私の一冊『All You Need Is Kill』
第52回:ゲーム会社ローカライズ・ディレクター オドネル ジェニファーさん
『All You Need Is Kill』桜坂洋著、Joseph Reeder訳、Alexander O. Smith編、Haikasoru、2009年(日本語版2004年)
メディアの翻訳が簡単ではない。直訳すると文章の雰囲気やキャラの個性が虚しくなる。意訳すぎると原作の意図が歪んでしまうかも。小説、ゲーム、漫画などを翻訳するとき原作の雰囲気、意図、意味、と翻訳の面白さ、読みやすさを釣り合わないといけない。このためメディア翻訳に興味がある方が「よくできた翻訳のお勧めがある?」と聞かれると『All You Need Is Kill』の英語版をすすめる。
桜坂洋の『All You Need Is Kill』はSFアクション小説だ。主人公キリヤ・ケイジは異星人との戦争で、初出撃で絶望的な戦場へと送り込まれ死んでしまう。しかしなぜか意識が出撃前日の朝に戻る。このミステリーで戦争の苦しさと虚しさが伝わる。
原作が大変面白いと思うが、Joseph Reeder(翻訳)とAlexander O. Smith(編集)の英訳が元の日本語の雰囲気、意図、意味をつかんで、英語で美しくリライトした。小説の英語版のおかげで映画版「オール・ユー・ニード・イズ・キル」が作られた。日英翻訳に興味があれば是非読んでください。
◎執筆者プロフィール
Jennifer O’Donnell(ジェニファー・オドネル)
ゲーム会社のローカライズ・ディレクター
イギリスに生まれ。翻訳の理論と実践の修士でロンドン大学SOAS研究学院を卒業。2015以来日英翻訳、ゲームローカライズ。日英翻訳者向けのブログも書く。
★次回は、翻訳者のKomarovska Viktoriiaさんに「私の一冊」を紹介していただきます。