私の一冊『ペシャーワル急行』
第39回:研究者(記述・記録言語学、ベンガル語近現代文学) 大西正幸さん
現代ウルドゥー語文学を代表するクリシャン・チャンダルの10篇の短編を収めた『ペシャーワル急行』(謝秀麗編)。1947年のインド・パキスタン分離独立がもたらした悲劇を抉り出すように描いた表題作、男女の愛をめぐる心理の襞々を克明に描いた作品群など。翻訳の質も高く、鋭利な文学表現に満ち満ちた短編集だ。
1970年代後半〜80年代初頭、東京外国語大学の『インド文学』や同人誌『コッラニ』に、ウルドゥー・ヒンディー・ベンガル語文学の翻訳が掲載されるようになった。めこんの桑原晨さんはそうした翻訳作品に惚れ込んで、インドの現地語で書かれた文学作品を紹介する目的で「現代インド文学選集」の出版を企画された。その第一号が1986年に出たこの本である。
このシリーズ、菊池信義さんの装丁が光る。田島昭泉さんの抽象画展を見て記憶にとどめていた絵を、一つ一つの作品集のカバーに使われたと聞く。それが各作品集の内容に驚くほどマッチしている。
◎執筆者プロフィール
大西正幸(おおにし まさゆき)
研究者(危機言語の記述・記録、ベンガル語近現代文学、ベンガルの口承文化)。主な訳書に、ニコラス・エヴァンズ『危機言語』(共訳、京都大学学術出版会)、タゴール『家と世界』(レグルス文庫)、モハッシェタ・デビ『ジャグモーハンの死』(めこん)、タラションコル・ボンドパッダエ『船頭タリニ』(めこん)、タゴール『少年時代』(めこん)。めこんより『タゴール 12の物語』が近く出版される。
★次回は、会社員兼写真家の谷村良太さんに「私の一冊」を紹介していただきます。