私の一冊『その名にちなんで』
第40回:会社員兼写真家 谷村良太さん
今回は、インドにルーツを持つ作家でピューリッツァー賞文学賞受賞者のジュンパ・ラヒリ著『その名にちなんで(The Namesake)』(小川高義 訳)をご紹介します。
本書は、西ベンガルにルーツに持つインド人夫婦が米国に移民してからの三十年を描いた作品で、コルカタ、ボストン、ニューヨークを舞台に、家族の生活が描かれます。
夫婦の米国に生活は、ひょんなことから奇妙な名前を授かった息子の物語に切り替わり、淡々と生活が語られる文章から、やがて平凡ながらも壮大な家族の物語が立ち上がります。
作者のラヒリ自身が移民として経験したさまざまな感情も取り込まれたに違いない本作は、原文の巧みさもあるでしょうが、翻訳のリズムの良さが心地よく、言葉が持つ可能性を感じさせられ、移民文学として極めて秀逸な本作に、私はすっかり魅せられてしまいました。
私は本業である会社勤務の傍らで写真制作にも取り組んでいますが、本作を知ったことで着想した写真作品が、様々な縁でインド政府のサポートを受けて関西各地で写真展になり、私の人生にとっても大きな影響を与えてくれた、忘れることができない一冊です。
◎執筆者プロフィール
谷村良太(たにむら りょうた)
大学・研究科大阪在住。会社員として機械メーカーに勤務し海外事業に携わる傍ら、写真家としても活動。過去に中国語の翻訳にも従事。
★次回は、翻訳者、弁理士の奥田百子さんに「私の一冊」を紹介していただきます。
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