徹底解剖!中国語翻訳の世界 ~ニーズ、品質管理、スキル向上の秘策~

第2回JTF 翻訳セミナー報告
徹底解剖!中国語翻訳の世界
~ニーズ、品質管理、スキル向上の秘策~

 

王 建明
上海育成通訳センター 校長

大羽 りん
(株)シー・コミュニケーションズ
代表取締役

 



2012年度第2回JTF翻訳セミナー
2012年7月12日(木)14:00 ~ 16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●「徹底解剖!中国語翻訳の世界 ~ニーズ、品質管理、スキル向上の秘策~」
講師●王 建明 上海育成通訳センター校長/大羽 りん (株)シー・コミュニケーションズ 代表取締役
報告者●津田 美貴 個人翻訳者

 



王建明氏は、上海出身の中国語ネイティブ。翻訳だけでなく同時通訳もされており、すべて日本語で講演してくださった。

中国市場のニーズ

ここ数年、中国での通訳・翻訳ニーズは高まっている。なぜなら中国の国際社会での地位が向上し、オリンピックや万博などの大型イベントの開催が相次ぎ、各国との経済貿易が盛んになったためだ。

中国語通訳・翻訳業界の現状

日本と違って、中国では翻訳は学問として認められておらず、その地位は極端に低い。世間一般では翻訳や通訳の重要性が認識されておらず、単語を置き換えるだけで辞書があれば誰でもできるという考え方が一般的だ。そのため品質はお世辞にも良くない。極端な話、単語を連呼するだけの通訳者が通訳者として活動している。

また、中国では翻訳だけ行っている人は少ない。というのも、中国語では翻訳も通訳も「翻译」といい、同じ単語で特に区別されない。当社も通訳が7割、翻訳が3割位で、どちらかというと通訳が多い。通訳者に翻訳業務をも行ってもらう場合も多い。

中国の通訳・翻訳会社は10名前後の小規模な会社が多い。大型案件の場合、複数の会社がかかわるので品質を揃えるのがとても難しい。というのも、一部の翻訳会社は翻訳のことを知らない経営者が経営しているので、特に品質問題が発生しやすい。

中国人通訳者・翻訳者の特徴

中国では日中通訳・翻訳だけでは食べていけないため、昼は別の仕事をして夜に翻訳するという方が多い。また、フリーランスの翻訳者も少ない。

中国では大学を卒業するまでに英語を16年学ぶが、日本語は大学に入ってから学ぶため3年半位しか学べない。なので、20代では経験が浅く翻訳を依頼するのは少し難しいと考えた方がよい。中国には通訳・翻訳の国家試験があるので、その資格を持っているかを最初の関門にするのも良いと思う。

語学力と専門知識の両方を持った人材はごく稀なため、人材の問題から翻訳品質が保証できず、どうしても不安定になる。

中国人通訳者・翻訳者と日本人通訳者・翻訳者の違い

中国人翻訳者は難しい案件でも積極的に受けるが、品質の面では完全に信じてはいけない。一方、日本人翻訳者は消極的で、難しい案件や少し厳しい納期ではお断りされてしまうが、ある程度品質を保証される。

日本人翻訳者の方にお願いしたいのは、チャレンジ精神の向上である。難しい案件や厳しい納期でもこなせば能力の向上に繋がるし、収入の増加にもなるので、遣り甲斐があるはず。
 
大羽りん氏は幼少時に中国で過ごした経験があり日中双方に通じている。その背景から、中国語翻訳・通訳の実情について話した。

中国市場のニーズ

中国の翻訳のニーズは今後ますます増える。というのも、13億人いる中国人の中で英語を使うのは一部だけで、ほとんどは中国語しか使わない。日本企業がターゲットにしているのは中国語しか使わない層なので、中国語翻訳がなくなることはまずない。

性格から見た翻訳の向き不向き

例えば、訳すのは早いがミスが多い翻訳者と、訳すのに時間はかかるが細かい所まで気づく翻訳者がいるとする。1人ずつだと難があるが、この2人を組ませれば品質がよく納期にも間に合う翻訳ができる。つまり、欠点を長所に変えられるようにすればいいのだ。また、中国人は全体からの内容把握が得意で、日本人は緻密に翻訳するので、日本人と中国人を組ませて翻訳とチェックを行うという方法もある。

中国語翻訳品質管理の難しさ

中国語はとにかく言葉の変化が速い。訳語が決定した頃にはその訳語が変化していることも多いが、逆にその速さについて行き過ぎてもいけない。日本で数年前に流行したMM(マジむかつく)という言葉、今その言葉を使う人はほとんどいない。そういう状態になってしまうのだ。単語同様、イントネーションも変化する。
また、台湾と大陸の中国語はほとんど同じと思われているが、実は微妙にまったく違う。特にIT用語は、香港、大陸、台湾で全く異なるので注意が必要。

では、文化・教養のある方にすべて訳してもらえばいいかというと、そうでもない。というのも、いくら素敵な単語や素晴らしい四文字熟語で訳しても、読者がそれを理解できなければ良い翻訳ではないからだ。したがって、読者層にあわせて翻訳者を選ぶ必要がある。

中国語翻訳の質を上げるためには

中日翻訳を行う人は多いが、日中翻訳を行う人は少ない。特に中国語ネイティブの翻訳者は少ない。なので、内容によっては中国人ではなく日本人が日中翻訳をしても良いと思う。例えば、用語集などの翻訳は調べ物が多いので、中国人よりも調査力が高い日本人が訳した方が品質の良い翻訳になる。

また、ギャラを含めた翻訳者の地位の向上が必要で、自分たちで地位を高めていかなければいけない。だから、不当に安い値段で翻訳を請け負わないで欲しい。翻訳者を選ぶ側も、経験年数だけで翻訳者を選ばないほうが良い。経験年数だけでは、どの位の品質のものが上がってくるかわからないし、中国語が古く時流に合わないこともあるからだ。
 


感想

「委員会を作って中国語の専門用語集をみんなで作ったらどうか?」という意見が出たときに、翻訳者の方だけでなくクライアントの方々からも「ぜひ参加したい!」との声が上がった。その声を聞いた時に、中国語翻訳を行わない私でさえも、中国語翻訳はますます需要が増え品質が重要になっていくのだなと実感した。
 

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