私の一冊『The Culture Map』
第57回:通訳者 林 慶子さん

読み終えた後に、連続ドラマの最終回を見終えたあとのような「ロス」を感じた本がある。それが、『カルチャー・マップ』だ。当時4歳だった娘に「ママの好きな黄色い絵本」と呼ばれるほど、夢中になって読んだ本だ。
著者のエリン・メイヤー氏は、ビジネスの現場で文化の違いから誤解を受けた自身の苦い経験をもとに、世界各国の文化的特徴を見事に体系化し、比較可能なマップとして示してくれた。
異文化という言葉は響きこそ興味深いが、実際に経験すると重い言葉だ。私がこの本を読み始めたのは、夫の転勤でインドネシアのジャカルタに住み始めてから4年ほど経つ頃だった。インド、アメリカ、フランス、オーストラリアなど、異文化の背景を持つ人たちと接する中で、自分の行動が誤解される場面が続き、疲弊していた時だった。この本を読んで、異文化の悩みを抱えるのは私だけではないことを知り、ほっとしたことを覚えている。
通訳の現場では様々な国の文化や価値観に出会うが、前向きに仕事に取り組めているのは、この「黄色い絵本」のおかげであると思う。
◎執筆者プロフィール
林 慶子
通訳者(英語・インドネシア語)
大学卒業後に渡米し、アメリカで公共政策を学ぶ。金融機関勤務を経て通訳者に転身。インドネシアでの8年の駐在経験を活かし、現在は英語・インドネシア語の会議通訳者として教育、環境、医療製薬、アートなど多分野で活動中。インドネシア語中級レベル以上の学習者を対象とした少人数制のスクール、HKアカデミーを運営。通訳者のトレーニング手法を取り入れ、インドネシア語から日本語への翻訳指導を中心に実践的な指導を行っている。
https://keikohayashi.com/
★次回は英日翻訳者の池田彩さんに「私の一冊」を紹介していただきます。