日本翻訳連盟(JTF)

スタイルガイド入門

2016年度第4回JTFスタイルガイドセミナー報告
スタイルガイド入門

高橋 聡

フリーランス翻訳者英日フリーランス翻訳者。学習塾講師と翻訳業の兼業時代から、ローカリゼーション系翻訳会社勤務の時代を経て2007年にフリーランスとして独立。ITを中心にテクニカル翻訳全般を手がける。翻訳学校の講師業にも従事し、各種セミナーにも積極的に登壇。JTFではスタイルガイド検討委員と、ジャーナル編集委員を務めている。
http://baldhatter.txt-nifty.com/ 

 



2016年度第4回JTFスタイルガイドセミナー報告
日時●2016年5月27日(金)14:00~16:30
開催場所●剛堂会館
テーマ●スタイルガイド入門
登壇者●高橋 聡 Takahashi Akira  フリーランス翻訳者
報告者●上林 香織(ResMed株式会社)

 



講師は、IT翻訳者の高橋聡氏。JTFスタイルガイド検討委員会の委員として「JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」の作成にも深く携わった、いわばスタイルガイドの達人。参加者の半数は個人翻訳者、残りは企業から(翻訳会社やクライアント企業)の参加であった。
 
本講座は、JTFスタイルガイドセミナーシリーズの中でも入門に位置づけられ、前半はスタイルガイドとは何か、なぜ必要なのかを学び、後半は実際の運用のために、スタイルガイドの構成要素、最低限抑えるべき要素、効率的な使い方について解説いただいた。

1.スタイルガイドとは何か

まず本講座で扱うスタイルガイドを「翻訳仕様書」として定義した。日本語の表記のゆらぎを防ぎ、表記を統一することを目的としている。具体的には記号類、表記のゆれ、半角全角、漢字とひらがなの表記などを統一することなどを指す。IT翻訳では、クライアント企業から100ページもあるスタイルガイドを支給されることもあり、さらにその中身は各社各様であるという。
 
「JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」は、この多種多様なスタイルガイドをなんとか標準化し、新規に作成しようとする企業に標準的なものを提案できないかという思いから誕生した経緯がある。実際の作成にあたっては複数のクライアント企業にもヒアリングを行い、幅広い意見を取り入れた。また著作権はCC(Creative Commons)となっているため、ユーザーが自由に要素を追加・削除したり、定義を書き換えたりすることが可能である。さらにガイドラインの要素の中には、ひらがなと漢字の使い分けなど、ガイドの運用者が決定すべきものもあり、自由度の高いものになっている。

2.スタイルガイドが必要な理由

スタイルガイドは、「ルールというのはまったくないよりも、ほどよくあった方がいい」という原則にのっとっている。作業の上でも、複数の翻訳者が訳すのであればガイドラインは必須であるし、後から表記を統一するよりも先にガイドラインを設定している方がはるかに効率的だ。また翻訳をコンテンツとして捉えた場合、内容に対する影響よりも、全体の完成度や品位といったものに対する影響が大きいことを心得るべきである。また翻訳会社にとっては、表記の統一が翻訳品質のひとつの目安となる面もあるだろう。翻訳者のレベルで考えた場合でも、講師の個人的な経験ではあるが、上手な翻訳者は、きちんと表記にまで心配りができていることが多いという。クライアント企業にスタイルガイドがない場合、翻訳会社からスタイルガイドを使うことの提案を逆に行い、ビジネス上でも大きなメリットがあるのではないか。このような場合、ぜひ前述の「JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」を役立たせてもらいたい、とお話があった。

3.スタイルガイドの構成要素と最低限抑えるべき事項

次に実際のスタイルガイドの構成要素を解説いただいた。主な要素は以下の通りである。
 
1) 文体 2)句読点 3) 記号 4) 漢字の使用制限 5) 漢字とひらがな 6) 送り仮名
7) カタカナの長音 8) カタカナ複合語 9) 全角と半角 10) スペース 11) 数字と単位
12) その他
 
各要素についてそれぞれ最低限押さえるべき事項を列挙いただいたが、紙面の関係上、ここでは一例として「8)カタカナ複合語」の解説をご紹介したい。カタカナが2語以上連続する場合、中黒、半角スペースを語の間に入れるか入れないかについて、スタイルガイドで定めておこうというものである。中黒を使うと1ページにカタカナ語が多数でてくるような場合は読みにくく、半角スペースを入れるのはIT関連の翻訳文書だけであることなどの解説があった。何も入れない場合については、読みやすいが、翻訳された文書の後工程で機械処理が難しくなるという指摘があった。また例外的な扱いが求められる用語というのは必ず存在するため、別途例外を用語集に加えておくことが現実的な運用方法だという。

4. 効率的な使い方を考える

印刷された文書が配布され、参加者がそれぞれ表記のゆらぎや、JTF標準スタイルガイドを参照しながら設定されたルールに適合しているかをチェックした。この作業によって、人間の目だけに頼ってチェックすることはなかなか難しいし、時間がかかることを体感できた。表記のゆらぎに関しては、Wordの校閲機能やジャストシステムのJust Right!などのツールを使うことが有用である。またスタイルガイドの適合性を機械的にチェックするツールとして、JTF日本語スタイルチェッカー、Wordマクロ「蛍光と対策」、WildLight、TradosのQ&A Checker等の紹介があった。
 
前述の通り、ITなどでは、100ページを超えるスタイルガイドが存在するため、どこに何が書いてあるのかを把握するにも工夫が求められる。特に複数の案件が並行している場合には、独自の共通テンプレートを用意し、ガイドの内容を自分なりにまとめておくことが推奨された。講師から工夫の一例として、前述の各要素をリストアップし、規定内容を簡単にまとめて併記されたシートが配布された。こうしたシートを用意すると、規定を参照しやすく、記憶にも定着しやすい。一番大切なことは、スタイルガイドに関連する負担を軽減させ、翻訳に集中できる環境を作ることにあるという。

5.まとめ

スタイルガイドはめんどくさい、拘束される、というイメージがあるかもしれないが、効率化のカギとして有用である。しかしその活用、効率化には、ツールを有効活用することや独自のテンプレートを準備するなどの工夫も必要である。また現在、スタイルガイドを持っていない企業の案件やスタイルガイドの指定がない場合などは、JTF標準スタイルガイドを使うことを推奨したい。
 

6.Q&A

Q&Aでは多数の方から質問が挙がった。そのうちのおひとりに、クライアント企業がスタイルガイドを設定する際に、表記上のスタイルだけでなく、文体やトーンなどの指定に苦慮していると述べた企業からの参加者がおられた。講師や他のスタイルガイド検討委員の回答をまとめると、具体的によい文例と悪い文例を挙げてもらい、それぞれよい点と悪い点を解説したものを多めに列挙すること、発注する側が希望するトーンのタイプに分けてスタイルガイドを用意することなどが提案された。
 

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