私の一冊『誤訳をしないための翻訳英和辞典+22のテクニック』改訂増補版
第26回:英日翻訳者 眞鍋惠子さん
辞書にない訳語を集めた「表現集」は、新装版が刊行された『英和翻訳表現辞典』をはじめ数多くありますが、今日はお気に入りの「読む辞典」を紹介します。
『誤訳をしないための翻訳英和辞典+22のテクニック』は、60年以上翻訳を教えてきた著者が、自身の経験と現在よく使われる各種英和辞典の訳語や解釈の比較検討を通じて、間違いやすい表現を紹介したものです。
「かんたんと思うのが大きな間違いへの落とし穴」と表紙にあるように、簡単な単語にも様々な角度からスポットライトが当たり、周辺の知識にも光がさします。
例えばhairの項。let one's hair down(女性が髪をほどく;楽にくつろぐ)の奥の意味から始まり、髪の色、髪の毛をくしゃくしゃとするジェスチャー、そしてI'm washing my hairが「女性が外出せず家にいたいときに使う言い訳の言葉」であることから、女性がデートの誘いを断るときの(見えすいた)決まり文句が列挙され、最後には個人的な体験も。
やさしい語り口と時折現れるピリッと辛いコメント、広い知識に裏打ちされたウィットに富んだ文章に、「ちょっと確認」と手に取ったつもりがしばし読みふけってしまうエッセイのような表現集です。そして開くたび、私の脳裡には河野先生のニコニコ顔と静かなお声が浮かんでくるのです。
◎執筆者プロフィール
眞鍋惠子(まなべ けいこ)
英日翻訳者。駐在に同行して学んだ中国語から翻訳の世界に入る。映像関係、金融など。「第12回世界自然・野生生物映像祭」の「BEAKS & BRAINS」の字幕で翻訳新人賞。
★次回は英日翻訳者の下村万実さんに「私の一冊」を紹介していただきます。