日本翻訳連盟(JTF)

6-4 SNS活用で翻訳をステップアップ! ~SNSが結ぶ絆と知恵~

パネリスト:

上林香織

医薬翻訳者、メディカルライター

小林晋也

技術翻訳者

長尾龍介

英日、日英デジタルゲーム翻訳者

モデレーター:

齊藤貴昭

翻訳コーディネーター、社内翻訳者

報告者●室屋里実 (株式会社プロシステムエルオーシー)



質問:Q
回答:A

齊藤: 分野や居住地の異なる3名の翻訳者をパネルリストに迎え、SNS活用に関するメリットやデメリットを討議していく。

上林: 現在、SNSは電気やガスと同じくらい必要かつ当たり前の存在になり、「インフラ化」している。このインフラ化によって、多くの人はSNSを体の一部のように利用し、あまり現実世界と区別していない。私も現実のことを決めるのにSNSの情報を気にするなど、SNSでの付き合いに現実での付き合いと同等の重要性を置いている。こうしたSNSの「インフラ化」は今後さらに進んでいくと考えている。私は今日はこのような立ち位置にいる者として、皆さんの意見を聞いていきたい。

齊藤 Q1:SNSを使う前はどう考えていたか?何故、積極的に使い始めたか?

小林 A1:使う前は翻訳者の友人や知り合いがとても少なく、オンサイトで知り合った人でも長く付き合うような人はいなかった。SNSを使い始めてからはSNSでのつながりを持てるようになった。これを転機として自分から情報を発信したいという気持ちが強くなり、現在も使い続けている。私のような内向的な人間は、SNSを利用するのは良いアイデアだと思う。

Q:SNSを止めたのに、再開された理由は?

小林: 健康保険の話がツイッターでされていて、教えてあげたくて仕方なくなった。それがきっかけで、利用を再開した。

上林 A1:特に意識を持って使い始めたわけではない。ある方をフォローして、翻訳に関する質問したら親切に答えてくれ、それから使うようになった。

長尾 A1:SNS食べず嫌いから、なぜ積極的に使うようになったか?それは、同業者を知らない、自分の作った作品に名前も載らないという状態から、このままでいいのか?という疑問を持った。頭をフルに使わないとできないような無理難題や、知的刺激があればいいなと感じていた。
携帯電話で検索して、とある同業のゲーム翻訳者のブログにヒットした。そこには自分が日々考え悩んでいるようなことと同ベクトルの内容が書かれており、大きな刺激となった。その翻訳者がツイッターで発信していることを知り、読みやすいように自分もアカウントを作り、他の同業者をも探し求めた。ツイッターを使い慣れた人々のつぶやきや、リツイートされてくる情報から、それまでにはなかった知的刺激を受けた。

齊藤 Q2:SNSを使っている目的は?目的で使い分けているか?

小林 A2:何も考えていないというのが本心。会社に出勤して仲間に挨拶するような日常の延長と捉えている。また、SNSを使って何を伝えて行けるか?を考えている。

上林 A2:SNSがある生活が日常になりすぎているので、利用することに目的を考えていない。内容も仕事とプライベートが非常に混在している。それが嫌な人は自分とはつながりを持たないだろうという、相性の善し悪しの判断基準にもなると感じている。

長尾 A2:目的ごとで使い分けている。フェイスブックは既に親交のある知人の近況などを確認することで「仲間の気配を感じるツール」、ツイッターは知的刺激のソースになる人を探すとともに、自分のこだわりや特性を可視化することで興味を持ってもらう「フックとしての役割を果たすツール」として使っている。

齊藤 A2:自分も明確に使い分けている。ブログは駆け出しの翻訳者や翻訳学習者を対象に翻訳関連の情報を流している。フェイスブックでは閲覧者を制限したりグループ分けすることでその人たちにしか分からない深い話も場を選んで行うことができる。ツイッターでは公共でも問題のない雑談や冗談など、人となりは伝わっても個人情報や私的すぎる内容は扱わない。

会場 Q:外国の文書を翻訳して、翻訳を見せるようなブログを見るが、それをどう思うか?

上林 A:私も似たようなことをしているが、著作権の問題があるので注意が必要。昨年の翻訳祭でF1の記事をブログに書かれている方がいたが、その方はニュース発信元へ連絡をして、承諾を受けた上で翻訳してブログに掲載されていた。

会場 Q:SNSが日常の一部とのことだが、時間を取られると思うが、どう自分の気持ちをコントロールしているのか?

小林 A:ツイッター中毒者は、全てのツイートを見なくてはいけない、全てに反応しなくてはならないと考えている人が多い。しかし、それは間違いだと思う。私は都合のいいものや必要なものだけに反応している。

上林 A:返信とか「いいね」を押すなど、ドライに考えている。SNSは脳みその延長だと言ったが、気持ちの上で身体の一部になっている人にとっては、SNSがなくなることは自分を失うことと同じなのだろうと思う。

長尾 A:自分でツイッター中毒だとは思っていない。ツイートは自分の思考と興味を記録するログであると共に、限られた字数で誤解されずに伝える訓練になると考えている。日記でもあり遺書でもあり、ゲーム翻訳者として何を考えているのか、何を面白がっているのかを表現している。

会場 コメント:良い訳が浮かばない時にツイッターを2~3分読んで戻ると、良い訳が浮かぶことが良くある。そういうスイッチの代わりにツイッターを使っている。

会場 Q:私も情報の共有、仲間探しの為にSNSを使っている。会った瞬間に直ぐにコミュニケーションに入れるような効果があるが、パネリストの方はそういう目的があるか?

長尾 A:思考を交流したりぶつけたりする為のショートカット、時間を短縮する効果があると思う。

上林 A:勿論、リアルで会うことが重要である。SNSで交流している人はリアルで会っているくらいの親密な関係を築けると思う。

小林 A:SNSで交流することでその人の人柄を知ることができる。

齊藤 Q3:SNSの使用前後でどのような変化があったか。

長尾 A3:SNS上のつながりで紹介される案件が増え、ツイッター使用前から比べて平均レートが2割上がった。また、その多くは内容が自分に非常に適していたり、感覚的に面白く感じるものであり、レートも割高の場合が多い。SNSで自分の特性やスキル、やりたいことを可視化してきたことで、自分にマッチした仕事が回ってくることになった結果だと感じている。

上林 A3:自分の学習内容をブログに書き始めてから、先輩が声をかけてくれたり、内容に対するリアクションを得られるようになって、モチベーションの向上や人とのつながりを感じるようになった。そのことが、翻訳のクオリティが上がるなど良い影響として表れている部分はあると思う。

小林 A3:以前は一介の翻訳者だったが、SNSを始めてから翻訳雑誌に寄稿したり動画サイトなどで表に出るようになった。自分は知らないが、自分のことを知っているという人も増え、クライアントにも顔を知られていることが多い。同時にプレッシャーも感じているが、それに見合う努力をし、成長してまた表に出るという好循環が生まれている。結果として関西のSKIT翻訳勉強会の立ち上げやインターネットラジオなど、さらに新たなことが生まれ、新たなつながりを持つことができている。

Q:最後に、皆さんに伝えたいこと。

長尾: Keep connecting.
上林: 楽しみましょう。
小林: 繋がって下さい。
齊藤: SNSはツールです。良く理解して使えば役立ちます。この4人をフォローして欲しい。

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