日本翻訳連盟(JTF)

ISO規格の最新動向
ISO TC 37/SC 5ブリュッセル会合参加報告

3 用語調整グループ(TCG)と翻訳部会(WG 1)報告

用語調整グループ(TCG)

ISO/TC 37/SC 5の用語調整グループ(Terminology Coordination Group:TCG)の会議が、2024年6月3日午後3時〜午後5時にベルギーのブリュッセルで対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。

会議では、まずTCGのコンビーナであるマイケル・ショート氏の任期について確認が行われました。ショート氏の現任期が2024年12月31日に終了するため、ISO/TC 37/SC 5は、2025年1月から2027年12月までの3年間、同氏を再任すると提案しました。

続いて、ショート氏がTCGの活動概要を説明し、『ISO 20539, Translation, interpreting and related technology — Vocabulary(翻訳、通訳および関連技術 - 語彙)』の第2版が2023年12月に発行されたことが報告されました。プロジェクトリーダーのテガウ・アンドリュー氏によって発行されたこの規格について、通訳、翻訳関連の国際規格の策定に従い、改定の必要性が議論されました。

TCG会議では、ISO/TC 37/SC 5内で新たに発行された規格の用語と定義を取り入れるために、ISO 20539の改定が必要であると話し合いが行われました。
具体的には、コンビーナであるショート氏が、ISO 20539を新規提案(PWI)として登録し、2025年1月頃から改定を開始することを提案しました。この提案は、最終日6月7日の全体会で「Draft Resolution 04/2024」として全会一致で承認されました。TCGが改定の準備に時間を要することを認識しつつ、ISO 20539をPWIとして登録することが決定されました。

また、6月3日のTCG会議では、TCGの作業方法について詳細な議論が行われました。TCGの作業方法は、TCGのN 195文書に記述され、N 206の決議で既に承認されていますが、効率的な作業を確保するための具体的な方法が再確認されました。

各国際規格に関する用語は、各国際規格のプロジェクトリーダー(PL)等によって検討され、TCGに代表者として参加するべきであり、PLは進行中のプロジェクトのみを代表できることが確認されました。また、プロジェクト用語はTCGで確実に反映されるよう、各国際規格の用語管理はプロジェクトリーダーまたは関連するワーキンググループが責任を持って行うことが確認されました。ISO/TC 37/SC 5を退任したPLについては、後任のPL代行者に依頼することになりました。

最後に、ショート氏は、ISO 20539の次期改定を成功させるために、すべてのプロジェクトの代表者(PLおよび協力者)を確認する必要性を強調しました。6月7日の全体会ではこの件は「Draft Resolution 05/2024」決議案として提案され、全会一致で承認されました。

この決議では、ISO/TC 37/SC 5がTCGの方針を確認し、各ワーキンググループに対して2024年末までに各プロジェクトのTCGに参加する代表者(PLおよび協力者)を指名するよう要請しています。会議の詳細情報はISO/TC 37/SC 5が発行したN 722文書に記載され、関連する決議は、ISO/TC 37/SC 5の決議文「03/2024」から「05/2024」(文書名はN 742)に正式に記録されています。

WG 1国際規格(TS)新規提案事項

ISO/TC 37/SC 5のWG 1では、6月4日と5日に新規提案事項の話し合いが行われました。4日午後は、欧州法務通訳者・翻訳者協会(EULITA)による技術仕様書(TS)の新規提案が議論され、5日午後は、日本とオーストリアの共同プロジェクトによるTSの新規提案が検討されました。

6月5日午前中にはISO 17100の次年度以降の取り扱いについての議論が行われ、同日午後から翌6日午前にかけてISO 18587 WDについての話し合いがありました。詳細は森口JTF ISO検討委員会議長の報告書に記載されています。そちらをお読みください。

5日午後は、EULITAによる新規国際規格提案の説明が行われました。これは法務翻訳に関する技術仕様書(TS)の提案で、タイトルは『Certified translations used in judicial settings and by public authorities(司法環境および公的機関で行われる翻訳の認証)』です。提案者はEULITA 元会長であるリーゼ・カチンカ氏です。7日全体会議でISO/TC 37/SC 5は、2024年7月15日までにこの提案のNP投票を開始することを満場一致で決議しました。

6日午後には、日本およびオーストリアの共同プロジェクトによる新規国際規格提案の説明と検討がありました。これはコンビーナのアドバイスによりタイトルを『General guidelines for in-house translation departments(組織内翻訳部門の一般指針)』と変更した組織内翻訳部署に関する技術仕様書(TS)の提案です。このTSは、日本の専門家(Expert)の一人である私(佐藤晶子)とオーストリア専門家(Expert)であるマンフレッド・シュミッツ氏の共同プロジェクトとして提案が行われました。7日全体会議でISO/TC 37/SC 5は、2024年7月31日までにこの提案のNP投票を開始することを満場一致で決議しました。

この新規国際規格提案は昨年報告した組織内翻訳に関する提案をドイツ幹事国からの依頼、カナダ議長国、コンビーナのアドバイスにより修正したものです。主な変更点は以下の通りです。

タイトルを「組織内翻訳のガイドライン」から「組織内翻訳部門のガイドライン」に変更し、対象がより明確になりました。目次の構成を大幅に変更し、より体系的にしました。例えば、他の国際規格と重複する「専門的能力と資格」のセクションを削除し、「組織内翻訳部門の機能」を追記しました。そのため「組織内翻訳部門」の定義を新たに追加しました。

各セクションの内容を大幅に拡充し、より詳細な指針を提供することになりました。特に、技術の使用、リスク管理、品質保証などの分野で具体的な指針が追加されました。他の国際規格との重複を避け、技術関連の記述を行い、組織内翻訳担当部署による翻訳技術やツールの使用についても他の規格と矛盾しないよう言及しています。

翻訳担当部署のリスク管理についても触れ、プロジェクトリスク評価やデータセキュリティに関する具体的な指針を提示しています。品質保証やコンプライアンスについても言及し、ISO 11669やISO 5060など関連するISO規格の参照について述べています。

さらに、機密情報の取り扱いやデータセキュリティに関して、組織内翻訳担当部署が担うべき重要事項についても言及しています。

幹事国ドイツ、議長国カナダの委員、コンビーナの方のあたたかいアドバイスを賜り、ガイドラインはより包括的で実用的なものとなり、組織内翻訳部門の運営に関するより具体的な指針を提供する技術仕様書となっています。三年間(それ以前の準備の段階の数年間)にわたりご協力を賜りましたISO TC 37国内委員会委員および事務局の方々、経済産業省はじめ三菱総研のご支援、JTF ISO検討会委員の方々に紙面をお借りして御礼申し上げます。

世界遺産となっているブリュッセル市内グラン・プラス

◎報告者

佐藤晶子

日本翻訳連盟個人会員。2013年よりJTF ISO検討委員会委員。京都外国語大学外国語学部英米語学科教授。2016年、個人として『ISO17100:2015』認証を取得し、更新を行っている。『ISO9001:2015』審査員補。組織内翻訳の業務年数が長く、組織内翻訳に関する国際標準化は必須と考えている。経済産業省「戦略的国際標準化加速事業」(2021-23年度)に採択され、ISOTC37 SC5国内委員として組織内翻訳に関するISO国際規格策定に関わっている。

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