日本翻訳連盟(JTF)

翻訳サービスの国際規格(ISO 17100)発行による翻訳業界への影響 ~国内認証機関の設置に向けて~

2015年度第1回JTF翻訳セミナー報告
翻訳サービスの国際規格(ISO 17100)発行による翻訳業界への影響 ~国内認証機関の設置に向けて~


田嶌 奈々

JTF/ISO規格検討会 翻訳プロジェクトリーダー、株式会社翻訳センター品質管理推進部 部長
外国語大学を卒業後、いくつかの会社で翻訳コーディネータ兼チェッカーとして約4年の経験を経たのち、翻訳センターに入社。メディカル分野の社内チェッカーとして約8年、実案件の品質管理業務に従事した。2012年以降、分野や案件の枠を越えて全社の品質向上を推進する部署の起ち上げを機に、社内作業の標準化や仕組み作りを行っている。ISOの規格策定には、日本の翻訳業界を代表して2012年のマドリッド総会から参加している。TC37 SC5国内委員。

 

山下 隆宣

一般財団法人日本規格協会 審査登録事業部 審査営業チーム 審査営業課長
電機関連メーカー勤務を経て、日本規格協会に入社。マネジメントシステム審査業務に従事。品質マネジメントシステム(ISO9001)、環境マネジメントシステム(ISO14001)、情報セキュリティマネジメントシステム(ISO/IEC27001)の主任審査員として審査にも従事。 

 



2015年度第1回JTF翻訳セミナー報告
日時●2015年5月19日(火)14:00 ~ 16:40
開催場所●剛堂会館
テーマ●「翻訳サービスの国際規格(ISO 17100)発行による翻訳業界への影響 ~国内認証機関の設置に向けて~」
登壇者●田嶌 奈々 Tjima Nana(JTF/ISO規格検討会 翻訳プロジェクトリーダー、株式会社翻訳センター 品質管理推進部 部長)/山下 隆宣 Yamashita Takanobu(一般財団法人日本規格協会 審査登録事業部 審査営業チーム 審査営業課長)
報告者●小池 享子(株式会社 翻訳センター)

 


講師はISO/TC37 SC5国内委員として作成段階からISO17100に携わってこられた田嶌奈々氏と、翻訳サービスの国内認証機関である(一財)日本規格協会(JSA)の山下隆宣氏。第一部では田嶌氏より ISO17100の概要について、第二部では山下氏より認証制度についてご講義いただいた。

第一部

2015年5月1日に翻訳サービスに関する国際規格(ISO17100)が発行された。ISO加盟国約160カ国のうち、翻訳の標準化や規格に関心をもつ約30カ国の中で提案され、協議を経て投票が行われる。賛成多数で可決されるため、日本が反対しても賛成が多ければ作成されてしまう。そこで規格作成に積極的に関与し、日本に不利な条件をできる限り排除して日本でも適用できる形で発行されるよう取り組んできた。

規格適用の意味

加盟国であっても発行された規格に準拠する必要はない。ではなぜ日本で騒がれているのか?
1. 国際競争力から取り残されないため
日本以外の国々がこの規格を適用すると考えられるため、海外顧客がベンダー選定要件にこの規格を組み込む可能性がある。
2. 非専門家によるサービスとの差別化
ボランティアや学生など非専門家による翻訳サービスが年々増える傾向にある。良いサービスもある。ただ非専門家によりレベルの差が大きいことが問題。顧客がそれを認識していない場合もある。TSP(Translation Service Provider)は専門家によるサービスを提供する証明としてこの規格を活用することができる。
3. 翻訳業界の健全な発展のため
プロセスや用語の定義がTSPによって異なり、業界内でも混乱が生じている。プロセスと価格の関係が見えにくいため、価格でTSPを選定する顧客もあるだろう。価格破壊が生じているとするなら、この状況を放置してきた業界の責任でもある。「チェック」を例に挙げても、クロス、モノ、対象言語のネイティブによるチェックなどさまざまあり、なにが必須のプロセスかという業界共通ルールもない。この規格を指針として混乱を解消し、翻訳業界を見えやすくして発展させたい。

業界関係者の反応

JTFでは今年初めにJTF会員とJTFイベントの参加者約300名を対象にアンケートを実施。回答者(法人・個人)の45%がISO17100の購入を希望、また認証取得を前向きに検討したいという回答は法人回答者の27%、個人回答者の37%であった。

認証取得の検討

まずは規格の内容把握から。英語原文版と英語と日本語の対訳版が発行されている。販売元はJSA。JTF経由でも購入できる。

規格の構成と要求事項

本文(箇条1~6)、附属書(A~F)の計18ページで構成される。
箇条1~2 適用範囲・用語
箇条3 人的・技術的資源
箇条4 引合い~受注
箇条5 制作~納品
箇条6 納品後~請求
TSP:国内認証機関や顧客へ説明する際の共通用語を把握することができる。一部直訳でない用語もあるため対訳版がおすすめ。
個人翻訳者:箇条3(翻訳者等の資格・力量)と箇条5(翻訳者の関わる制作プロセス)を把握しておきたい。

その他の規格

JTF/ISO規格検討会 副議長である森口氏よりご紹介いただいた。
DIS18587:ポストエディティング
TS11669:一般ガイダンス(定期見直しの投票が予定されている)
ISO13611:コミュニティー通訳
CD18841:一般通訳(今年6月に松江市で日本総会開催)
各規格のステータスについてはISOのHPでも確認できる(検索キーワード:ISO/TC37 SC5)。

第二部

認証と認定の違いは?

認証(Certification):第三者が製品、プロセス、サービスに対して規定された要求を満たしているとの証明書を与える手順であり、要求事項を定めた規格に合致しているかを第三者の機関(認証機関)が審査し、登録する仕組み。
認定(Accreditation):認証機関が行う認証に偏りや不確かさのないこと、認証を遂行する能力があることを権威ある機関(認定機関)が公式に承認する行為。

認証制度

大きく3つに区分される。
1. マネジメントシステム認証
翻訳業界でも馴染みのあるISO9001、14001、27001など、組織(企業や団体など)の業務を進めるための仕組みが、定められた目標(一般消費者や取引先の期待する製品やサービスなどの結果)を達成するために適正に構築・運用されているかを認証機関が審査し証明すること。
2. 要員認証
溶接技能者など人の技量が要求される分野において、その仕事を行う人が必要な力量を備えていることを認証機関が証明すること。ISO9001などの審査員の評価登録も要員認証のひとつ。
3. 製品認証
特定の製品がその製品の仕様を定めた規格に適合しているかを認証機関が評価し、合格品に対し適合証明書やマークにより証明すること。法規制に基づく制度(JIS、CCCマークなど)と民間の任意認証制度(SEK、ULマークなど)がある。製品は有形(製品)と無形(サービス)に区分される。翻訳サービス認証は製品認証に含まれる。

翻訳サービス認証

認証機関はJSA。今年9月からの認証サービス開始に先立ち、8月にパイロット認証を実施する。対象言語は日英、英日。翻訳サービスの受注から納品までの各プロセス、作業文書の廃棄・保存・履歴管理、各担当者(プロジェクトマネージャー、翻訳者など)の選択と力量の評価・管理についての要求事項がある。顧客の満足する成果物を納品するプロセスを評価するものであり、翻訳の成果物の品質レベルを評価するものではない。

認証取得するためには?

規格の要求事項に対する適合状況を確認し、補完した上で認証の範囲と対象(サービス、組織)を特定する。対象を明確にすれば特定のサービスや部署についてのみ認証を受けることも可能。
審査はプロセスに沿って行われる。翻訳の分野により区分され、全分野の共通事項の審査と対象サービス(言語、分野等で分類予定)ごとの審査を行う。対象となる事象はサンプリングによる。文書、記録、成果物、権限者のコメント、作業の観察を通して適合性評価(Conformity assessment)を行う。
審査合格後、登録の有効期間は3年、登録維持のために2度のサーベイランス(維持審査)、登録更新する場合は有効期限までに再認証審査(更新審査)の受審が必要(検討段階)。

まとめ

ISO17100は顧客にとって翻訳業界をクリアにするもの、翻訳者とTSPにとっては自身を守るもの、また翻訳業界を健全に発展させるものである。規格適用=認証取得ではない。規格を適用するかどうかは慎重に判断すべきである。認証を取得しないが可能な範囲で規格に準拠することを含め、まず規格を知り、自身のプロセスと比較するところから始めたい。認証取得を希望する場合はJSA(窓口:審査登録事業部 審査営業チームTEL 03-4231-8580)に相談されたい。
 

 

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