日本翻訳連盟(JTF)

よくみる和文英訳の落とし穴 ~より読みやすい英訳のために~

2016年度第4回JTF関西セミナー報告
よくみる和文英訳の落とし穴
~より読みやすい英訳のために~


トンプキンス・ベンジャミン

1970年米国生まれ。カンザス大学卒業(日本文学および生物学)、コロラド大学院日本文学修士。90年と94年に交換留学生として上智大学(文部省奨学金取得)、福岡大学で日本語、生物学を学ぶ。福岡で翻訳会社勤務の後、99年、米国にて翻訳会社j-translate.comを設立。
09年に福岡に移転後、トンプキンス・バイオメディカル・コミュニケーションズ株式会社を設立。現在、日本翻訳者協会の会長・理事長に携わる。

 



2016年度第4回JTF関西セミナー報告
日時●2017年3月18日(土)14:00 ~ 17:00
開催場所●アステールプラザ(広島)
テーマ●よくみる和文英訳の落とし穴 ~より読みやすい英訳のために~
登壇者●Tompkins, Benjamin トンプキンス・ベンジャミン (トンプキンス・バイオメディカル・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役、JAT会長・理事長)
報告者●畝川 晶子(翻訳者)

 


 

広島にて初開催となったJTF関西セミナー。70名定員の会議室はほぼ満席。日本語によるワークショップ形式で、どの分野にも役立つ「落とし穴」のある問題を解き進めながらの展開となった。当日の配付資料は、事前課題を含むWORKSHEETとプレゼン資料を出力したもの(WORKSHEET解答を含む)の二種。以下に、その一部を再現する。

1. 動詞関係

 まず、事前課題にもあった「飛行機で沖縄に行った。」の英作文で始まった。
I went to Okinawa by plane.は
I flew to Okinawa.
と強い動詞flyの過去形flewを使うことによって、たった4語で簡潔・明確な文章となる。
 次に、強い動詞(Power Verbs)の具体例を練習した。
The clinical study failed to demonstrate the efficacy of the drug.(示さなかった)

 また、特に主語が明らかな場合、受動態を避けて能動態の文章に修正する例も示された。
The operation was performed on the patient by the doctor.
この場合、単純に受動態から能動態に変更すると
The doctor performed an operation on the patient.
となるが、operateという動詞が名詞化したoperationが弱い動詞performと組み合わされ、伝えたい目的語であるpatientが動詞から離れてしまった。

 そこで、この動詞の名詞化(Nominalization)を避けて強い動詞を使う練習を行った。
She conducted an investigation of the plant life in the lake. ⇒
She investigated the plant life in the lake.

 時制関連では、「単純未来」と「未来形の応用」としての助動詞willの用法確認、“If”節に所属する動詞を現在形で書く例文に引き続き、ifで導かれる副詞節の主語が主節の主語と同じ場合、主語を省略した文章とする文例を確認した。

 動詞関係で一番誤りやすい例文は、「~することができた」の用法であった。「できた」となると日本人は短絡的に助動詞couldを使用しがちであるが、couldは「~かもしれなかった」「~でありうる」や仮定法の「~できるだろうに」など意味が多岐にわたり紛らわしい。単に過去形とするか、副詞successfullyを付加するか、またはbe able toの構文とすることが考えられる。なお、否定のcould notは使ってもよい。
(投与前の検体からも循環血液中のVEGF濃度を測定することができた。)
[We] (successfully/were able to) measured circulating VEGF levels in the baseline samples (as well).

2. 句読点・記号

 まず、波線「~」とチルダ「~」ついて確認した。
The patients were 20~41 y.o.を次の文に修正した。
The patient were 20 to 41 years old.
ただし、半角チルダを英文内に使用した次の文では「~」は「約」の意味となる。
Ben is ~40 years old.

 他に、日本語での不等号記号「≦」「≧」はそれぞれ英文では「≤」「≥」であるが、これらの記号の使用は括弧内での使用を除いて避けるべきである。
例) 収縮期血圧≧ 130mmHgは次のように訳される。
Systolic blood pressure {at least, no/not less than} 130 mm Hg.

3. False friends(裏切り者)

False friendsは、2言語間で形態上は類似しているが意味を異にする2語で、マンション(apartmentやcondominium)、エアコン(air conditioning and heating unit:英語のair conditioning・air conditionerは冷房のみ)、トランプ(cards)等。

4. 定訳でいいのか

 「~を確認する」でよく使われる“confirm”の用法を実際の英文の中で確認した他、「原則として」を助動詞shouldで表す文例、「など」を含む文例の訳し方を確認した。
例) 治験責任医師は、原則として当院の受託研究審査委員会に出席して、当該治験の内容について説明をすること。(下線部の落とし穴に要注意)
The investigator should (is supposed to, is expected to) attend meetings of the institutional review board to explain the study.

5. 語順

 「要点を最初に伝える」語順を確認した。
No deaths {were reported / were noted / occurred} in the study.

6. Parallel construction

 「並列構造」について学んだ。意味上の対比関係を反映した並列構造であり、比較するものを統一する。
I like translating more than to edit.の修正文を示す。
I like to translate more than to edit. OR I like translating more than editing.

引き続き、7. Simplicity、8. Artifactsと日本人が書きがちな冗長な英文、不自然な英文を簡潔で自然な英文に書き換える練習、9. その他としては「翻訳者の道具の最適化」としてMicrosoft Wordの設定の確認、10. Challenge Roundとして事前課題を含む翻訳文を確認した。

感想

当日の参加翻訳者は医薬だけでなく多分野にわたり、広島では「西日本医学英語勉強会」を開催していることもあり、異業種からの参加者も多かった。先生のご準備・レベル設定は大変だったことと拝察する。が、英文ライティングの基礎固めとして必要なエッセンスが詰まった内容で、基礎から英訳を見直す良い機会となった。翻訳作業では、AMA Manual of Style(他にThe Chicago Manual of Style)の参照、各翻訳会社から配布されている表記上の注意点マニュアルや納品前翻訳チェックリスト、CATツール使用時のQAチェック機能、自作辞書を含むデータベースの活用と品質管理にはどの翻訳者も注意を払っているものと思われるが、英訳はとかく英借文になりがちである。したがって参照するデータの不完全さを踏襲する危険性も肝に銘じておきたい。「Resources for Writing Better」でも言及のあった「外国人(英語ネイティブでない人)用の英英辞典の使用」「ネイティブの書いた記事の多読」を今後も心がけて品質向上に努めたい。

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