第4部公開ワークショップ、別名「公開めだか」の感想
第4部公開ワークショップ、別名「公開めだか」の感想
昨年の翻訳フォーラム・シンポジウムのワークショップから「翻訳そのものを考える」勉強会が生まれた。昨年度は1年間で6回開催。誰が生徒で誰が先生なのか、みんなでお遊戯ならぬ訳文を検討し合うという趣旨から「めだかの学校」の名称がついた。今回のシンポジウムでの公開ワークショップは「公開で行うめだかの学校」というわけで別名「公開めだか」とも呼ばれている。今回の感想をフォーラム幹事および参加者(「めだか」とも呼ばれている)有志からひとことずつ集めてみた。
高橋さきの(たかはし さきの)
準備して臨んだはずが、議論のなかで気づいた点がいくつもありました。それも、訳しはじめる前に気づいておかねばならないことがらばかり……。きっちりと書かれた文章を、互いに検討しながら訳出するのは厳しい作業ですが、からだに染みこみます。勉強会の恥は言ってみれば「かきすて」。仕事の本番ではかけられないような「時間」をかけて、かけないような「恥」をかけるのが醍醐味です。実は、今回検討した事項が、仕事でもどんどん出てきていて、あぁこれまでは整理されていなかったから気づかなかっただけだったのか、と改めて確認しているところです。
井口富美子(いぐち ふみこ)
ティム・パークスはなかなか複雑な人だ。創作もすれば翻訳もし、大学で翻訳を教え、英語圏の外から英語圏を見て暮らしている。文芸だけでなく技術翻訳も教えているらしい。「筆1本で食べていくのはお互い大変ですよね、先輩」と声をかけたくなる。課題文は難解ながら、おっしゃることはごもっとも、と思った人も多いのではないか。
普段のめだかでも公開めだかでも、他の人の訳文を見るといつもながら気持ちが落ち込む。全然ダメだ、翻訳なんて向いていない、と思いつつ、次回こそ、と思う気持ちが原動力になる。
佐復純子(さまた じゅんこ)
めだかの学校は、泳ぐ(訳す)ための基本的な筋力やバランス感覚、言語能力そのものを鍛える場です。公開ワークショップでは、時間の制約もあって、いつもの白熱教室っぷりが十分伝わらなかったかもしれませんが、「日本語のテンスとアスペクトは英語とは違う。英語が過去形だからといって過去形で訳さなければと考えるのはナンセンス!」「段落全体での重みの付け方がまるでなってない!」「ロジックとレトリックの区別ができてない!」などなど、容赦なくもあたたかいアドバイスを浴びられるのがめだか組の醍醐味です。溺れかけながらも、少なくとも明るいほうへ向かって泳いでいます。
久松紀子(ひさまつ のりこ)
原文は、誤訳のないようにきちんと文法と構文を把握して読む。それ以外のことを考えたこと、いや、考えねばならないと思ったことすらない。代名詞? 言い換え? somethingって確かに論文には出てこないけど、それが訳文とどう関係するのだろう……? 着眼点てなんだろう。物の見方って何のことだろう。どういう順番で読むかってどういうことだろう。
何もかもが初めてで、何もかもが新しい。
ならば、今まで自分がやってきた「翻訳」って何だったんだろう。ワークショップの間、そればかり考えていた。翻訳ってこうやってやるものなんだ……。
そしていま、「道しるべ」の存在がわかった以上は、それに従って進んでいくのみ。一歩ずつでも確実に。
星野靖子(ほしの やすこ)
翻訳フォーラムの勉強会は、翻訳の基礎トレーニングを積む貴重な場です。今回の公開ワークショップは、日ごろの勉強会の様子を参加者に観覧いただくということで、出だしは少し緊張しましたが、第3部までの講演を受け、温かく刺激的な雰囲気の中、楽しく参加できました。
原文をよく読み、辞書を調べ、適切な語句を選ぶ。ごく当たり前のようですが、ついおろそかにしがちです。分かり切っているつもりの小さな語句でも、ひとつひとつ丁寧に読み取ることが大切と、あらためて痛感しました。