私の一冊:『問題だらけの女性たち』
第69回:韓日翻訳者 吉良 佳奈江さん

―かつて世界には女性が存在していませんでした。だから歴史の授業で女性の偉人について習わないのです。
「そんなわけないだろ!」と突っ込みたくなる一文から始まるこの本は、19世紀ヴィクトリア朝の女性に対する迷信と固定観念がイラスト付きで紹介されています。根拠のない偏見を信じて時には作り出していたのは、ダーウィンやラスキンなど歴史の教科書で習う偉人たち。こんな賢い(はずの)人が、こんなアホなことを信じていたんですか?マジで?という落差がこの本の醍醐味です。
ジャッキー・フレミングのウィットに富んだイラストと文章、松田青子さんのすばらしい翻訳で笑いながら読んで、21世紀になっても女性が土俵に登れないこの国で笑っている場合ではないと思いました。19世紀の女性たちが抱いていた虚無感や怒りに私も共感します。ブックトークで同行していた韓国の小説家、キム・メラさんに「翻訳機でいいから読んで」とページを開いて差し出したほどです。
翻訳には時代と言葉の壁を飛び越えて共感できる力があると信じて、私は翻訳をしています。
◎執筆者プロフィール
吉良 佳奈江(きら かなえ)
韓日翻訳、語学講師。家父長制を削る作品を翻訳している。
訳書にソン・アラム『大邱の夜、ソウルの夜』、キム・メラ『わたしを夢に見てください』など。
★次回はフランス語翻訳者の井田海帆(いだみほ)さんに「私の一冊」を紹介していただきます。
