私の一冊『死にゆく人たちと共にいて』
第19回:英日・日英・仏日翻訳者 待場京子さん
1997年発行のフランス発のノンフィクション作品、『死にゆく人たちと共にいて(La Mort Intime)』マリー・ド・エヌゼル著・西岡美登利訳(白水社)をご紹介します。
著者はフランスに初めて作られた緩和ケア病棟で働く心理療法士です。癌を宣告されたミッテラン大統領が彼女のケアを死の直前まで受けたということでも話題になりました。
エリザベス・キューブラー=ロスが『死の瞬間』を発表したのは1969年。その後、日本でも1990年に山崎章郎医師の『病院で死ぬということ』が話題作となり、社会でいかに死を受容するべきかが徐々に認識されてきました。しかし、それから30年を経た今なお、死は口にしてはならないものとされたり、あるいは不自然に憧れられたり、落ち着いた議論がますますされにくくなっているようです。
本書では、死を前にした患者やそこに寄り添う人々が生のどれほどの豊かさを汲み取ることができるかを、ひとの計り知れない強さを、静謐な筆致で描かれたさまざまなエピソードが教えてくれます。
◎執筆者プロフィール
待場京子(まちば きょうこ)
英日・日英・仏日翻訳者。同志社大学文学部文化学科国文学専攻卒。仏モンペリエおよびディジョンに滞在経験あり。主に医薬文献の翻訳を手がける。ドキュメンタリー映画『れいわ一揆』(2019)で英語字幕制作を担当。守備範囲を広げるべく勉強中。
★次回は、韓日・日韓翻訳者の加来順子さんに「私の一冊」を紹介していただきます。