日本翻訳連盟(JTF)

MTソリューションセッション 講演4 「ポスト・トランスレーション~機械翻訳(MT)が生み出す新たな価値~」

2014年度第3回JTF関西セミナー報告
MTソリューションセッション 講演4
「ポスト・トランスレーション~機械翻訳(MT)が生み出す新たな価値~」

 

石川  守哉(いしかわ もりや)

東京大学文学部思想文化学科美学藝術学専修課程卒。2008年YAMAGATA INTECH入社。制作部に所属し、テクニカルライターとしてカメラやAV機器を中心とした日英他言語のマニュアルを制作。2011年翻訳ビジネス部に配属後、翻訳ツールの開発に携わりながら、MT(機械翻訳)のR&D、関連プロジェクトマネジメントを担当。2013年12月よりベルギーにあるグループ会社YAMAGATA EUROPEに赴任となり、MTサービスの企画開発、関連プロジェクトマネジメントに従事する。
 



2014年度第3回JTF関西セミナー
日時●2015年1月30日(金)10:30~17:00
開催場所●大阪大学中之島センター
テーマ●機械翻訳と向き合うときが来た― MTをもっと身近に、現実的に考える ― MTソリューションセッション 講演4 「ポスト・トランスレーション~機械翻訳(MT)が生み出す新たな価値~」
講演者●石川 守哉(Ishikawa Moriya)YAMAGATA INTECH株式会社
報告者●三木 ひとみ(株式会社アスカコーポレーション)


 
システム開発と翻訳どちらの事業展開も行うYAMAGATA INTECH株式会社の石川守哉氏に、従来の枠にとらわれないMTの可能性、展望、自社開発のMTシステムについてお話いただいた。

MTの概念

燃料電池自動車における水素ステーションのように、新しいテクノロジーを活用するにはインフラ設備が必要である。我々はインターネットの普及により双方向での情報交換が可能となり、我々は無料でMTを利用する代わりに自分たちの言語知識をMTに提供した。この仕組みによりMTはデータを蓄積しながら、その価値を世間へ浸透させた。
つまりMTは、翻訳業界から生まれたのではなくIT業界が整備したインフラで成立したモジュールである。このMTテクノロジーが人手による“翻訳”と同じ土俵で比較されるのは不公平ではないだろうか。まず、我々の認識というインフラを見直す必要があるのではないだろうか。

現状に対する危惧

MTはクライアントにスピードアップとコストダウンというメリットをもたらした。翻訳会社は業務効率化により受注数がアップすることを期待した。翻訳者はMTなしでは仕事を失うかもしれないという懸念に対し、今後も人手による翻訳はなくならないとプロ意識を高めた。
しかし実際、クライアントはMT利用による時間縮小とコストダウンで浮いた時間や予算を再び翻訳発注に回すより、他の設備投資に回す可能性が高い。私は“今のままのMTの使用方法”では実質的に翻訳市場縮小を促すツールになると危惧している。

自社MT開発

従来の弊社のMT運用は以下の二つだった。
・MTを下訳として利用し、翻訳者が人力翻訳と同品質の“翻訳”に仕上げる
・ある程度意味が分かればいいレベルのMT出力の提供
後者はMT出力をそのまま納品する訳ではなく、簡易ポストエディット(チェック&修正)して数時間内で納品している。MT出力をどの程度ポストエディット(以下PE)するかを規定するのは難しいが、現状クライアントが規定する時間内で可能で、かつクライアントが許容する品質という形で定めている。つまり、誤訳が起きないようにいかに効率よくPE作業をするかが重要となる。
この利用に対応するため、弊社ではMTツール(Y-MTA)を開発。Y-MTAには以下の機能がある。
・TradosTMとの連携
・PEエディターを搭載し、原文を自動的に標準化する機能もある
 
また、雑多な文書をクライアント自身の手で手軽にMTするためにY-MTSというWebアプリケーションを開発。以下の特徴がある。
・ユーザーフレンドリーなインターフェース
・カスタマイズしたMTエンジンの作成・選択が可能
・MS Officeファイルを、レイアウトを保持したままMT処理が可能

今後の展望

委託先である翻訳会社や翻訳者がMT出力をどの程度PEするかを規定するのは難しいが、最終的にクライアント自身が評価するのであれば明確である。そこで、クライアント自身がPEできるエディターをこのY-MTS上に搭載する予定だ。インストールが不要なだけでなく、クライアント自身がPEした訳文をオンラインのデータベースとして管理できる。これは、ただ情報の変換(翻訳)という一作業に留まらない。このデータベースによってカスタマイズ・エンジンを更新できる。まさにTM同様クライアント自身の翻訳資産形成と同じである。

MTテクノロジーはあくまでITテクノロジーなので他のテクノロジーとの連携でいかなるサービスにもなり得る。“翻訳”という枠内に留めておくにはあまりにももったいない。まず、MTのインフラである我々の認識を見直し、クライアントが本当に求めているものが何かを追求する。そのとき、おのずとポストトランスレーションつまりMTの価値が見えてくるだろう。
 

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