「翻訳の日」連動企画 パネルディスカッション
災害時の多言語支援~多文化共生社会に向けた取り組み~
第3回:多言語情報をどう届けるか
●多言語情報をどのように外国人住民に届けるか
二宮:もう一つの問題として、さまざまな情報がCLAIRさん等から発信されていますし、自治体からも発信されているとはいえ、それが当事者に届かないと全く意味がないということがあります。ではどうやって届けたらいいんでしょうか。セサルさんのご経験からお話いただければと思います。
セサル:下図は、外国人にSNS利用状況を調査した報告書です。「災害などに関して、どうやって情報を入手していますか」というアンケートはなかなか見つからなかったので、2018年でちょっと古い資料になりますが、TABOネットが外国人1000人を対象に行ったこのアンケートを紹介させていただきます。
右側の調査結果のグラフをご覧ください。在日外国人はどうやって情報を入手しているかというと、ほとんどがFacebookとLINEです。私自身の周りにいる在日外国人や、日本語がそんなに達者ではない、または日本語が話せない外国人も、Facebookから情報を入手しています。SNSの中にグループがあって、そのグループ内で情報入手しているという調査結果が出ていました。2018年から現在に至るまで、もう6~7年ほど経っていますので、現在の状況は変わっているかもしれませんが、基本的には今もFacebookがよく利用されていると認識しています。
そのFacebookを、私が簡易調査させていただきました。いくつかのグループを紹介します。
左上にあるのがベトナム語のグループで、登録者数72万人です。こちらは基本的には在日ベトナム人が登録しているグループです。このグループに情報を掲載すると、72万人に情報が一気に届くということがわかると思います。
右上は、日本にいる外国人の母親たちという名称のグループです。このスペイン語圏のお母さんたちだけでも1万4000人のグループになっています。
左下は英語圏の在日外国人のグループで、11万人の登録者数があります。右下はブラジルの方々のグループで、登録者数28万2000人です。
やはりこういったグループに入って情報を発信すると、外国人の手元にすぐに届くというようなことがあったりします。
下図には、SNSで情報発信することのメリットとデメリットを記載しています。
メリットとしては、特定のコミュニティ、特定の人たちにはちゃんと情報が届く。そして拡散も非常に速い。ソーシャルメディアの情報拡散の速さは、皆さんもご存じだと思います。
デメリットとしては、コメントの管理、例えば掲載した内容に対してコメントがあった時にはどこまで対応するか。そのコメントが外国語だった時に発生する翻訳作業をどうするかといったことです。
メリットもデメリットもありますが、外国人に届く方法としては、SNSの活用があると個人的には思っております。
●SNSの活用法を考える
二宮:SNSが情報の取得方法として、またリソースとして、非常に多く活用されているということなんですけれども、単にSNSというよりは、むしろそのグループですよね。それぞれのグループと情報発信源がいかに結びついていくのかということが大事だと思うのですが、自治体が独自で発信するSNSの情報等と各居住者の外国人が独自に作っているグループをどうやって結びつけるか、ということについて、滝澤さん、何かアイデアはございますか。
滝澤:そうですね、行政から発信する情報に、外国人がアクセスするのはなかなか難しい場面もあると聞いております。
例えば、外国人の中で日本語がある程度できて、その外国人のコミュニティの中で、中核として活動されているような方と事前に関係を作っておく。いざという時には、そういった人たちを通じて情報を発信すると、その外国人コミュニティの中で情報が広がっていくというようなお話を聞いたことがあります。
二宮:SNSでの発信が一番読まれるというのと全く同じことで、たぶんスマホを介しているか介していないかだけの違いで、要はいかにそのコミュニティに近い人から発信していくのかというところですね。
ただ一方で、先ほどMTの事例で、間違った情報が出るなら情報がないほうがまだましだという話をしたんですけれども、やはり一番正しい情報は行政から発信される情報です。それをどうにかして伝えなければいけないという時に、今ご紹介いただいたように、個人的なつながりが非常に大事になるということですね。中野さん、その辺について何かコメントございますか。
中野:今、滝澤さんのお話を伺っていて思い出したのが、私の住んでいる自治体でも、外国人防災リーダーのような形で、その地区に住んでいる外国人がその地域のネットワークに関わっていらっしゃいます。たぶん居住年数が長い方だと思うんですけど、そういった方の登録と育成のようなことがされていると目にしました。そういった感じで、現場としては、各地域の直接的なネットワークで、防災リーダーを外国人自体にお願いするというパターンが考えられます。
もう一つ、SNSだと今フェイクニュースも多いですから、行政などのちゃんとした情報を拡散していく必要があります。JTFのアンケートの自由意見でも、災害地に住んでいないのでボランティアをしないという意見もありましたが、自分が被災したらボランティアどころではないのでできないと思うと回答した方もいらっしゃいました。そういうところでは、被災地以外のところに住んでいる人が、SNSなどを活用して公的機関の情報を翻訳して届ける。その部分は、外にいる翻訳者、通訳者ができることだと思います。
対面的なことでは、日本人が言語のサービスも提供するにしても、防災リーダーのような地域のコミュニティを活用する。これらを並行してやっていくといいかなと思いました。
二宮:防災リーダーをあらかじめ定めておくと非常に有効と思いますし、そのコミュニティに入っていく一方で、実際に被災したらとてもボランティアどころじゃないというのはおっしゃる通りです。けれども、遠隔地にいるからこそ、被災地じゃないからこそできることがあるとなってくると、日常のコミュニティには入っていない中で、じゃあどうやってそのコミュニティリーダーとつながっていくのか、そこがなかなか難しいかなとは思いました。
セサルさんにお伺いしたいのですが、外国人のコミュニティは日本でたくさんできつつありますが、そこに日本人がメンバーの一人として入っていくのは難しいですか。
セサル:私が見てきた中では、静岡で少なからずそういう方がいます。そういったネットワークまたは平時のネットワークの構築は、どこが作りやすいかというと、国際交流協会などが考えられます。コロナ前によく行われていた文化交流会等に、外国に興味を持つ日本人も日本の文化に興味を持つ外国人も集まるので、そういうところでネットワークが作れると思います。
二宮:なるほど。すでにできている外国人のコミュニティに日本人として入っていくのではなくて、日本人としてその地域で外国人の方々といろいろつながっていけば、そこでネットワークが形成されていくと。それが国際協力センターのようなところでの活動を担っていくでしょう、ということですよね。
セサル:はい、そうです。
二宮:では、先ほどの被災地の話に戻りまして、災害地に住んでいる人たちだと実際の発災時に活動できないとなってくる。その時、SNS上で国際協力センターみたいな場所を作ることは可能なんでしょうか。
セサル:今まで見たことはないです。なぜかと言うと、言語の問題が発生するからです。地域のさまざまな外国人、国籍、言語の方が集まって、情報を発信する共通の言語を作っていかなきゃいけないかなと思うので、そういったところは見たことはないです。
今年の8月に私が住んでいる町のお祭りがあって、多くの外国人も参加されました。どうやってこの祭りのことを知ったのかを聞くと、一つは地域の回覧版です。全部日本語ですけどお祭りの絵や何月何日という数字、そして「駅」と書いてあるのを見て、特定されたとのことでした。
また、Facebookのグループにお祭りの情報が掲載されて、ご家族で参加されたということもありました。
二宮:ありがとうございます。やはりピクトグラムとかやさしい日本語など、今後もっともっと活用されていくべきだろうと思います。一方で、SNSの中で、いろいろな多言語のコミュニティがあって、そこに情報発信するのが一番早いとわかっているけれど、なかなかそこにアクセスできない、コミュニティ形成できないという状況がある時に、じゃあ翻訳者、通訳者として何ができるんだろうかと言われたら、中野さん、何かアイデアは浮かびますか。
中野:そうですね。Facebookのコミュニティも、例えば日本に住んでいるブラジル人の方しかそこに入れないとしても、公的な情報をポルトガル語に翻訳して発信している人を、そのコミュニティの誰かが見かけたら、それをコミュニティに紹介してくれる。人頼みにはなってしまいますが、そうやって多くの人の目に触れれば、この情報をこのコミュニティに流してあげようと橋渡しをする人が出てくる。それを待つか、もっと積極的にアプローチする。
地域の外国人との交流は少ないというアンケート結果もありましたけれども、この言語の人たちはだいたいこの辺に住んでいるとうっすらわかっている人も多いので、積極的に「こういうところに行くと〇〇語でこういう情報がありますよ。あなたのコミュニティで紹介してあげてください」という案内はしてあげられると思います。そういう形での橋渡しは、外部にいても、その核のコミュニティにいなくても、SNSでアプローチはできると思います。
二宮:なるほど。まさに外国語がわかるからこそできる、地道な活動ということですよね。セサルさんがおっしゃる通り、言葉の壁というのは実はコミュニティにもSNSの中にもある。その壁同士をつなぐのは、実は外国語がわかる日本人だからできるんだ、というところを一つヒントとしていただきました。
情報発信というのは、発信した人と受け取り側とがつながって初めて情報が価値を持ってくるので、そのためのいろいろな創意工夫はまだまだ必要なんだろうなということが学習できたと思います。
●それぞれの立場でできることを
二宮:本日は災害時の多言語支援について、みなさまに議論していただきました。最後にお一人ずつコメントいただきたいと思います。滝澤さんからお願いします。
滝澤:今回、改めて外国人の方が災害時に直面する課題や、情報をどのように届けたら効果的に届くのかということについてみなさんとお話ができて、大変参考になりました。ご覧いただいている翻訳者、通訳者の方にも、災害時の支援について興味を持っていただくきっかけになれば嬉しく思います。
二宮:続きまして、セサルさん、お願いします。
セサル:多文化共生社会を作っていくためには、民間と行政が情報交換できる場があるとよいと思います。災害時だけではなく、多分野で平時からのお付き合いが非常に大切だと思っておりますので、今後もまたこのようなイベントを期待しております。
我々としましては、今後も災害時の被災地の方々、またはその行政に対して支援を続けていきますので、引き続きご利用いただければと思います。今後ともよろしくお願いします。
二宮:では中野さん、お願いします。
中野:今回は、私は皆さんのお話をお聞きする立場だったんですけれども、災害と言ってもいろいろな種類がありますし、外国人も住んでいらっしゃる方から訪日の方までいらっしゃいますし、多言語支援にもいろいろな形があるので、できる部分で少しでも協力して、せっかく今一緒に日本にいるのだから何かあった時にはお役に立てるようにしていきたいなと思いました。
二宮:みなさま、どうもありがとうございました。本日、災害発生時に実際に実務としてどういうことをやっているかだけではなく、日頃からどういった準備が行われていて何が大切なのか、その難しさも合わせてご紹介できたと思っております。最後には、いかに情報を伝えるかが重要なのだということを議論いただきました。
職業として外国語を扱っている我々に何ができるのか。それぞれの立場、それぞれの能力、あるいはそれぞれの事情によって、できることは変わってくるかとは思います。私自身もできることは何かということを考え、できることに取り組んでいこうと思いました。
今回のディスカッションによって、みなさまが多文化共生社会の促進に向けて、小さなことでも自分は何ができるのか、考え始めていただくきっかけになればと願っております。本日は長時間にわたって誠にありがとうございました。