私の一冊『異文化理解とコミュニケーション1 ことばと文化』
第54回:翻訳者、英語講師 池尻壽子さん

翻訳者に必要なスキルとは何であろうか。英語力、国語力、文章力等、様々な回答が出てくるに違いない。
突然であるが、「黙殺」を読者の皆様はどのように英訳するだろうか。筆者は、大戦末期のポツダム宣言にふれ、日本側の回答の「黙殺(静観したいということを強い言葉で表現した)」を連合国側が ”ignore, reject(無視、拒否する)” と翻訳されてしまったことが、外交上の失敗であったと述べている。筆者の指摘するとおり、もし、”give in the silent treatment” と表現されていたら、今とは違う未来があったのだろうか。本事例のように、日本語独自の表現を外国語にどのように訳すのかということは難しく、翻訳者の腕の見せ所であり、プロとして責任を感じずにはいられないところでもある。
本書は、異文化の違いを考慮したうえでのコミュニケーションについて、多角的な視点から考察されたものである。どの内容も翻訳者として新たな気付きをくれるものである。ぜひ手に取っていただきたい。
◎執筆者プロフィール
池尻壽子
修士号(教育学)を取得後、大学職員として教学支援等に携わったのち、現在は、英日/日英翻訳者。また、複数の大学で英語講師を勤める傍ら、英語教育に関わる研究も行っている。
★次回は翻訳者の飯島葉月さんに「私の一冊」を紹介していただきます。