即戦力がつくグローバル・ライティング~日本人の弱点:英文特有の思考表現(ディスコース)を考える~

2013年度第8回JTF翻訳セミナー報告
即戦力がつくグローバル・ライティング~日本人の弱点:英文特有の思考表現(ディスコース)を考える~

 

日向 清人(ひなた・きよと)

慶應義塾大学ビジネス英語担当講師・慶應義塾大学外国語教育研究センター所員  
慶應義塾大学大学院修了。桝田江尻(現あさひ)法律事務所、モルガングレンフェル証券、プルデンシャル証券を経て独立し、金融翻訳会社を設立し、外資系金融機関のための翻訳におよそ10年従事。その傍ら慶大講師(ビジネス英語)。元NHKラジオ「ビジネス英会話」講師、元ケンブリッジ英検面接委員。3歳のときに英語を話し始めて以来、英語とは60年近いつきあい。
著作は、5万部超の『即戦力がつくビジネス英会話』(DHC)をはじめ多数。『即戦力がつく英文ライティング』 (DHC)、『【最新】経済・ビジネス英語2万語辞典』(日本経済新聞出版社)、『ビギナーのための法律英語【第2版】』(慶應義塾大学出版会)等。現在、学校文法に言葉の社会的役割を加味した「機能英文法」の本を執筆中。
他に月間アクセス10万超のブログ「ビジネス英語雑記帳」(アルク)にて学習者向けの記事を執筆中。

 



2013年度第8回JTF翻訳セミナー
2014年3月13日(木)14:00~16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●「即戦力がつくグローバル・ライティング~日本人の弱点:英文特有の思考表現(ディスコース)を考える~」
講師●日向 清人(ひなた・きよと)氏 慶應義塾大学ビジネス英語担当講師・慶應義塾大学外国語教育研究センター所員 
報告者●津田 美貴 個人翻訳者

 



今回のセミナー講師は日向清人氏。昨年関西で開催された氏のセミナーは大盛況で「ぜひ東京でも講演を」というリクエストがあり今回実現した。本セミナーでは、英文特有の思考表現(ディスコース)についてお話し下さった。

コミュニケーションのとしてのライティング

英文ライティングは所定の英語運用能力(一定以上の単語力と文法知識)があればできるとされているが、はたしてそうであろうか?もしこれが正しければ、辞書を引き引き英訳したものがそのまま「英文」として通用するはずである。少なくとも、英語として通用する文章を書くためには、作文類型ごとの作法がわかっていなければならず(=社会言語能力)、さらに「つながっており」「筋道が通って、ひとまとまりと認識される」一体感が必要だ(=言語運用能力)。このワークシップではこういったライティングにおける英語らしさ(texture)を確保するスキルを紹介し、演習を通じて体得していただけるよう構成した。

コミュニケーションとは

 単語力と文法知識だけでは、通りのいい自然な英文を書いたり、ネイティブに通じる英語を話したりすることはできない。つまり、コミュニケーションが取れたとはいえない。

ここでいう“コミュニケーション”は、日本語のカタカナでいう「コミュニケーション」ではなく、「communication」のことである。その分野の専門家によると” communication”には122の定義があるそうだ。その中で一番わかりやすいと思ったのが、“knowing how, when, and why, to say what to whom”というNational Standards for Foreign Language Learning in the 21st Centuryに載っていた定義だ。how=文法、what=単語力のことであるから、文法と単語力だけではwhen+why+to whomが足りない。

では、このwhen+why+to whomは何かというと、コンテクスト(context)と呼ばれるものである。コンテクストは「状況や関係」のことであり、同じ単語でもどういう状況でその単語を使ったかによって意味が異なってくる、ということである。

コンテクストという観点からみると、「暗黙の了解」、「一を聞いて十を知る」という前提で成り立つ日本語はハイコンテクストと呼ばれる。対照的に「実際に言った言葉、説明する文章に重きが置かれる」、すなわち「一を説明するのに十教えないといけない」英語はローコンテクストである。つまり、日本語と英語ではコンテクストが全く異なるのだ。

伝えたいコンテンツの生成と伝達にあたり、相手がある以上、当然、抽象的・具体的コンテクストが前提となる。抽象的/社会的コンテクストとは、すなわちジャンルのことで、例えば、レシピ、ITマニュアル、契約書、経理書類など。具体的/状況コンテクストとは、例えば同じ法律文章でも、相続に関することなのか契約に関することなのかで内容や文章が変わってくる、ということを指す。

コミュニケーション能力の要素

 コミュニケーション能力の要素は、①言語知識(単語・文法・発音)、②社会言語能力(妥当性)、言語運用能力(ディスコース運用能力)である。

言語知識とは、語彙・文法、コンテクストに即した言語把握、アクセントの位置・リズム・イントネーション、正しく字を書く力、字を見て音に変換する力のことである。

社会言語能力とは、「相手を見て、相手を気遣って言葉を選べているか」ということで、定型的あいさつ・呼びかけ方・話し手の交替、丁寧な言い方・乱暴な言い方、格言・名言・決まり文句、フォーマルからインフォーマル、標準語・方言・階層別の言葉づかいなどを場面に応じて使い分けることである。

ディスコースとは複数のメッセージ/センテンスをつなげ、筋の通った話としてまとめることである。

ディスコースとはなにか

 ディスコースとは、テキストとコンテクストに基づき「つながり」と「まとまり」を認識できる言葉ということである。テキスト(文字・文章)とは「コミュニケーションに供される“複数の”センテンス/メッセージ」のことで、コンテクストとは「前後の文脈+当事者が認識している状況+ジャンル」のことである。ジャンルとは作文類型のことで、例えば、契約書なのかレポートなのかというような違いを指す。「つながり」と「まとまり」とは、整合性があって、流れが自然であり、個々のロジックをつないでいく(前後のつながりを論理的に)、系統だったロジックでつなぐということである。

つまり、文章というのは目的別にスタイルが違うのでそれに合わせたものを使わなくてはならない、ということである。

例えば、議事録なら、報告書というジャンルで、関係者名、日時・場所などの基本情報を示し、時系列に沿って出来事を記されたものであるはずである。料理のレシピなら、指図する書面または説明というジャンルで、目的(料理名)を明らかにし、必要な材料を指示し、手順を説明する、という流れで書かれているか、話されるはずである。

文章は目的別にスタイルが違うのはもちろんだが、それに見合った単語を使う必要もある。例えば、治験レポートならば、薬の名前、分類、どういうものなのか、それが何をするか(アクション)という流れで一般的には書かれているはずである。この中で、名前、分類、どういうものなのかという文章ではbe動詞が使われているはずであり、治験に関することは過去形で書かれ、効果や意見は現在形で書かれているはずである。もし、治験に関することが現在形で書かれたり、効果や意見が過去形で書かれたりしていたら、読者は違和感を覚えるはずである。

 また、コロケーションも大切である。例えば、曲を作るとはいうが、曲を創造するとは言わない。これがコロケーションである。気を付けてほしいのは、イディオム(句動詞)とコロケーションはイコールではない。句動詞は字面からでは意味がわからない(ex. Take off = depart)だが、コロケーションはどちらもよく見かける単語という違いがある。

最後に

まともな英文と認識してもらうためには、①つながっており、②まとまりがある、文章であることが求められる。②のまとまりを確保するためには、抽象的・具体的コンテクストが重要で、中でも抽象的コンテクストすなわち英語文化固有のジャンル(作文類型)がものをいう。

英語は一回使い心地を確かめると自分のものになるといわれているので、今回の演習で行ったように日ごろから英作文(英借文)を行い、コロケーションやジャンル別のスタイル、使用する英語の動詞などに注意していたくと、英文に磨きがかかりより英語らしい英文になっていくと思う。

(感想)

セミナー終了後この報告書をまとめていても、「ディスコースとは何か」がうまくまとまらない。というより、自分なりに消化できていない。なんとなくこうかな?とは理解できているのだが、これを他人に教える・伝えるとなると非常に難しい。これがもしかすると「翻訳の難しさ」とイコールなのかもしれないとふと思った。
 


 

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