法務日英翻訳 プレイン・イングリッシュの薦め II なぜ契約書は難解なのか? 企業法務担当弁護士vs 法務担当翻訳者

2015年度第2回JTF関西セミナー報告
法務日英翻訳 プレイン・イングリッシュの薦め II
なぜ契約書は難解なのか? 企業法務担当弁護士vs 法務担当翻訳者

リサ・ヒュー

カナダ出身。トロント大学で東アジア研究を専攻。日本在住は18年。日米会話学院で日本語を学び、上智大学に留学。 仙台市にてJETプログラム国際交流員として勤務後、企画販売を担う総合衣料メーカーである株式会社ワールド、TMI総合法律事務所勤務を経て2011年1月に翻訳者として独立。本年4月14日、株式会社ベルトランスレーション代表取締役に就任。法務、マーケティング分野を中心に翻訳業を展開している。2016年に仙台で開催されるIJET-27の実行委員長を務める。
 

清水 真紀子

中央大学法学部卒業後、2001年第一東京弁護士会登録。TMI総合法律事務所に勤務。2007年南カリフォルニア大学ロースクール卒業後は、ニューヨークのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務 (LL.M.)を経て、TMI総合法律事務所に復帰し、パートナーに就任。兵庫県弁護士会登録。国内外における多数の企業買収案件、企業再編、投資案件、JV組成案件等のコーポレート業務を専門とする。
主な著作:「改正会社法と実務対応Q&A Ⅰ企業統治(ガバナンス)に関連する改正項目」(金融法務事情 2014年9月25日号)、「M&A取引において留意すべき世界各国の企業結合規則―国内M&A取引にも適用されるグローバル化したルールへの対応―」(MARR 2012年5月号)等多数。

 



2015年度第2回JTF関西セミナー報告
日時●2015年9月11日(金)14:00 ~ 17:00
開催場所●大阪大学中之島センター
テーマ●法務日英翻訳 プレイン・イングリッシュの薦め II
なぜ契約書は難解なのか? 企業法務担当弁護士vs 法務担当翻訳者
登壇者●Lisa Hew リーガル翻訳者、(株)ベルトランスレーション 代表取締役
●清水 真紀子 Shimizu Makiko  TMI総合法律事務所 弁護士
報告者●大野 浩正(株式会社 翻訳センター)

 


 
 昨年に引き続き、「法務日英翻訳プレイン・イングリッシュ」をテーマに、弁護士である清水氏が英文契約書作成の要諦を説明し、リーガル翻訳者であるヒュー氏が日本語から英訳する際の注意事項を、例を挙げて指摘した。特に難解な言い回しをいかに分かりやすくシンプルに訳すかについて、講演者両名が参加者とともに検討し、活発に議論した。以下はそのまとめである。

Ⅰ. 英文契約書作成時のポイント解説(清水氏)

 英文契約書は「Legal Document」である。契約書として正しいかどうかは、英文として正しいかだけでなく、英文契約書独特のルールを踏まえているかという観点からも判断する。

1. 英文契約の特徴

(1)英文契約書は、最初から紛争を想定して作成する。一方、和文契約書は、最初は大まかで、詳細は協議して作成する場合が多い。これは英米諸国と日本との文化的相違に起因する。
(2)「Parol Evidence Rule」「Statute of Frauds」「Consideration」などのように英米特有の事情を反映したルールがある。
(3) 「in lieu of」「mutatis mutandis」「bona fide」などの契約書特有の英語(legalese)表現がある。
(4)義務を意味する「shall」、許可を意味し、契約当事者の権利を意味する「may」、権利義務以外の事柄や客観的な状況を示す「will」は使い分けが難しい。
(5)保証と補償は異なるため、「represent and warrant」「guarantee」「warranty」「as is」「indemnify and hold harmless」などの英語を使う際に注意が必要である。

2. 英文契約の種類と構成

(1)英文契約の種類
「Contract」か「Agreement」が一般的。その他に「Letter Agreement」「Memorandum of Understanding (MOU)」「Letter of Intent (LOI)」がある。いずれも法的拘束力があるか(legally binding)、法的拘束力がないか(nonbinding)を明確にすることが重要である。「Deed」は官庁に提出する書面に用いられる。
(2)経緯
 「WITNESSETH:」 に続く部分も英米法に起因する特有表現であるが、訳出が難しい。
(3)一般条項(General Terms, Miscellaneous)
定義(Definition)に記載された用語を使う必要がある。不可抗力(Force Majeure)条項の「or any other cause beyond the control」は、列挙された事項と類似性ある事項のみが含まれる。一方Force Majeure条項に「whatsoever」がある場合は、当事者がコントロール不可能な事象の全てが含まれる。また、損害賠償金額を定めること(liquidated damages)と罰金を定めること(penalty)とは法的には全く異なるので注意が必要である。

Ⅱ. プレイン・リーガル・イングリッシュの薦め(ヒュー氏)

第2部ではヒュー氏が主に英語で講演を行った。参加者からは英語の質問が相次ぎ、活発な議論が展開された。

1.リーガル・イングリッシュはどのように書くのか

  最も重要なのはReadability (読みやすさ)とAccuracy(正確性)である。難解な用語を使わず、平易な英語でも法律文書は書くことができる。ただし、伝統的な表現を好む法律家もいらっしゃるので、翻訳者としては、翻訳依頼者と事前に協議することが必要である。

2.プレイン・リーガル・イングリッシュの要点

(1)動詞の時制―動詞の時制に気を付けること。契約書では、時を表す動詞の形としては現在形を用いる。混乱を避ける意味で、助動詞のwillは時の表現には用いない。
(2) 冗長な表現(wordiness including legalese)を使わないこと―参加者には最初に伝統的表現と冗長的な表現が使われている契約書例が資料として提供された。この資料をどのようにプレイン・イングリッシュに変えていくべきかを、検討した。プレイン・イングリッシュで作成した契約書例が後に参加者に提供された。
(3)「of」の多様を避ける―文中で「of」を多用せず、その文脈における意味を考え、「on」や「about」 など他の前置詞に置き換える工夫が必要である。そうした工夫を常に考えることによって、冗長的な表現になるのを避けることができる。
(4)主節は前方に置く―主節を前方に置くことにより、読者の注意を引きつけ、読みやすい文章となる。
(5)関連する事柄は近くに配置する―条文の中では、関連する事柄は近くに配置するよう心がけ、文章が散漫になるのを避ける。

3. プレイン・リーガル・イングリッシュへの道

(1)「No shall without a duty」―「shall」は義務の主体となりうる当事者のみに用いる。その他の場合の条項においては「shall」を頻繁に使うのは避けるべきである。
(2)「No passive with an agent」―動作の主体が存在する文章は、能動態で表現する。
(3)「No legalese without clarity」―冗長的な用語を使った不明確な表現は避ける。
(4)「No redundancy ever」―重複する表現は使わない。文章の中で「頭が頭痛で痛い」などの表現にならないよう、注意が必要である。
 
最後30分は、講演者両名が、講演内容に関する質疑を受けて応答する時間を設けてくださった。法務翻訳者、翻訳会社社員、パラリーガル、大学教員の参加者からは次々と質問が出て、英語、日本語が飛び交い、活発に議論する場となった。関西でも法務翻訳のセミナーを定期開催してほしいと期待する声が多かった。プレイン・リーガル・イングリッシュによる日英翻訳は、今後注目される翻訳分野になると拝察する。
 

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