日本翻訳連盟(JTF)

第 2 回:日本翻訳者協会(JAT)

日本翻訳者協会(Japan Association of Translators、略称JAT)についてご紹介いたします。

●JAT 組織について

日本翻訳者協会(Japan Association of Translators、略称 JAT)は、英日・日英の翻訳者・通訳者の情報交換の場を設け、翻訳の品質を向上させ、翻訳をさらにやりがいのある仕事へ高めることを目的として 1985 年に設立されました。

「実際に翻訳を行うのは、翻訳会社ではなく翻訳者個人であり、翻訳という職業の発展のためには、個人翻訳者の関心事や利益を重視すべきだ」という基本理念のもと、会員資格は既に翻訳者または通訳者であるか翻訳または通訳に興味がある個人に限定されています。

JATは、2001年4月以降、東京都認定の特定非営利活動法人(NPO法人)として活動しており、2024年1月現在、会員数はおよそ550名です。JATは、会員に専門的能力の開発やネットワーキングのための機会およびリソースを提供しています。

●活動内容について

日本翻訳者協会は会員の翻訳・通訳の技術向上をはかり、翻訳・通訳業の地位向上および理解を深め、公益のために情報のグローバル化に貢献することを目指して活動しています。

JAT が目指しているのは以下の通りです。

  1. 英日・日英および日本語・多国語への翻訳・通訳業に従事する人のために情報や意見交換の場を設ける。
  2. 会合や研修会、オンライン相談室、翻訳コンテスト、その他の方法を駆使し、翻訳者、通訳者のために専門教育を提供する。ほとんどの勉強会・研修会は一般公開し、翻訳者・通訳者の育成にも貢献する。
  3. 一般社会および翻訳・通訳サービスを必要とする人に、翻訳者・通訳者に求められる包括的な専門知識、技術および経験について認識してもらう。
  4. 貿易、国際ビジネスのみならず、あらゆる分野の情報のグローバル化において、適切な翻訳・通訳は不可欠な要素であることを認識してもらう。
  5. 翻訳・通訳の仕事に従事する者のみならず、翻訳・通訳のユーザーが守らなければならない行為規範を確立する。
●英日・日英翻訳国際会議(IJET)について

1990年に発足した英日・日英翻訳国際会議(IJET)は、JATが運営するプロジェクトの中で最大規模の催しです。参加者同士のネットワークを通して経験と専門知識を共有し、各自の専門能力をさらに高めることを目指し、毎年、日本各地と英語圏の国とで交互に開催してきました。技術翻訳から文芸翻訳、コミュニティ通訳から会議通訳まで、通訳や翻訳に関する幅広いトピックを取り上げるだけでなく、翻訳や通訳を対象としたビジネスや人間工学に関するセッションも行っています。

コロナ禍によって 2020 年、2021 年、2022 年にIJET-31 を開催することは叶いませんでしたが、2023 年に東京で IJET-31 を開催することができました。久しぶりの対面による IJET を開催できて、参加者にも非常に喜ばれる有意義なイベントとなりました。2024 年はカナダのトロントで 5 月 25 日、26 日に IJET-32 が開催されます。

●国際翻訳セミナーPROJECTについて

The Professional Japanese-English Conference on Translation (PROJECT) は、国際翻訳セミナーで、翻訳・通訳の様々な側面や業界の情報などを取り上げる丸一日の研修会です。昨年は神戸で Project KOBE 2023 を開催しました。11 月に神戸市産業振興センターにおいて「スタンダードに沿った翻訳とは」「ポストコロナの地方通訳者の働き方」などのテーマについて講演が行われ、講演後にはレストラン ブラジリアーノにてネットワーキングランチを開催しました。登壇者と参加者がともに参加し、良いネットワーキングの機会となりました。なお、2022 年についても会員有志の協力により、4 月に ProJECT Online、11 月に渋谷でProJECT 2022 Reconnect が開催されました。

●地域活動委員会(Regional Activities Committees, RAC)および分野別分科会(Special Interest Group, SIG)について

JAT には、東京、関西、東北、米国中西部という 4 つの地域活動委員会のほか、法律、医薬、特許翻訳、翻訳ツール、通訳、エンターテイメント、出版翻訳という、特定分野に特化した 7 つの分野別分科会があります。

これらのグループは、去年から今年にかけてもさまざまなウェビナーやオンライン・ワークショップを開催し、参加者に研鑽と交流の機会を生み出してきました。最近では昨年 12 月に TAC主催で東京忘年会 2023 が開催され、JATBOOK 主催で「翻訳書制作の現場から」と題したイベントがオンラインで開催されました。

各 SIG・RAC の活動については、JAT のホームページや SNS で最新情報をお伝えしています。

●JAT新人翻訳者コンテストについて

優秀な新人実務翻訳者の発掘と奨励のために開催している日英・英日翻訳のコンテストです。実務翻訳(放送・映像翻訳も含む)経験 3 年未満であることを応募資格としていますが、応募は JAT 会員でなくても可能です。

2023 年は 10 月 1 日に第 20 回 JAT 新人翻訳者コンテストの受付を開始し、英日部門に 84 人、日英部門に 66 人から応募がありました。各部門から 5 名ずつ最終選考に進んでおり、現在最終審査中です。受賞者はまもなく 2024 年 2 月中旬ごろに当協会ウェブサイトの「ニュース・お知らせ」欄で発表される予定です。

●その他の活動

[会員によるエッセイ掲載誌「翻訳者の目線」の発行]

JAT では年一回、会員からエッセイを募集して「翻訳者の目線」を発行しています。2023 年は 14 名からの寄稿があり、「翻訳者の目線2023」としてまとめました。2023 年に大きな話題となった ChatGPTや、翻訳者の時短アイデアなど、さまざまなトピックを取り上げたエッセイが寄せられました。本誌は紙冊子の他に電子版も作成しております。電子版は当協会のウェブサイト上からどなたでもダウンロードできます。

[e-塾]

翻訳技術を高めたい JAT 会員向けに、ベテラン会員が指導するオンライン翻訳塾で、主に駆け出しの日英ネイティブ翻訳者を対象に実施してきました。2009 年の開始後、これまでに 16 回のセッションにのべ 100 名以上が参加しました。ワークショップスタイルで参加者はさまざまなジャンルの課題に取り組み、メンターからのフィードバックを受け取っています。

[ニュースレター発行]

JAT では、2022 年よりニュースレターの配信を再開しました。このニュースレターは、JAT 会員のみならず、JAT の活動に興味のある非会員の方もご登録いただけます。

現在、春・夏・秋・冬の季節ごとにニュースレターをお届けし、今後開催されるイベント・セミナーの告知や申し込みのご案内、また、実施された活動の報告を行っています。また、IJETに関するお知らせ、JAT 会員が利用できる特典やアーカイブ動画のご紹介も行っています。現役の翻訳者・通訳者だけでなく、勉強中の方にとっても有益な情報が盛りだくさんです。

[求人掲示板の運営]

JAT ウェブサイトには会員のみが閲覧可能な求人掲示板があり、週に 2、3件の新規求人情報が寄せられています。求人掲載の申し込みは JAT ウェブサイトの専用フォームから日本語または英語で、無料で行っていただけます。英語でも求人掲載の申し込みができることから、海外からの求人も寄せられており、会員にとっては貴重な情報源となっています。申し込みのあった求人情報は JAT 内である程度精査した上で掲載しています。

[会員データベースの運営]

JAT ウェブサイトには「翻訳者を探す」というページがあります。会員になると自分のプロフィールページを持つことができるため、国内外から問い合わせを受ける機会が多くなり、仕事獲得のチャンスが高まります。多くの会員が JAT のプロフィールページを通じて新しい仕事の話が来たと話しており、会員サービスの目玉の一つとなっています。

●次年度のイベント

[カナダ、トロントで行われる IJET-32 について]

IJET-32 のテーマは「Who knit ’ya? (*)Who are we in the age of Chat-GPT」です。基調講演にはカナダ人の落語家、桂サンシャインさんが登壇する他、各ジャンルの翻訳者や翻訳に携わるプロフェッショナルが登場し、独自の切り口でセッションを担当してくれます。日英通訳に欠かせない【主語】の決め方(Allyson Sigman)、I am wearing….Pants! WhyJapanese translation is so difficult.(Kaori Myatt)など。

IJET の詳細については特設ウェブサイトでお知らせしています。

  • “Who knit ‘ya?”という言葉はカナダのニューファンドランドのスラングで「あなたの両親は誰ですか?」という意味であり、ニューファンドランドの地方社会の強い結びつきとつながりを持つことの重要性を強調するものです。翻訳者・通訳者もまた、緊密なコミュニティを形成していますが、最近の AI の進歩により私たちのコミュニティの結びつきが弱まり始めています。そして、翻訳者・通訳者である私たちが何者であるか、また言語間や文化間における真の伝達者である私たちの役割の重要性をどのように維持できるかを考えることがこれまで以上に重要になってきています。
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