日本翻訳連盟(JTF)

5-4 特許翻訳の登山口 ~まず、自分に何が足りないかを知る!~

松田浩一

サン・フレア アカデミー講師、特許翻訳者

報告者●木村和美(IP・Pro株式会社)



自らも、自分に足りないものは何かと日々反省されている松田浩一氏。足りないものを知るための糸口となるヒントやアドバイスに加え、翻訳者にとって重要な辞書に関して、辞書環境の現状、必要な辞書、自作辞書作成方法などを紹介頂いた。

翻訳において気をつけるポイント

適切な訳語選択

訳語の選定は非常に重要である。適切な辞書を使用し、さらに知識不足を補うためにインターネットなどで十分な調査を行って適切な訳語を選定することが大事である。

構文解釈と文脈判断

構文解釈と文脈判断は別物である。例えば構文的には複数に解釈できる場合、前後の文脈から判断する必要がある。内容の理解と専門知識が重要になる。もちろん、文法的なアプローチからそうした解釈を導き出せるケースもあるので、基本は文法力であることも忘れてはいけない。

適切なチェック

最低限のマナーとして、納品前にスペルチェックと文章校正のチェックは必ず行うこと。チェックを実行することで、例えば「および」と「及び」の表記ゆれを回避できる。また文字カウントを確認することで、すべて全角とすべき文書に半角が混在していないかを確認できる。
また、オートコレクト機能のすべてのタブのすべてのチェックを解除すること。オートコレクト機能により勝手にインデントが入ったり、段落番号が付されたりすることがある。それを元に戻そうとするがさらに書式がおかしくなるというケースもある。特許翻訳の基本マナーとしてオートコレクトのタブのチェックはすべて解除すること。

その他

文字1字で権利範囲を損ねるケースもある。例えば「金属製(metal)」と「金属性(metallic」など、漢字1字の違いで意味は大きく異なる。後者の場合は、セラミックやプラスチックをも含むことができ、権利範囲も変わってくる。やはり適切な訳語の選択が大事であり、また言葉に対する意識も大事である。

日本語に対する意識

突き詰めれば、翻訳は母語(日本人なら日本語)の仕事である。和訳だけでなく英訳の場合においても日本語の意味を適切に理解していなければ適切な英訳はできない。係り受けが曖昧で複数の解釈にとれる文もあり、適切な日本語理解は重要である。和訳の場合は、自分以外の読み手を意識してわかりやすく訳す必要がある。日本語に対する感性や気づきが大切である。

辞書の話

「辞書を買うために翻訳し、買った辞書を使うために翻訳をすれば本当のプロになれる。」故山岡洋一氏主催の翻訳通信に記載されているように、辞書は翻訳者にとって非常に大事なものである。適切な訳語選択のためにも、こまめに辞書を引くことが重要である。

どのような辞書を利用すべきか

最低限必要な辞書は、大規模の英和/和英辞書、英英辞書、国語辞書。できればCD-ROM版の辞書がおすすめだが、今年に入って新版辞書に大きな変化がでてきている。携帯電子辞書などの併用も考えたい。専門辞書は徐々にそろえるとよい。

どのように辞書を使うか

従来はEPWING形式の辞書が主流で、辞書検索ソフトDDwinで串刺し検索することができたが、現在EPWING形式の新版辞書がなくなっており、またDDwinはWindows7(64ビット)では動作が不安定である。
そこで松田氏の場合は、辞書ソフトLogophile (jammingの後継ソフトでEPWING形式辞書に対応)やLogoVistaに加えて、PDIC、TRADOSのMultitermをフル活用し、辞書ソフト一括検索ソフト(かんざし)を各ソフト間での一括検索入力に利用されている。
また辞書フォーマットをEPWING形式とLogoVistaにすれば、PCとスマートフォンの両方で同じ辞書環境を構築できる。

自作辞書

案件ごとに辞書引きし、苦労して確定した訳語。毎回同じ苦労を繰り返さないためにも、自作の用語集・辞書を作成することをおすすめする。確実な訳語選択と作業効率の向上につながる、大事な知識の財産である。
<自作辞書作成方法>

  • 他のソフト、マクロなどで利用できるようにエクセルで作成するのがおすすめ。
  • 登録する用語は名詞を中心に登録するとよく、接続詞や前置詞、一般動詞などは登録の際に工夫が必要となる。


まとめ

うっかりミスの防止、適切な訳語選択、語順や修飾関係に対する注意など、適切に判断するためには、言葉・日本語に対する感性と意識を高めることが大事であり、それをサポートしてくれるのが辞書であると痛感する内容であった。
また、注意すべきポイント、特にミスしやすい事項は、チェックシートにリストアップするのがよいというアドバイスには同感である。

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