日本翻訳連盟(JTF)

北陸の技術を世界に伝える(後編)

講演者:株式会社IPアドバイザリー代表取締役 宮崎幸奈さん

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●特許を活かすための取り組み

ここで、初めのほうでも少し触れた弊社の新規事業の取り組みをご紹介したいと思います。

今、特許を取り巻く社会課題として、日本で問題になっていることがあります。下のグラフを見てください。

何が問題かというと、特許を取ったはいいけれど、うまく使えていないという会社がたくさんあることです。実際にその会社の中で使っていない特許が半分もあるという状態がずっと続いています。特に大学の場合は、なんと8割が使われていないということです。

多額の研究費を注いで開発しても使われていないということは、その開発費が回収できていない、次の開発費も賄えない。これが今、大きな社会問題となっています。

実は石川県は高等教育機関の数(人口当たりの学校数)が日本で一番多いのですが、大学発スタートアップの数は全国28位(2024年)で、まさに技術の商業化がうまくいっていない県でもあります。

下の図は、特許からのライセンス費用や、特許でどのくらい収入があったかの日米比較です。そもそも日本人は無形資産に対する意識が低いので、最終的にBPR(業務改革)1割の問題などに繋がってくるのですが、米国と比較するとこのように特許をうまく活かせていないという状態です。

そこで、この状態を何とかしたいと思い、8年ぐらい構想して、今年(2024年)、新しいプラットフォームの開発に着手しました。これが「PatenTrade」という名前のプラットフォームで、読んで字の通りパテントをトレードするサイトなんですけど、いろいろな工夫があります。

時間の関係で全部説明できないのですが、簡単に言うと、特許の権利をNFT(Non-Fungible Token)化して流通させるというものです。このアイデアは出願案件です。いま原稿を書いてもらっているんですけど、特許を取ります。

特許ってすごく堅いイメージしかなくて、それも人々を遠ざけている原因なんですけど、下の図のように見た目もポップな感じにして、誰でもアクセスしよう、というものにしています。

そして、私がこういう知的財産関連のソフトを開発するときに重視しているのが、デザイナーの力を借りるということです。いろいろな垣根を越えてさまざまなアイデアを出してくれる人はデザイナーぐらいしかいないと思っています。このプラットフォームは、すごいデザイナーさんにお願いして頑張って作りました。

今はデザインが終わった状態で、このあと実装に入っていくんですが、ちょうどそのモックを見せられる機会があります。(2024年)11月12日、13日に、北陸先端科学技術大学院大学が行っている「Matching HUB Hokuriku 2024」という産学官金連携のイベントがあり、ここにモックアップします。

●言葉の役割は「価値の伝達」

まとめに入ります。言葉の役割ということで、素敵な取り組みをご紹介したいと思います。

能登の震災があった後、国は今ちょっと見捨てた状態になっているけれど、有志で何とかしたいと思っている人がいろいろな取り組みを行っています。そのうちの一つが、そもそも能登をどうするか、ということについてです。

今、大きい問題はインフラなんですけど、インフラを直して過疎地に帰ってもらうのか、それはもうやめてみんなに移住してもらうのか。前者ならそのインフラ自体の費用や維持費用とかをどうするのかという話と、後者なら「いや、残りたい」という人たちが実際にどう思っているのかについて、一人一人の声を集めた団体があります。
これは「能登乃國百年之計」という取り組みで、「100年後、能登にどうなってほしいか」について、住民の人たちや能登が好きな日本の他の地域の人たちに聞いて、その声を集めたものです。

ここで今日の話とちょっと繋げたいのですが、この取り組みはインタビューではなくて、各自が自分で文字を打ってことばにしたんです。高齢者などは別の人が入って代行でタイピングしました。

私はこれを見て、やはりことばは、写真とか動画とかではないものを表現できるんだなあと思って、一つ一つの声を読みました。「ことばの力って何?」と言われたら、たぶんこういったことなんだろうと思いました。

最後に、今回の翻訳祭のテーマである「ことばを伝える」の定義を私なりにしてみると、「ことばの役割は価値の伝達」かなと思います。

先ほど、ニッチトップは特許という価値を持って海外に出て戦う、あるいは加賀友禅の価値を何としても伝えたい、それを翻訳者や通訳者に求めているというお話がありました。能登の場合ならば、「ここ能登に住んだらこんな価値があるんだ」と各々が思っていること、そういった能登の人々の生活の価値を伝達できる手段としてことばがあるのかなということで、まとめとしたいと思います。ありがとうございました。

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◎講演者プロフィール

宮崎幸奈(みやざき ゆきな)

株式会社IPアドバイザリー代表取締役。石川県白山市出身。関西外国語大学短期大学部を卒業後、日本銀行金沢支店に勤務したのち、家族の帯同により上海に渡る。帰国後、PFUテクノコンサル株式会社知的財産プロジェクトへの参加を経て独立し、地元石川県で株式会社IPアドバイザリーを設立。知的財産翻訳検定(英語1級および中国語)やAIPE認定知的財産アナリスト(特許)試験に合格し、質の高い特許翻訳、特許調査・分析、知財コンサルティングサービスを提供している。知財を軸とした経営支援により、中小企業の付加価値を向上させ、日本を強くすることをミッションとしている。

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