日本翻訳連盟(JTF)

1-4 製薬翻訳の品質向上への挑戦:賢い支援ツール活用術

上條 猛

中外製薬株式会社信頼性保証推進部
翻訳マネジメントグループ スペシャリスト

萩原 裕子

メディカル翻訳者

報告者●永島和暢(ライオンブリッジ ジャパン株式会社)



本セッションは、翻訳を依頼する製薬会社の立場からと翻訳を受ける翻訳者の立場からの二部構成の、製薬業界における支援ツールの活用についての講演である。

<第一部>

まず製薬会社を取り巻く外部環境として、他の業界と同様にグローバリゼーションの進行により、ドキュメントの翻訳 (英語⇔日本語) の必要性が増加している事実がある。また、製薬翻訳の対象の多くは規制当局のための技術文書であり、読み手が内容を正確に把握できるように、論理性、一貫性、整合性の必要性が一般の翻訳より高い。

このための有用なツールとして、翻訳メモリ、用語集、スタイルマニュアルがある。特に翻訳メモリは、医薬品開発や製造のプロセスで作成される相互に関連した一連の文書に一貫性を提供することができるツールである。英語のスタイルに関しては、AMA (American Medical Association) のスタイル マニュアル (AMA Manual of Style) がある。用語集は、自社で使っている用語、自社内の固有名詞を登録する。難解な専門用語も登録しておくことによって、翻訳作業時の調査の負担を軽くできる。

翻訳メモリは、翻訳者が納得して使えるように品質管理をすることが重要であることはもちろん、どのようなカテゴリーのメモリをラインナップするかいう運用管理もポイントとなる。翻訳支援ツールの選定にあたっては、自社内だけなく、翻訳者の購入負担や使い勝手も考慮する必要がある。翻訳は、社内の確認、パブリッシング、承認作業を含めた文書作成業務の全体のプロセスの一工程として位置づけて考えるべきである。また、品質向上には製薬会社 (発注者) と 翻訳者 (作業者) の共同作業が不可欠である。

<第二部>

メディカル翻訳者として翻訳支援ツールを使用する場合と使用しない場合があるが、その時々でばらつきはあるものの前者は現時点ではおおむね全体の約20%である。

Word への直接入力 (原文は紙の出力物)、Word での原文文章の上書きで翻訳をこなしてきた翻訳者としては、翻訳支援ツールは操作に時間を取られるという印象がある。これは、一文ずつ、Open Segment と Close Segment を実行して翻訳を進める必要があるからである。Open Segment により、ツールが翻訳メモリで原文を検索して、対応する訳文を表示する。逆に、直接入力のときに起こる可能性がある、訳抜けの心配がないのは翻訳者としてありがたい。(Segment とは翻訳の単位であり、通常は文章。)

翻訳者としては、ツールの使い勝手のほかに、翻訳メモリ内の翻訳の信頼性に疑念があり、判断が必要となる場合がある。支援ツールは、原文の一致度により、マッチ率を提示してくれるが、100% マッチ (これから翻訳しようとする原文が過去の翻訳済みの原文とまったく同じ) であっても訳文の修正が必要となる場合があり、注意が必要である。これは、一般的に「訳し分け」と呼ばれている。

翻訳の品質を維持しながら、作業の効率化を進めることが業界として求められているが、そのために翻訳メモリは有用であると考える。そのためには翻訳メモリの品質の向上が不可欠で、クライアント、翻訳会社、そして翻訳者が協力することが重要と考える。

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