2022年度第4回関西セミナー報告
日 時:2023年3月15日(水)
開 催:zoomウェビナー
テーマ:ウスビ・サコ氏と翻訳会社が徹底討論、グローバル化で言葉の壁はなくなるのか(日本語講演)
講演者:ウスビ・サコ(Dr. Oussouby SACKO)京都精華大学 前学長/全学研究機構長/人間環境デザインプログラム教授
<登壇者のプロフィール>
マリ共和国生まれ。 国費留学生として北京語言大学、南京東南大学で学ぶ。
1990年、東京で短期ホームステイを経験しマリに共通するような下町の文化に驚く。91年来日、99年京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了。博士(工学)。
専門は空間人類学。「京都の町家再生」「コミュニティ再生」など社会と建築の関係性を様々な角度から調査研究している。京都精華大学人文学部教員、学部長を経て2018年4月同大学学長に就任(~3月2022年)を経て現職。
暮らしの身近な視点から、多様な価値観を認めあう社会のありかたを提唱している。
主な著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房)、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)など。
2025年日本国際博覧会協会 副会長・理事・シニアアドバイザー兼任他。
参加者数:41人
内 容:
第一部:サコ氏講演
アフリカでフランス語の通訳する際に、フランスのフランス語と同じように通訳して、誤訳が起きてしまうことがある。言葉を正しく扱うためには単語や文法だけでなく、文化的な背景が生み出す文脈を読み解かなければいけない。講演者であるサコ氏は、文字のない国でもあるマリに生まれ、多くの言語や国に関わりながら31年間の日本での生活を通し、新しい共生社会のモデルの実現をめざして様々な活動をされてきた。
その彼が、グローバル化とは物事を一つの国の価値観で決めないこと、また、多文化と多様性(ダイバーシティー)は異なり、ダイバーシティーとは人種、性別、宗教、指向や社会経済的な違いを受け入れることであり、マイノリティ優遇からマジョリティ意識改革が必要であると語る。
日本はこれから人口減少に直面し、一つの国や文化だけでは生きていけなくなる。様々な国の文化、人々を受け入れる必然性にさらされているわけである。そのためには、Cross-cultureとSelf-culture、つまり、他者と出会い様な文化に触れることで自分を再発見する、当たり前が当たり前でないことに気付く、ということが重要である。
自国の文化を見定め、身の回りの異文化を受け入れることで、共生社会が実現する。
そのために、言葉をどう訳すかではなく、文化を伝えること。
自分とは何か、自分のVoiceを持とう、と。
If you want to go fast, go alone.
If you want to go far, go together.
(早くいきたければ一人で進め、遠くに行きたければ皆で行け。)
紹介いただいた上記のマリのことわざは、これからの社会づくりのヒントになる。
グローバル人材(人間)であるためには、
世界に向けて開かれた人になる、
自分の足元をしっかり見つめ、身近な“異文化”を理解する、
自国の文化に向き合う、
日常の中にある“異文化”に気づくこと
が重要である。
共生社会の実現には、お互いの違いを共創成長につなげるCo-creation、自己の認識と他人の受け入れがカギである、と語った。
第二部:ウスビ・サコ氏、翻訳会社とのパネルディスカッション
パネリスト(五十音順)
安藤惣吉(株式会社ウィズウィグ 代表取締役)
石岡映子(株式会社アスカコーポレーション 代表取締役社長)
木村仁美(アイ・ディー・エー株式会社 ディレクター)
由良恭平(アイ・ディー・エー株式会社 エディター)
Q(木村)
グローバル化が進むことで、通訳者・翻訳者はどう変わっていくべきか?
A(サコ氏)
短いフレーズならAI翻訳でもうまく訳せるが、文化的な背景が含まれると生身の人間でないと正しく訳すことができない。文化を理解することが重要。
A(石岡)
マリでは挨拶が重要で、言葉がなくてもコミュニケーションがうまく運ぶ。コロナ渦ですっかり人とリアル話す機会が減ってしまったが、これからは、翻訳会社、翻訳者、クライアント、それぞれが直接会って徹底討論することが求められる。
Q(由良)
AI翻訳も進化する一方、グローバル化は進む。通訳や翻訳の仕事は減るのか?インバウンドだけでなく、生活に関わる翻訳が増えると思っているが。
A(サコ氏)
生活に関わる通訳や翻訳のニーズは確実に増えている。ただし、必要なところにサービスが届かない。だれがお金を払うのか、そこが課題である。
Q(安藤)
通訳などの現場で、通じていないかもしれないという相手に対し、理解してもらえているのかわかる方法はあるか。
A(サコ)
うなずくなどのリアクション、アイコンタクト、途中で確認する、また、相手が冷静でない場合こそこちらが冷静であることが不安を生まない。
Q(由良)
翻訳する場合、言葉だけでなく、情報を足したり引いたりする必要がある。AIがそこまで進化することはあるのか。
A(サコ)
そのまま訳すとunconscious biasを生みかねない。日本にしかない食品も多いし、AIだけでは限界がある。万博などにAIを導入し、国も文化を学習させようとしているが、むしろ危険である。伝えるためにはAIも使えるが、あくまでもツールであり、情報はしっかり人間が伝えなければならない。
Q(参加者)
人口減少は問題であるが、日本が移民先として選ばれるには何が必要か。
A(サコ)
以前はベトナムからが多かったが、ベトナムも発展しているので日本の魅力はなくなりつつある。一方で韓国は、起業できる、住宅サポートがあるなど、外国人が活躍できる環境が作られている。安全や安心は日本の強みではあるが、人との関係作りなど、言葉ではなく姿勢が重要である。
留学生はサービスを提供するお客様ではなく、チャンスや役割を与えるべき存在である。自分は大学の留学性のための窓口をあえて廃止したことがある。窓口でなく、全体で考えることである。
A(木村)
Inclusiveな、どこにいても受け入れられる社会でありたい。
Q(参加者)
英語圏以外の留学生が多いので、やさしい日本語が重要だと思われる。やさしい日本語とはどのような言語で、どのように身につけるか?
A(サコ)
用件を伝える。遠回しな表現は使わない。時代に合わせ、皆が話す普通の日本語でいい。普段から言語感覚を磨き、他者と出会って自分を磨く、いろんな人と関わること。
Q(参加者)
マリでは複数の言語を使っているとのことですが、複数の言語が共存する社会とは?
A(サコ)
言語を意識しないで、言葉がわからなくても何とかなるというコミュニケーションの社会。言葉を超え、相手の立場になって伝える、理解しようとする心構えが重要。受け入れる心と積極性がカギになる。
最後にパネリストより、
グローバル化が進み、多くの人たちとコミュニケーション力を上げるためには、言葉の壁を破るのではなく、心の壁を破ることが重要である、と再認識した。