日本翻訳連盟(JTF)

第 1 回:日本会議通訳者協会(JACI)

日本会議通訳者協会(JACI)は 2015 年4月に任意団体として発足し、2018 年 12 月に一般社団法人化しました。現時点(2024 年1月)では、日本語と外国語を使う実務通訳者、研究者、通訳関係者が集うという意味では、会員数約 450 人で世界最大の通訳団体です。日本翻訳者協会(JAT)や日本翻訳連盟(JTF)も通訳関係の活動をしていますが、JACI は1理事全員が現役の通訳者で、2上記2団体とは異なり活動の 9 割以上が通訳に関わるものである、というのが特徴です。

●実績のある認定会員制度

JACI の目的は「会議通訳者間の情報交換、通訳業界に関する情報発信、通訳者の育成、通訳者の社会的地位の向上等」であり、情報交換・発信は会員限定のオンラインフォーラムで行われ、同時通訳グランプリを通して次世代の通訳者を育成し、近年は中学校・高校における普及活動を通して社会的貢献をしながら通訳者の地位向上を図っています。

年会費の納入で誰でも正会員になれますが(入会案内)、認定会員になるには「国際会議での稼働実績が 200 日(およそ 1,500 時間)以上、またはこの実績に相当する通訳技術を有し、協会の会員審査基準(実績に加えてプロフェッショナリズムと職業倫理の審査あり)を満たす現役の会議通訳者」でなければなりません。

AIIC(国際会議通訳者協会)と同様、認定されるにはまず既存の認定会員から推薦される必要がありますが、実績の評価基準は AIIC より厳しく設定されているため、JACI の認定会員は世界トップレベルの通訳者集団といっても過言ではありません。その証拠に、通訳者求人において「JACI認定が望ましい」とする企業も散見されるようになりました。

●最大のイベント「日本通訳フォーラム」

JACI は一年を通して様々な遠隔・対面イベントを開催し、オンラインコンテンツも豊富に用意していますが、看板イベントは毎年 8 月に開催する日本通訳フォーラムです。協会が発足した 2015 年から毎年開催し、著名かつ実績豊富な通訳者である鶴田知佳子氏、長井鞠子氏、神崎多實子氏、矢野百合子氏、原不二子氏などをはじめ、海外からもミドルベリー国際大学院モントレー校(MIIS)の翻訳通訳・言語教育大学院学科長のローラ・ブリアン氏、アンドリュー・ギリース氏、ダニエル・ジル氏などが講演者として登壇しています。

「今年は社内通訳セッションを多めにしよう」「今年はワークショップ系を増やそう」「経験が浅い参加者が同時通訳を体験できる機会をつくろう」など、毎回一つのテーマを軸として企画していますが、ここ数年は英語以外のセッションを意識的に増やすよう努力しています。日本語の通訳市場を考えると、日英が圧倒的な存在感をもっているので、どうしても英語寄りのセッションが多くなるのは仕方がないことですが、それ以外でも地理的にも日本に近い中国と韓国にフォーカスした活動を続けていく方針です。

2020 年から 2022 年の 3 年間はコロナの影響で完全遠隔開催となりましたが(2023 年も2セッションを除き遠隔開催)、通訳・翻訳業界全体を盛り上げようという思いから「日本通訳翻訳フォーラム」と名称を変えて開催しました。

特に 1000 人以上が参加した 2020 年のフォーラムは8月1日から 31 日まで毎日なんらかのセッションを複数準備し、越前敏弥氏や柴田元幸氏などベテランの翻訳家の参加もあったおかげで、多くの業界関係者にとって「学びと連帯」の夏になったと思います。翻訳者と通訳者の交流はこれまであったようであまりなく、フォーラムに付随したオフ会では「新たな発見があった」という感想をたびたび耳にします。

一例として 2023 年のフォーラムではハーフタイム企画として、映像翻訳者の会 Wakkaと80 人規模のレストランを貸し切り、納涼会を開催しました。2024 年からは遠隔要素を残しつつも、基本的にはリアル回帰を目指す方針です。

写真 1:日本通訳フォーラム 2019 から。奥では同通ブース初体験の若手通訳者が基調講演を訳している
●同時通訳コンテストの開催や功労賞を制度化

JACIは2018年から通訳者の育成を目的として日本語・英語の同時通訳グランプリを毎年春から夏にかけて開催しています。もともとは若手育成のために学生向けのコンテストをやろう、と始まった企画なのですが、通訳デビューはしたもののあまり同時通訳の現場に恵まれない社会人にもアピールする機会を提供しようとなり、第1回グランプリから学生部門と社会人部門の2部門を設けています。

学生部門ファイナリストには通訳者としてプロデビューした人が複数います。社会人部門のファイナリストには、給与アップやボーナス支給につながった社内通訳者や、多くの通訳エージェントからスカウトされたフリーランス通訳者もいるようです。優秀な通訳者がスポットライトを浴びて世に出ていくのはJACIとしても喜ばしいことであり、今後も協会の軸となる活動として継続していきます。

ちなみに全世界に開かれた日本語・英語の同時通訳の大会はJACIの同時通訳グランプリのみで、その意味では一部関係者は「通訳の天下一武道会」と呼んでいます(笑)。

2018年はJACI特別功労賞が制度化された年でもありました。一言でいえば、通訳業界の国民栄誉賞であり、殿堂です。功労賞的な制度は、成熟した業界であれば、先人の多大な貢献・功績に敬意を表する一つの形として持つことが通常ですが、民間企業(通訳エージェント)による実施はいろいろ難しいでしょうから、非営利かつ中立な立場をもつJACIが実施を決めました。これは「現場で活動する通訳者・通訳関係者」が選ぶ個人・団体に授与される賞であり、過去にはパリ第三大学通訳翻訳高等学院名誉教授のダニエル・ジル氏、日本における会議通訳者の草分け的な存在である小松達也氏、手話通訳者・教育者として長年現場に貢献してきた川根紀夫氏などが受賞しています。

●サブグループ活動の広がり

JACIでは近年、サブグループの活動も活発になっています。数年前に会員有志が立ち上げたエンパワメント部(自身の通訳ビジネスにオーナーシップを持ち、事業の成長や業界の発展を考える)や、学校での普及活動を目的とするアウトリーチ部があり、春にはスポーツ・エンタメ通訳部と法務通訳部が発足する見込みです。

団体規模が大きくなると細かい部分にすべて丁寧に対応できなくなるのは普通ですので、今後は分野・領域を絞ったサブグループが複数生まれ、自主的な活動を展開していくのが自然な流れだと考えています。

写真 2:三重県でのアウトリーチ活動にて。認定会員の岩瀬和美による逐次通訳のデモ

ちなみに宣伝ですが、アウトリーチ部はキャリアデーや職業体験的なイベントの一環としてJACIの会員通訳者を受け入れてくれる学校(小中高)を募集中です。ほぼ実費のお手頃な費用で派遣可能なので、興味がある方はoutreach@japan-interpreters.orgまでお問い合わせください。学生があっと驚くプロの技術を惜しみなく披露します。
JACIは一にも二にもつながりと学びの場です。それがはっきりと目に見える形になったのは実はコロナ渦で、2020年3月に多くの通訳者の仕事がゼロになった時期は、遠隔通訳に慣れていた社内通訳者が、遠隔の「え」も知らないフリーランス通訳者たちに辛抱強くZoomの使い方を教えるという光景がよくありました(特にLINE株式会社の石井悠太氏に感謝です)。

仕事がないなら、この時間を有効活用してコンテンツを作ろう!と始めた「駆け出しのころ」は、これまであまり語られることがなかった新人時代の苦悩や葛藤に焦点をあてた、心が揺さぶられる読み物です。

通訳の仕事 始め方・続け方』の執筆・発売もコロナ渦でした。第一線で活動する通訳者たちが、自分がもつ知識や経験を惜しまず共有する-この本はJACI初の著作であり、JACIの理念から生まれた作品でもあります。ちなみにJACIの公式活動ではないですが、同じくコロナ渦で執筆・発売された『同時通訳者が「訳せなかった」英語フレーズ』にも多くのJACI会員が貢献していいます。

●今後の取り組み

さて、JACIの今後ですが、2024年は新たな試みとして、北海道から沖縄まで国内10か所を巡る逐次通訳ワークショップツアーを開催します。遠隔通訳が定着した今でも、ここぞという大事な会議は対面がかなりの度合いで戻ってきていているので、通訳者としても会議参加者の表情や場の空気を読みつつ、その場で訳を調整する技術を学ぶことが重要です。通訳エージェントもスポンサー/評価者として参加するので、「自分の訳は商品として成立するか」をリアルに知るチャンスでもあります。

海外展開も可能な範囲で増やす方針です。あまり知られていませんが、JACIはコロナ前からシンガポールや香港、韓国で通訳者の交流会・ワークショップを開催したり、英語圏のイギリスとアメリカで認定試験を実施したりと、海外で一定の活動実績はありました。そしてコロナ明けの2023年夏にはロンドンで本格的なワークショップを開催。世界最大の日本語通訳者団体として、日本語通訳者のニーズがある国・地域では今後も積極的に活動していきたいと考えています。

●結びとして

結構なボリュームの文章になってしまいましたが、結びに一つ。実はJACIはいたってマイペースで、「遊び」も楽しむのがモットーの団体です。しっかり働いて、しっかり遊ぶ。その証拠に、対面イベントにはほぼ必ず懇親会がセットでついていますし、夏と年末にはそれぞれ納涼会と忘年会を相当の規模で開催しています。非公式でジャンクフード部もありますし(通訳者が集まってだらだら喋りながらハンバーガーやピザを楽しむ会)、これまた非公式で最近、大人の遠足部が活動を開始しました(第1回は昨年末、MCバトルのイベントに参加。第2回は東京国立博物館のツアーを企画中)。日常的に強いプレッシャーに晒されている通訳者ですから、ガス抜きの機会が多くても誰も文句は言わないでしょう。

日本会議通訳者協会は通訳者、学習者、研究者、その他の通訳業界関係者の入会を歓迎します。各種イベント割引に加えて、過去10年分の動画・記事コンテンツにもアクセス可能ですので、ぜひこの機会に入会をご検討ください。

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