「翻訳の日」連動企画 パネルディスカッション
災害時の多言語支援~多文化共生社会に向けた取り組み~
●災害時の多言語支援に関する翻訳・通訳者の意識
二宮:JTFでは今回、事前に会員の皆様にアンケートをお願いし、104名の方にご回答いただいております。このアンケートの趣旨としては、災害時の多言語支援に関して皆様がどういう認識なのかというところをある程度共通認識として持ちたいという思いがあり、実施いたしました。その回答結果についてご報告させていただきます。
まず、属性についてお伺いしております。下のグラフのように回答者の約7割の方が翻訳者です。
2番目に、「お住まいの地域に住んでいる外国人との交流はありますか」と聞いておりますが、7割程度の方が「交流がほとんどない」「全くない」という回答でした。
3番目に「災害時の外国語支援に興味はありますか」とお伺いしますと、なんと9割の方が興味はあるとご回答いただいております。
続いて、「災害支援関連の翻訳・通訳の案件を業務として受けたことがありますか」という4番目の問いでは、私としてはちょっと意外で、もう少し多くの方がやっていらっしゃるのではないのかと思いましたが、「ある」と回答された方は10%という結果でした。
5番目に「災害時、翻訳もしくは通訳でボランティア活動をしたことがありますか」とお伺いしたところ、こちらも「ある」という回答は1割程度でした。非常に関心は高いけれども、実務あるいはボランティアはあまり経験がないという方が多いことがわかりました。
業務経験とボランティア経験についてご回答いただいた結果を、クロス集計してみたのが下表です。一番上にある表が実数で、業務経験もあるしボランティアもしたことがあるという方は5名、両方ないという方が90名いらっしゃるので、ほとんどが両方ない方です。両方あるという方は5名で、非常に少ないということが実数からは見えるのですが、表の見方を変えまして、行パーセント、列パーセントを中段と下段の表に書いております。
それぞれの行を100%として行パーセントで考えますと、業務経験があるという方のうちの半分はボランティアの経験もあるという結果です。一方、業務経験がなく、ボランティア経験はあるという方は4%しかいらっしゃらない。
また、それぞれの列を100%として考えると、ボランティア経験があるという方の56%は業務経験もありました。一方、ボランティア経験がなく業務経験のある方は5%しかいませんでした。比率で見ますと、業務経験とボランティア経験は非常に強い関連があるということがわかりますし、これを統計のカイ二乗検定にかけてみても有意であるという結果が出ますので、どちらが原因か結果かはわかりませんけれども、やはりボランティアと業務というのは密接に関係しているということが今回わかりました。
中野:ここで一つよろしいでしょうか。このクロス集計がすごく興味深い結果だなと思って拝見しました。翻訳者や通訳者は、ある製品やサービスの翻訳、通訳をすると、それについてすごくよく調べたり、ポジティブな面を見て伝えるようにすることが多いので、仕事として受けた後に、その製品やサービスを自分でつい購入したり利用したりしてしまうことがよくあるんですよね。
逆に、普段経験があるものを仕事として受けるパターンもあるので、どちらが先かはわからないですけれども、今回の統計についても、もともとボランティア経験があるので、たとえば履歴書に書いたりそういった案件を積極的に受けるようにしたりしている面もあるかもしれませんし、逆に、災害時支援の仕事を受けることで、それについて深く知って、じゃあ自分もボランティアをやってみようと動く方が多いのかなと思いました。こういった災害時支援に限らず、全体的にこの仕事として共通する結果だと思いました。
二宮:おっしゃる通り、翻訳、通訳では専門性が非常に大事になってきますので、そういった意味では、ボランティアと業務が関連している、専門性を深めていっているというのは、ある意味当然の結果なのかもしれないと思います。
では、アンケート結果報告を続けます。下図をご覧ください。6番目に「災害時のボランティア翻訳・通訳で最も重要な要素は何ですか」とお伺いしたところ、正確性が約3割、速さが約3割でした。早くかつ正確にと非常にタイトな要求をされる仕事だなと思いました。
続いて7番目、「ボランティア活動をされていない理由は何でしょうか」と、経験がない方にお伺いしたところ、「居住地が被災してないから」という方が約4割、「具体的なアクションがわからない、何をしていいかわからない」という方が約3割の27%いらっしゃいました。本日のディスカッションがそういう方々に何かしらのヒントを与えられればいいなと考えております。
8番目に「居住地域の行政機関で、翻訳・通訳ボランティアの事前登録募集があった場合、登録しますか」とお伺いしたところ、登録するという方が約3割、登録を検討するという方が約5割、合わせて76%の方が非常に前向きに考えていらっしゃることがわかりました。
一言申し添えますと、行政のほうでこういった事前登録は実際にはあまりないということです。現実としては、日々、国際協力協会等々いろいろな場所で活動されている方が実際の災害時にもボランティア活動をされるケースが多いとは聞いておりますが、仮にこういった事前登録があれば、そこで初めてリアルに検討していただけるというところも一つわかりました。
9番目に「ボランティアの事前登録をされない理由はなんでしょうか」という問いに対して、一番多かった回答が「その他」のところで、非常に詳細なご事情を記載いただいておりました。理由は本当に様々で、ある意味仕方がない合理的な理由だと思っております。
最後に、今日ご覧いただいている方々がだいたいどういう認識なのかということを、数字の多いところを拾って一言でまとめますと、「ボランティアの活動経験はないが、外国語支援には興味がある」「自治体への事前登録は前向きに考える」という方が多いのではないかというところで、この3つの設問をクロス集計しますと、だいたい65%になります。
そのグラフ(下)を見ていただきますと、まず左側の「ボランティア活動歴がない」というところで、赤い部分の「興味はある」が24%、「事前登録を検討する」が41%、合計65%が「ボランティア活動経験はないが、外国語支援には興味があり、自治体への事前登録を検討する」という方になります。
これを、いわゆる母比率で、どのくらいの方々がどのくらいの比率でもう少し幅を広げて言えるかということで、95%信頼区間を求めますと、だいたい55~74%ぐらいになります。このアンケートにご回答いただいてない方も含めて、おそらく今日ご視聴の少なくとも過半数の方々は、こういった認識なのだろうということがわかりました。
皆さん、多言語支援に非常に興味を持っていらっしゃることがわかりましたので、ぜひとも今日は、今後の活動のきっかけになるような情報をご提供できたらと思っております。
以上で、アンケート調査の結果報告と各団体の紹介を終わります。
(第2回につづく)