日本翻訳連盟(JTF)

私の一冊:『2人は翻訳している』

第66回:韓国語翻訳者 清水 知佐子さん

『2人は翻訳している』すんみ・小山内園子著、タバブックス、2025年

翻訳の仕事を始めたころに、ある人に言われた言葉がある。「翻訳は、出発語と到着語の両方のネイティブスピーカーがペアを組まなければいいものにはならない」。出発語のネイティブスピーカーがより綿密に原文を読み解き、それを到着語のネイティブスピーカーがより適切な翻訳語へと導く。まぁそうなんだろうなと思っていた。

すでに5冊の共訳がある著者の二人は、そんな関係を超越している。

「語ると、別な角度からのすんみさんの読みが返ってくる。ああ、そうなんだ。なるほどな。私という物語が訳されていく。それは、翻訳者を友人に持つ醍醐味かもしれない」、「小山内さんのコメントを確認していると、私に見えている作品の中の風景が変わってくる(中略)もしかしたら小山内さんとの共訳で、私はこのような感覚を求めているのかもしれない。作品を読んで私が見た風景を、打ち破ってくれる言葉を待っているのだ」

翻訳という孤独な作業の中で互いの存在がどれだけ大きな力になっていることか。それぞれ相手の頭の中に新鮮な風を送り込み、時には価値観をも揺さぶり、信頼関係を築き、そんなしっかりした土台からすぐれた翻訳作品が次々と生み出される。羨ましいのを通り越して同じ翻訳という世界に身を置いている私までもが心強く、幸せな気持ちになってくる。翻訳っていいなと思えてくる。

◎執筆者プロフィール
清水 知佐子(しみず ちさこ)
翻訳家。訳書に『女ふたり、暮らしています。』(キム・ハナ、ファン・ソヌ著/CEメディアハウス)、『幼年の庭』(呉貞姫著/クオン)、『私の「結婚」について勝手に語らないでください』(クァク・ミンジ著/亜紀書房)、共訳に『完全版 土地』(朴景利著/クオン)などがある。『真夜中のちいさなようせい』(絵と文シン・ソンミ/ポプラ社)で第69回産経児童出版文化賞翻訳作品賞受賞。

★次回はアラビア語文学の翻訳家、柳谷あゆみさんに「私の一冊」を紹介していただきます。

←私の一冊『曇る眼鏡を拭きながら』

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