私の一冊『センス・オブ・ワンダー』
第62回:韓日翻訳者 KIKAさん

上京して間もない昨年の夏、酷い熱中症にかかり、大変な思いをした。年々更新し続ける最高気温に加え、いつ起きるかもわからない大地震。慣れない東京生活のなかで、自然現象を恐れる気持ちばかりが募っていた。
そんな時に出会ったのが、レイチェル・カーソンの名著『センス・オブ・ワンダー』(上遠恵子訳)だ。
センス・オブ・ワンダーとは、上遠恵子さんの名訳によれば「神秘さや不思議さに目を見はる感性」である。
カーソンはこの本を通して、自然を恐れるのではなくして畏敬の念をもって受け止める姿勢を伝えている。彼女の言葉は、人間中心的な自然観に染まっていた私に、人間が自然のダイナミズムの中に生きている事実を思い出させてくれた。ページをめくるたび、外に出ることが怖いだけの日々から少しずつ解放されていくのを感じた。
恐怖で塞がれていた感受性をふたたび開いてくれたこの本は、私にとって自然と向き合うためのたしかな道標である。これからも自然に対する恐れが私の心を覆う時、私は、必ずこの一冊に立ち返るだろう。
◎執筆者プロフィール
KIKA
韓日翻訳者
高校卒業後、韓国の大学に留学。帰国後、2020年よりフリーランスで翻訳を始める。ウェブ小説からスタートし、現在は主にウェブトゥーン翻訳を手がけている。
★次回は韓日翻訳者の廣岡孝弥さんに「私の一冊」を紹介していただきます。