への取り組み~スタイルガイドの活用事例を中心に~

2015年度第2回JTFスタイルガイドセミナー報告
翻訳会社としての品質向上への取り組み~スタイルガイドの活用事例を中心に~


伊藤 良裕

1978年仙台市生まれ。東北大学法学部卒業。約9年間SEとしてシステム開発業務に従事した後、2012年にシーブレイン入社。SE時代の知識と経験を生かし、現在は社内でIT関連ドキュメントの翻訳・レビュー・品質管理を担当。読み手の視点に立った訳文を常に意識している。
 

野崎 由美子

システム開発の現場で約8年間SE業務に従事した後、わかりやすいマニュアルづくりに興味を持ち、翻訳業界に転向。シーブレインで、主にIT関連の翻訳、品質管理、プロジェクト管理を約10年担当。現在は、組織、プロセス、情報の観点から、高い品質を維持するために最適なシステムの構築に関心がある。
http://c-brains.jp/

 



2015年度第2回 JTFスタイルガイドセミナー報告
日時●2015年4月13日(月)14時30分~16時30分
開催場所●剛堂会館
テーマ●翻訳会社としての品質向上への取り組み~スタイルガイドの活用事例を中心に~
登壇者●伊藤 良裕 Ito Yoshihiro((株)シーブレイン テクニカルトランスレーター)/野崎 由美子 Nozaki Yumiko((株)シーブレイン プロジェクトマネージャー)
報告者●高屋敷 ゆかり(翻訳者)

 



 JTFスタイルガイドセミナーの第2回では、翻訳会社の立場から、スタイルガイドの重要性と品質向上への取り組みについてご説明いただいた。
 
 シーブレイン社では、翻訳の品質管理とは、訳の正確性、スタイル、入力ミス、用語、統一感、訳抜け、読みやすさを管理するものとしている。このうちのスタイルの管理についてが本日のテーマである。

表記の統一は品質の基本要素

 翻訳が正確であっても表記が統一されていない文章は、読みにくく、雑に書かれた印象を与えてしまうため、ドキュメント自体の信用性が疑われることになってしまう。逆に、表記が統一されていれば、丁寧に書かれた印象を与えることができる。これは、クライアント企業にとっては、読み手であるお客様からの信頼性向上につながり、翻訳会社や翻訳者にとっては、リピート受注や価格交渉力のアップにつながる。

スタイルガイドとツールチェックで確実に効率的に運用

 スタイルガイドは基本的にはクライアント企業が作成するものであるが、提供されない場合は翻訳会社が作成する。翻訳会社がスタイルガイドを作成することには、文章の品質が向上し、会社の評価が高くなるメリットがある。

 スタイルガイドを効率よく作成するためには、標準のスタイルガイドを用意しておき、各クライアント企業に合わせて一部の項目をカスタマイズする方法を推奨する。標準のスタイルガイドには、『JTF 日本語標準スタイルガイド』を流用できる。

 スタイルガイドには、揺れが生じやすい表記要素を規定する。文体(どこにどの文体を使用するか)、文字(ひらがな、漢字、カタカナの使用要件、使い分け、全角半角の指定など)、文字間のスペース(全角文字と半角文字の間、各種記号と隣接する文字間などにスペースを入れるかどうか)、記号(句読点の種類、各種記号の使用)、単位(使用する単位や変換について)が主な規定の対象である。

 しかし、スタイルガイドを作成しても、運用できなければ品質向上にはつながらない。
 スタイルガイドを守るために、翻訳会社では、発注時と社内チェックでの工夫が必要である。
 発注時には、1)翻訳者にわかりやすいスタイルガイドを提供する。必要に応じて、スタイルガイドの抜粋版、要約版、日本語版を用意し、表記以外の要素は別の資料として提供する。2)ツールによるチェックを依頼する。チェック対象の項目、対象外の項目を明確にし、定義ファイルや設定ファイルを提供する。

 社内チェック(翻訳会社での翻訳チェック)では、チェックの内容と方法を整理し、適切に使い分けられるようにしておく。チェックの種類とそれぞれのパターンを整理し、どの方法でどのチェックができるかを明確にすることで、複数のツールを使い分けてのチェック、人間でのチェックを適切に行うことができる。

重要な要素に手間と時間をかける

 こうして、スタイルの品質を効率良く管理することで、他の品質管理要素、特に大事にしたい正確性や読みやすさに手間と時間をかけることができるのである。
 
JTF日本語標準スタイルガイドは、
http://www.jtf.jp/jp/style_guide/styleguide_top.htmlから入手できます。
 


 

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