日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊『シューレス・ジョー』

第42回:特許翻訳者 坂元 彩さん

『シューレス・ジョー』W・P・キンセラ著、永井淳訳、文春文庫、1989年

映画「フィールド・オブ・ドリームズ」の原作と言えばご記憶の方も多いのではないでしょうか。

当時は原書で読めるほどの英語力がなかったため日本語訳で読んだのですが、永井淳氏の訳文の瑞々しさに心を奪われ、言葉を噛みしめるように読んだことを覚えています。

今も手元にある文庫本を開くと、心に留まった表現にいくつも線を引いてあり、小説そのものの世界観だけではなく訳文の言葉によって広がるイメージを愛おしんで読んだ記憶が呼び起こされます。分野は異なるものの翻訳の世界に身を置くようになった今にしてみると、「翻訳の力」を具体的に実感して関心を持ったきっかけであったように思います。

映画は小説のストーリーをほぼ忠実になぞっていますが、映画に登場する作家テレンス・マンが、原作ではJ.D.サリンジャーであったというのがひとつ大きく異なる点で、この主要登場人物の違いが作品全体に与える空気感の違いもなかなかに興味深いところです。

◎執筆者プロフィール

坂元 彩(さかもと あや)

特許翻訳者、(株)エイバックズーム代表

特許翻訳に従事する傍ら、特許翻訳や技術英語の指導にも携わる。

技術英語能力検定(技術英検)プロフェッショナル、文部科学大臣賞受賞。

★次回は、翻訳家の石澤宏明さんに「私の一冊」を紹介していただきます。

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