地方自治法における通訳と翻訳-グローバル化と長期展望-

第2回JTF関西セミナー報告
地方自治法における通訳と翻訳
-グローバル化と長期展望-

植田 壮彦
大阪市ゆとりとみどり振興局文化部担当係長


 



2012年度第2回JTF 関西セミナー
2012年9月1日 14:00~17:00
開催場所●大阪大学中之島センター
テーマ●「地方自治法における通訳と翻訳-グローバル化と長期展望-」
講師●植田 壮彦 大阪市ゆとりとみどり振興局文化部担当係長
報告者●樋口 勝規 個人翻訳者

 



 本年度第2回関西翻訳セミナーのテーマは、「地方自治法における通訳と翻訳-グローバル化と長期展望-」と題して行われた。講師の植田壮彦氏は、大阪外国語大学を卒業後、大阪市に入庁され、港湾局振興課を振り出しに、国際イベント、姉妹港など外国港湾との交流などに従事され、港湾局経営課に移動された後、市長室国際交流担当をするなど大阪市業務における豊富な通訳・翻訳の経験を持つ。 

 講演は第1部地方自治体の海外交流、第2部地方自治体における通訳業務、第3部地方自治体における翻訳業務からなり、第1部と第2部の間に休憩を挟んで行われた。はじめに地方公務員法における守秘義務について触れ、用語に略語を使用することが多いこと、たとえば、国際交流担当を(こくりゅう)と言うなどを説明し、本題に入られた。

第1部 地方自治体の海外交流

1956年D.D.アイゼンハワー大統領が当時冷戦期に、政府ではなく、人と人の交流(People to People)により文化の違いを受け入れ合い、疑念や戦争の元を絶つことができるという考えをうちだしたスピーチを行った話をされ、姉妹都市交流についての導入をされた。また、その演説の1年後、まだ日本が独立を回復して6年後に過ぎない時期に、大阪市の最初の姉妹都市としてサンフランシスコと姉妹都市の提携をしたことに触れ、現地の日系人社会にも大きなインパクトを与えた大変有意義な出来事であると語っておられた。
 
自治体の海外交流ではまず姉妹都市交流があるが、姉妹都市提携時には海外旅行は一般的ではなく、海外の情報もほとんどなかった。したがって、市民の相互交流、海外文化の相互紹介に重要な役割を果たし、提携都市の周年事業が行われるようになった。しかし、海外旅行が一般的になると、海外の情報も簡単に入るようになり、厳しい財政難により単なる「友好交流」や「儀礼的な事業」に対して厳しい視線が向けられ、経済的利益のある交流にシフトしていった。
 
また、グローバル化の進展とともに、海外の活力を取り込んで地元経済を活性化させるため、経済・観光面での交流に力を入れる自治体が増加した。背景として、中国観光客の家電店での1人あたりの購入額が日本人客をはるかに上回り大きな収益をもたらしている状況などがある。
 
世界的な「都市化」の進展によりさまざまな取り組みが必要になってきている。人口爆発や都市インフラの整備、地球温暖化対策などもある。各都市の実力が問われるところである。姉妹都市とさまざまな分野で技術交流を行っており、また、JICAと積極的な連携により研修生の受け入れを行っている。
 
大阪市の外国籍住民は、2005年から2010年にかけては総数では減少しているものの、それは、「韓国・朝鮮」籍の人たちが帰化している状況を考慮すると増えていると考えられる。このような状況で、外国籍住民施策としてリビング・インフォメーションの提供や三者通話可能な電話の設置やi-House(大阪国際センター)や救急安心センターおおさかにより英・日・韓語等での対応を行っている。

第2部 地方自治体における通訳業務

自治法第234条第2項、自治法施行令第167条の2によって、基本的に随意契約が困難であり通訳業界の契約慣行とのずれがあり、たとえ優秀な通訳者に巡り会ったとしても固定して契約することが困難である事情がある。また、インハウスか外注かにより制約がある。インハウスとして雇用するには一定の仕事量を確保せねばならず制約がある。
 
日本語での役職名の場合、市長(Mayor)だが、副市長はVice Mayor が当てられている。これは、以前地方自治法上呼称が助役であった際のDeputy Mayor を変更したものであり、他市ではまだ Deputy Mayor を使用している可能性がある。また、区長は、Ward Manager かというとそうではなく、北区長の場合、 Director General of Kita Wardになる。係長などは、Section Chief、Staff Officer、など部署により4通りの異なる呼び方がある。これは、翻訳の場合でもそうだが、確認をとり情報を得る必要がある。外交儀礼の称号(H.M.,H.I.M.,H.R.H)等と同様注意が必要である。
 
クライアントとしてみた場合、外国語に堪能な自治体職員は全体からみると少ないと言ってよい。したがって通訳者に慣れていない、使い方のよくわからない職員が担当者になることがある。こういった場合不適切な指示が出ることがある。また、少数だが外国語に堪能な(もしくは自信のある)職員)の場合、1語1語の単語に指示が出て、逐語訳という無難な方法をとらざるを得ない場合もでてくる。
 
クライアントからみて望ましい通訳者としては、今までの経験では、服装は問題なかった。むしろ放送機器の故障のようなアクシデントや報道対応を考慮すると声の大きさが求められる。また、予習をするのは当然のことながら必要である。

第3部 地方自治体における翻訳業務

通訳と同様に、自治法第234条第2項、自治法施行令第167条の2により、基本的に随意契約は困難であり、優秀な翻訳者と巡り会えても固定して翻訳を依頼することは困難である。また、非常に多くの場合、印刷業務(外国語パンフレット等)の一部として発注するので、翻訳単体としての発注が少ない。
 
地方自治体から翻訳を受注すると、クライアントと仕様面での確認、つまり用語の統一性をどこまで要求しているのか、ネイティブチェックを必要としているのか、納期の設定は問題ないか等を行う必要がある。
また、欧米系同士の言語間と異なり日英間などでは機械翻訳にはより馴染みにくいので、翻訳者を介在させることの意味を発注者に十分理解させる必要がある。また、責任分担をはっきりさせる必要がある。
 
翻訳業界の現状について触れると、論外の事例としては、見た瞬間に機械翻訳と思える翻訳がある。また、よく見られる事例としては、原文に忠実なあまり、ネイティブチェックの痕跡がなく、全体の統一性が取れておらず、明らかに複数の翻訳者が介在したことが分かるものがある。
また、大阪の日本橋を「Nippombashi」ではなく「Nihombashi」、天下の台所を「Kitchen of the Nation」ではなく「Kitchen under the Heaven」としたよく調べもせず訳して、とんでもない結果になっている例を挙げられた。
 
エージェントに期待することとしては、訳語は勝手に決めずに、発注者のWebを調べて確認し、それで確定できなければ申し送りとして訳と一緒に調べた結果をフィードバックしてもらいたい。

質疑応答

数名が質問されたが、その中で博士論文を作成中で翻訳者に翻訳環境についてインタビュー調査した方がおり、2点質問された。

  1. 大阪市は、入札制度により仕事を発注しているため仕事が安く落札された場合低い翻訳料金の仕事を受けざるを得ないが、他の翻訳会社の仕事を得るために入札での仕事を得ていることがあるという声があったが、入札により、価格が安くなる事情についてどう思われるか。

状況を認め、個人的な感想を述べるに留められていた。

  1. 無償ボランティアと有償ボランティアの問題とボランティアの広域化について今後どうされるか。

現状で大阪市では有償ボランティアは直接は行っていない。広域化は、地方自治法上の制約があるため困難だと思う。


 

共有