日本翻訳連盟(JTF)

3-4 翻訳者に聞きたいこと、翻訳会社に言いたいこと―疑問をぶつけあって日頃のモヤモヤを解消しよう―

パネリスト:

国枝 史朗 Kunieda Shiro

フリーランス日英・英日翻訳者。英日・日英技術翻訳者。南山大学外国語学部英米学科卒業後、熱収縮シールのメーカーに勤務。その後、眼鏡・サングラスのメーカー兼商社勤務を経て、1997年にフリーランス翻訳者として翻訳業を開始。技術・ビジネス分野全般、環境、エネルギー、品質管理を中心に幅広く英日・日英翻訳に携わる。趣味は俳句と園芸と燻製。

田嶌 奈々 Tajima Nana

株式会社翻訳センター 品質管理推進部 部長。外国語大学を卒業後、いくつかの会社で翻訳コーディネータ兼校正者として約4年の経験を経たのち、翻訳センターに入社。メディカル分野の社内チェッカーとして約8年、実案件の品質管理業務に従事した。2012年以降、分野や案件の枠を越えて全社の品質向上を推進する部署の起ち上げを機に、社内作業の標準化や仕組みづくりを行っている。

中野 真紀 Nakano Maki

フリーランス独日・英日翻訳者。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1999~2002年までボン大学に留学。帰国後フリーランスで翻訳の仕事を始め、派遣社員との兼業を経て2005年より専業翻訳者に。医療、特許、法律、マーケティングなど幅広い分野を手がける。『体のふしぎ』シリーズ(アシェット・コレクションズ・ジャパン)を担当。共訳書に『現代医療の法と倫理』(知泉書館)、『ダライ・ラマ 子どもと語る』(春秋社)などがある。

モデレーター:

成田 崇宏 Narita Takahiro

株式会社ホンヤク社 PM/QC/RCセンター統括部長。2005年に株式会社ホンヤク社に入社。コーディネータやプロジェクトマネージャーとして制作業務を経験し、その後、リソースのリクルーティング、ベンダーマネジメント、CAT/QAツール管理や業務管理システム導入などを担当。2015年7月より業務全般の管理者として、実案件にも携わりながら制作対応力ならびに品質の向上に取り組んでいる。
 

報告者:冨永 陽(翻訳者/翻訳チェッカー/翻訳コーディネータ)
 



遠慮してなかなか思うように話ができない翻訳者と翻訳会社。このセッションでは、事前のアンケートも踏まえながら、お互いの考えを共有する中で普段抱いているモヤモヤを少しでも解消し、双方そしてエンドクライアントや翻訳業界全体にとってより良い道を模索しようと志の高い4人が意見を交えた。

上手に依頼しよう!

成田:翻訳の打診を受ける時、どんな情報を知りたい?
国枝:まずは大まかな内容、分量、納期、原稿ファイルの種類や状態を知りたい。それなのに、電話で原稿の細かい内容を延々と説明されることがある。
中野:メール送信直後に電話で「どうですか?」と打診されても、メールが届くまでにタイムラグがあり、検討している時間がない。
国枝:情報の正確さも大事。調理器具の説明書と聞いて請けたら料理のレシピやったことがある。
中野:ドイツ語の原稿を送ってきて「この内容って何でしょうか?」と尋ねてくる会社もある。本来なら翻訳会社がお客様に確認するべきでは?
成田:お二人の話から田嶌さんはどう思う?
田嶌:翻訳会社の役割は、訳者さんとお客様の間にプロとして立ってきちんと交通整理をすること。訳者さんが案件を請けるか否かの判断材料にする情報をきちんと提供すべき。ただ、稀少言語だと翻訳会社でも内容を把握できない場合が実際にある。
中野:原稿の内容とまではいかなくても、翻訳の分野や訳文の用途だけでも教えてもらえると助かる。
成田:間違った思い込みや時間のロスを避けるために言語が解かる人に見てもらうのも一理あると思うが、周辺情報は極力伝えたい。

上書き翻訳とレイアウト調整

成田:最近はPowerPoint(PPT)案件も上書き翻訳がほぼ一般的。10年前は上書き翻訳できる訳者さんが貴重な存在だったが、現在では追加料金なしで請ける訳者さんも多いと思う。
国枝:テキストボックスにびっしり文字があると訳文が収まらず、レイアウト云々以前に文字の入力に手間が掛かる。原稿がPPTの場合、原稿の状態によってレートを交渉することもある。
中野:私はDTPオペレータの経験があり、訳者として駆け出しの頃は翻訳会社に言われるまま翻訳後にレイアウト調整もした。別途請求してもよいと知らなかったからだが、気が弱い(笑)ので、固定単価の取引先には今なお料金を交渉しにくい。今後はレイアウト調整の費用も請求できるように努めたい。
田嶌:10年前は手書きで納品する訳者さんもいたことを考えると、時代の流れと共に作業の内容や範囲が変化していると言える。2016年現在では、PPTも上書き翻訳を前提にしつつレイアウト調整は追加料金を支払うケースが多いように感じる。中野さんのようにレイアウト調整も請けることで付加価値とする訳者さんがいても良いし、レイアウト調整を訳者さんに任せないことを売りにする翻訳会社があっても良いと思う。

参考資料の位置づけ

成田:お客様から参考資料を渡され、「これに合わせてください」とだけ言われても困ることがある。
田嶌:「『できるだけ合わせてください』という依頼は明日から止めよう!」というのが私の提案。参考資料の量が多くても、案件ごとにどの程度反映させるか(見出し・固有名詞・具体的な範囲)を決めるのが良い。
国枝:以前請けた案件で、翻訳原稿が3ページなのに参考資料が対訳で100ページずつあって、何をどう反映させたらええかサッパリだった。参考資料の質が低かった時には、「この資料は役に立ちません」と伝えたこともある。参考資料の位置づけをお客様にきちんと確かめてほしい。
中野:参考資料の間で文体や用語が違う時もあるので、参照する優先順位をつけてほしい。実際に使わない資料や古い用語集が送られてくることもある。資料が頼りないので自分で用語集を作って管理することもある。
成田:参考資料や用語集も、翻訳会社がお客様にあらかじめ確認した上で訳者さんに渡すのが望ましい。支給された資料の中で気づいた問題点をお客様に伝えることもプロである翻訳会社の役目。

フィードバックはどう扱う?

成田:事前アンケートでも多くの人が気になっているフィードバック。お客様の感想やフィードバックは訳者さんにどの程度伝えるべきか? 田嶌さんの考えは?
田嶌:当社でも最近フィードバックをするようになったが、100%は伝えない。
中野:ネガティブなフィードバックは伝えるのが難しいかもしれないけれど、「良かった」とポジティブなフィードバックだと自分のモチベーションも上がる(笑)
成田:逆にネガティブなフィードバックでも、どんな内容なら受け入れられる?
国枝:日英翻訳の後のネイティブチェックの結果は参考になる。だけど、お客様の修正案は訳者へ伝える前に翻訳会社が一旦精査して上手にフィルターをかけてほしい。お客様の修正が常に的を射たものとは限らんし、文法的な誤りや変な表現が紛れている時がある。
成田:「改善」ではなく「改悪」というのは私も経験がある。では、お客様の好みによるフィードバックはどう捉える?
国枝:表記や複数の表現が可能な場合なら、お客様の好みとして受容できる。
中野:表記や好みはお客様の責任範囲なので、単発の案件ならお客様が選べば済む。継続案件なら適宜フィードバックしてもらえると助かる。大企業のお客様だと、発注部署の担当者によって表記や好みが違う場合もあるので、翻訳会社も対応が難しいとは思う。
田嶌:私も中野さんと同じ考え。フィードバックは次に繋がる内容であることが基本。お客様の好みは基本的に訳者さんへフィードバックしていないが、長期的に考えるとフィードバックを重ねることで、訳者さんも言葉の変化やトレンドが少し掴めるのではないかとも思う。
成田:当社の訳者さんもフィードバックを求める人が多い。判断に迷う細かい点や曖昧な内容は避け、誰の目にも明らかな内容で次に繋がるようなフィードバックをしていきたい。

レートは交渉していいの?

成田:取引している翻訳会社の単価は固定方式? 案件ごとに交渉する方式?
国枝:私の場合は自分で基本レートを設定して、案件によってレイアウト調整などが発生する場合に追加で請求する。
中野:私は両方のタイプの翻訳会社と取引がある。見積段階から丸投げされる場合は、翻訳以外の作業も反映した見積を出すが、翻訳会社がお客様の想定する予算や納期を事前に確かめて訳者に伝えてほしい。
田嶌:当社は原則として固定方式。理由は2つ。1つは、お互いに交渉の時間を節約する目的で、長期的な取引を前提として、ある案件で手間が掛かったとしても、別の機会に割に合う案件があれば概ね平均されるだろうという考え。もう1つは、コーディネータの数が多いので担当者によって発注単価がばらつくのを抑えるため。
成田:訳者さんから単価の交渉をされたことは?
田嶌:上げてほしいと言われることはある。案件によっては上乗せする。
成田:固定単価の取引先に交渉したことは?
国枝:あまりしていないが、ある取引先で2~3回料金を上乗せしたら、その後もその単価で引き続き来るようになった。逆に、税の引き上げに伴って外税表記や税率の反映をお願いしたのを境に依頼が止まった取引先もある。
中野:翻訳会社の誰に単価交渉を切り出せばよいのか、どのタイミングでどの程度の額なら妥当なのかが分からない。交渉で上げるより、スターティングレートが高くなるように営業で工夫したり、翻訳以外の作業を抑えて実質的な時給を上げたりした。
会場:訳文ベースから原文ベースに切り替わる時に交渉したら上がった。翻訳者として実力がある人は交渉しよう!
会場:訳者も自分の中で最低単価を決めておいて、妥当な料金で質の高い翻訳をすることが大切。必要なら個人事業主として丁寧に交渉すべき。
成田:訳者さんへ支払う単価が固定だとお客様への売値も固定である翻訳会社が大半。訳者さんは自分のことを高く買ってくれる取引先を探す方が賢明なのかも。

どんな相手と仕事をしたい?

国枝:翻訳の苦労を理解し気遣いができる人。労いの言葉や柔軟な単価調整などの心遣いは嬉しい。
中野:顔が見える付き合いをしたい。訳者に負担がかからず、少ない手間で気持ち良く仕事ができる相手が理想。田嶌:少ない手間で依頼できるよう翻訳会社も注意したい。訳者さんには、レスポンスが早く、翻訳の質と気分にムラのない人であってほしい。(爆笑)
成田:喜んで仕事を請けてくれる相手には依頼しやすい。訳者さんの好意や能力の高さに甘えてしまう時もあるが、Win-Winの関係に向けた翻訳会社側の努力が伝われば、訳者さんも頑張れると思う。今後もこのような意見交換の場を継続的に持てれば良いと切に思う。

 

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