日本翻訳連盟(JTF)

日本語の接続詞の考え方・使い方(後編)

講演者:国立国語研究所教授 石黒圭さん

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5.接続詞の効果
●接続詞は文書作成に役立つ

接続詞についてここまでいろいろ論じてきて、結局、大事なことは何かというと、接続詞というものが読み手のために存在するということです。

どうしても私たちは書いている時、あるいは話している時の意識のもとで接続詞を使ってしまうわけですが、特に翻訳で大事なのは、読者の目線に立って自然な日本語になるようにすることだと思います。読み返した時に、接続詞として文章の流れがどうなっているのか、読み手の立場に立って推敲することが大事です。これは井伏鱒二がエッセイの中で述べていますけれども、現代でも通用することだろうと思います。

それでは、接続詞が、文章作成に役に立つことを簡単に、次の3つの観点から1つ1つ例を示しながらお話ししてまいります。

●発想開拓の装置として使う

まず、①の「発想開拓の装置」として使う時、どんなふうに接続詞を有効活用できるでしょうか。たとえば、風呂敷をテーマに書きたいという場合を考えてみたいと思います。

風呂敷は何か物を包むときに使うものと考えられますが、それだけではありません。いろいろな風呂敷の活用法を、「たとえば」を使って、頭の中でブレイストーミングしていくことができるわけです。

たとえば、ものを包むのに使えます」、これは当たり前ですね。それから何があるでしょう。たとえば、かさばらないエコバッグになります」「たとえば、ギフトラッピングとしておしゃれです」。何か人にプレゼントをするときに風呂敷で包むこと自体、プレゼントとしての機能を果たします。「たとえば、読んで字のごとく、敷物として使えます」。風呂敷という言葉であるように、もともと風呂場で使われていたものですよね。それから、「たとえば、冷えたときのちょっとしたひざ掛けにもなります」。こんなふうにしていろいろ使うことができるわけです。

また、次の例のように「なぜなら」「だから」という接続詞を活用して発想を広げて、論理的な文章を展開していくことが可能です。

●接続詞テンプレとして使う

接続詞は1つだけで使うものではなく、いくつか、話の流れを意識しながら使っていくものです。

先ほど「なぜなら」「たとえば」「だから」というふうに使っていたのと同様に、「しかし→そこで→その結果」というのが、学術論文を書くときの接続詞テンプレ(テンプレート)になります。たとえばどんなふうに使うのか。接続詞の話をしているので、次のような接続詞の論文を書いてみました。

接続詞を対象にした研究が近年急速に増えてきているけれども、書き言葉の研究ばかりで、話し言葉の研究が少ないということを「しかし」で導入する。少ないわけですから、「そこで」という接続詞が役に立って、そこで私はやるという話になるわけです。「そこで、……について分析を行った」。分析を行うと当然結果があるわけで、「その結果」として、「『でも』の頻度が高く、相手にたいする反論のみならず、相手の気持ちに寄り添う用法が見られた」と繋がるわけです。

この「でも」の用法は面白い現象で、「でも」をよく言う人は、言い訳がましいとか、いつも反論する人というイメージがあると思いますけれども、実際に雑談や日常会話の中で使われる「でも」を調べていくと、そうとは限らない。むしろ相手に寄り添うような、たとえば相手が「私ってダメな人なんです」と言うと、「でも」で相手の長所を挙げたりするように、むしろプラスのことが後によく出てくる傾向があります。

こういう研究の現状がある。しかし、研究の歴史の中でこういう穴が開いている。そこで、私はこういう穴を埋める研究を試みた。その結果、こうした結果が出た。という形でまとめると、論文が一本書けてしまうということになります。

次はビジネスメールの接続詞テンプレートを考えてみたいと思います。「さて→つきましては→なお」というパターンです。

上は、割とフォーマルなタイプのメールの例です。まず、時候の挨拶「さて」で要件を切り出して、「つきましては」で具体的な要件に移り、「なお」で補足事項を述べる。これも一つのビジネスメールの接続詞テンプレートのパターンです。このパターンに従っていると、漏れなく要件について案内することができるということになるでしょう。

●テレビのテロップ的に使う

もう一つ接続詞の使い方の面白い例で、テレビのテロップ的な使い方というのがあります。どういう時に使われるのかというと、テレビを流すわけにもいかないので、私が作ってみました。テレビでよく使われている効果的な接続詞の使い方です。


その後、画面全面を使って、次のフレーズが出ます。

バラエティ番組で、よくありますよね。写真がなかったのでここでは出せませんが、皆さん、「そして」で一瞬、アマゾンの奥地の写真を期待しましたよね。

テレビのバラエティ番組のテロップで、「そして」とか「すると」「しかし」「ところが」などいろいろな接続詞が、このように使われているのを、番組をご覧の際にご確認ください。あれは実は話を盛り上げるための効果的な手法ということになります。

文章の中でも実際に使うことができます。たとえばこういう例です。

当日はあいにくの雨で開催も危ぶまれる状況だった。ところが、ふたを開けてみると、雨のなか、熱心なファンが100人以上集まってくれた。

雨か、大変だったんだな。「ところが」で、意外な展開が来そうですね。こういうのが有効なんですね。期待をさせて、期待に応えるような展開を示す。これが接続詞の働きです。あるいは、こういう例もあります。

共働きの夫婦で、お互いの分担をリストにしてコルクボードに貼ってみた。すると、それまで家事を嫌がっていた夫も進んで引き受けてくれるようになった。

共働きだと、特に私のような夫が家事をしないということが問題になるわけですが、そのようなことを解消するために、お互いの分担をリストにしてコルクボードに貼ってみた。「すると」、解決策は示されるでしょうか。解決されました。いいですね。また、通販などによく出てくる「さらに」という接続詞があります。

初夏の山形ツアー、本場のサクランボ食べ放題。さらに、1㎏のお土産付き。

こんなふうに接続詞を使って話を盛り上げて期待に応えるような内容を示していくと、視聴者の注意を引けるわけです。

私も本日の講演内容の5番目にこのテロップ的用法を持ってきたのは、皆さんが1時間以上、私の話を聞いてたぶんお疲れだろうから、ちょっと話を盛り上げてみようかなと考えて入れてみたわけです。こんな接続詞の使い方もあるんだということをぜひ頭に入れていただければと思います。

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