日本翻訳連盟(JTF)

4-3 次なる未来『トピック指向時代』の翻訳に挑む! ~DITA・CMSの導入事例から明らかとなったトピック文書翻訳のベストプラクティス~

徳田 愛 Tokuda Megumi

株式会社ヒューマンサイエンス ローカリゼーション・スペシャリスト。DITAなどのトピック指向文書の日英・多言語翻訳プロジェクトを担当。国内企業に向けて、翻訳の品質設計やワークフロー構築、翻訳に適したスタイルガイドやマニュアル作成などのセミナー・コンサルティングを実施している。原文品質を重要視し、和文ライティング工程も担当している。

本多 秀樹 Honda Hideki

株式会社ヒューマンサイエンス ローカリゼーション・スペシャリスト。ソフトウェア、自動車、医療機器、工業機器などの日英・多言語翻訳プロジェクトに従事。日英・多言語翻訳における新たなパートナーの開拓、翻訳者への教育やトレーニングも行っている。

澤田 祐理子 Sawada Yuriko

株式会社ヒューマンサイエンス ローカリゼーション・スペシャリスト。ソフトウェアや工業製品などの日英・多言語翻訳プロジェクトに携わる。DITAを用いた翻訳プロセスの品質改善コンサルティングや、翻訳品質設計のセミナーも担当。企業に向けた翻訳品質評価や英文品質標準化のためのスタイルガイド作成にも従事している。

報告者:二木 夢子
 



 本セッションでは、日本語原文を英訳して多言語に展開する場合におけるDITAの導入失敗事例をもとに、プロセス構築や品質維持のポイントを説明した。

トピック指向文書の増加

コンテンツの再利用や自動組版を実現するため、文書を細かいファイルに分割して再利用・管理する「トピック指向」が広まっている。そのために導入が進んでいるのが、DITA(トピック指向のXML規格)とCMS(コンテンツ管理システム)である。

 しかし、トピック指向を導入したのにコスト削減や効率化を実現できなかったという悩みも聞かれる。多くの場合、従来型の「ブック指向」(ユーザが前から読み進めることを前提として書かれた文書)のプロセスのままトピック指向を導入してしまったのが原因である。トピック指向の導入成功には、トピック指向に適したプロセス構築を行う必要がある。そこで、トピック指向の効果を発揮するためのドキュメント制作工程のポイントを解説する。

1. 導入段階:トピック指向をふまえた品質基準設定と合意形成

 A社はコスト削減のためにDITAを導入したが、海外販社などから、トピック指向には適さないフィードバックが大量に発生した。DITA導入で実現できる品質について関係者間で合意形成ができていないことが原因だった。対策には、品質基準を設定し関係者で認識を共有する、各言語版のプロトタイプを作成して事前に関係者の合意を得る、構造設計書や執筆規約を作成して運用するなどが挙げられる。

2. 和文制作段階:トピック指向に適した翻訳しやすい日本語の作り方・書き方

 B社では技術者が原稿を執筆して翻訳会社に外注していたが、翻訳後の品質が悪くリライトに近い修正が発生した。トピック指向に合った日本語の書き方・作り方ができていないことが一因であった。トピックが大きすぎると再利用できないが、小さすぎると文脈がわからなくなるので、適切な大きさに設定する必要がある。また、簡潔で、誤解されない日本語を書き、前後のトピックを参照しなくても意味がわかるようにする必要がある。翻訳を意識したタグ付けも不可欠である。

3. 翻訳段階:トピック指向の効果を発揮するためのプロセス構築

 C社ではDITA導入後に英文の品質が低下していた。翻訳段階においては、翻訳者にDITAの特性を理解してもらうためのプロセスを構築することが大切である。仕上がりイメージがわかるPDFの配布、ファイルの文脈順での並び替え、変数リストの整備などの手段がある。また、DITAに適したスタイルガイドを策定し、サンプル翻訳の依頼とフィードバックを通じて翻訳者を教育すれば、トピック指向への対応力を上げることができる。
 
 まとめを兼ねて、これらの点をふまえたベストプラクティスの事例が紹介された。DITAの特性を理解し、周到に準備を行うことが、トピック指向のメリットであるコスト削減と効率化を実現する鍵となるのである。
 

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