私の一冊『禅 沈黙と饒舌の仏教史』
第43回:特許翻訳家 石澤宏明さん
真理の不可言説性をしばしば語った釈迦にも通底する「禅」の教えについて、その「言語表現できない」真理をいかに伝えようとしてきたか、そしてそれがいかにできていないかを、仏教全体の考察を踏まえて解き明かしている書物です。著者は花園大学名誉教授(元文学部国際禅学科教授)です。
仏教は本来「哲学」であり、開祖ゴータマ・シッダールタ(釈迦)は「仏教(仏教的教義)を説かなかった」と言われています。
しかし釈迦の死後、彼の言葉を弟子が書き残し、数百年後に経典が陸続と成立し、更に数回の翻訳を経て日本に伝来する過程で、壮大な伝言ゲームが繰り広げられ、大きく変質してしまいました。それを本来の釈迦の教えに戻そうとする原点回帰運動の一つとして禅宗があるということです。
私を含め、日々「言葉」に向き合う多くの人々にとって、この2500年にわたる「伝言ゲーム」についての考察は、身近な翻訳業務においても示唆に富むのではないかと思います。
★次回は、特許商標事務所所員、特許翻訳者の江口輝さんに「私の一冊」を紹介していただきます。