[翻訳祭29.5報告]JTFとNIPTAの検定試験の紹介 ― 未来を見据えて

JTF Online Weeks(翻訳祭29.5)セッション報告

  • テーマ:JTFとNIPTAの検定試験の紹介 ― 未来を見据えて
  • 日時:2020年11月12日(水)14:00~15:00
  • 開催:Zoomウェビナー
  • 報告者:伊藤 祥(翻訳者/ライター)

登壇者

安藤 惣吉(アンドウ ソウキチ)

日本翻訳連盟(JTF)常務理事・ほんやく検定委員長、株式会社ウィズウィグ代表取締役、医学翻訳教室アンセクレツォ主宰者・講師

ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語、サンスクリット語など古典言語をこよなく愛する翻訳会社経営者。現在、主宰している翻訳教室のためにラテン語の学習書を執筆中。主宰している翻訳教室では、自分の翻訳者としての経験を通し、翻訳の面白さ、辛さ、社会への貢献度など語る。座右の銘は、アイゴ・アイゴ、人生はこれから。

浜口 宗武(ハマグチ ムネタケ)

日本知的財産翻訳協会(NIPTA)常務理事・事務局長(株式会社知財コーポレーション代表取締役)

1965年東京商船大学(現東京海洋大学)卒、運輸省(現国土交通省)にて海上勤務・研究業務。沖縄海洋博覧会調査役(国際イベント担当)、国際特許事務所勤務などを経て1976年貿易・翻訳会社を設立、輸入業の傍ら特許翻訳に従事。2006年に知財コーポレーションに社名変更。日本翻訳連盟常務理事、工業英語協会理事などを歴任。知財信息諮詢(上海)有限公司総経理を兼務。知財アカデミー特許和英翻訳講座基礎編・機械工学編講師。特許翻訳の面白さに魅入られて約半世紀。


今回の第29.5回の翻訳祭は、初の約2週間にわたるオンライン開催という「新しい翻訳祭様式」となった。しかし、オンラインという顔が見えないはずの開催でありながら、オープニングセッションの動画においては、各地の翻訳者や関連団体の関係者の映像が続々紹介されたり、あらためて JTF についての紹介があったり、「つながる時代を生き抜くために~原点への回帰と進化の道程~」のテーマ通り、今回の翻訳祭は原点に立ち返り、つながりを通じて進化を探っている実感が感じられた。

また、この今年のコロナ禍の激動の中では「信じられるものは自分の実力」と、翻訳者の中には変化で浮いた時間を学習に充てた人も少なくないだろう。それに伴い、学習後のレベルをはかる検定試験にも関心が高まったに違いない。

上記のような、原点・本質に立ち返りつつ、新しい世の中を生き抜くという翻訳者も翻訳祭もが面している環境下で、本セッションでは JTF のおおもとの事業・共同開催事業の1つである「ほんやく検定」と「知的財産翻訳検定」とはいかなるものか、改めて日本翻訳連盟(JTF)安藤 惣吉氏、日本知的財産翻訳協会(NIPTA)浜口 宗武氏より、主催者の立場から詳細が説明された。検定の目的・実施要領・最近の動向、そして「未来を見据えて」と銘打ったプレゼンの中で、この検定の評価を維持し、さらには未来に向けて発展していく検定にするための自負や努力も垣間見られた。

JTFの「ほんやく検定」とは?

JTF「ほんやく検定」は、普段より在宅業務を行う翻訳者が、在宅で自分の翻訳環境で受験可能なインターネット試験である。そして、初受験でも送信トラブル防止のため試行送信が可能なので、自分の原稿がきちんと送れるか事前に確認できる安心なシステムになっている。

レベル設定は2段階で、初心者向けの基礎レベルと、経験者向けの実用レベルがあり、英日翻訳と日英翻訳の2つの科目から選択できる。

問題文はアップトゥデイトな原文を選定していることが大きな特徴で、実務の変化に即応した作問がなされている。その分野の時代に合った専門性を試す内容となっているので、トライアルのシミュレーションとしてもおすすめである。各社のトライアルは一様ではないものの、弱点探しに有効だからである。

合格者からは「新しい受注を得て、キャリアアップにつながった」との声が寄せられており、中でも、ほんやく検定1級合格者は、高い力量があると業界で一定の評価がなされている。そのためにも、採点に当たり、 JTFでは長年の研究検討を経て独自に開発・制定した、業界指標となる厳正かつ客観的な評価基準を採用している。これらの取り組みの評価から、 JTFはISO17100に基づいた翻訳者登録制度の検定試験の実施機関に認定されている。この登録制度は制度運営者が認める検定の合格が資格要件となっている。

それでは、もう少し詳細について、レベルの紹介から説明する。

基礎レベルは5級と4級があり、実務経験が少ない人や現在翻訳を勉強中の人を対象としている。英日翻訳と日英翻訳いずれも、出題内容は一般社会問題と平易な科学・技術問題となっている。

実用レベルである3級以上は、在宅翻訳者、社内翻訳者、派遣翻訳者として実務経験がある人、プロとして専門分野の実力をさらに磨きたい人が対象で、「政経・社会」「科学技術」「金融・証券」「医学・薬学」「情報処理」の5分野の中から1分野を選択して受験する。合格者には翻訳の完成度に応じて1~3級が付与される。その審査基準は、 1級は専門家の翻訳であると認定され、原文の情報が正確で分かりやすく、かつ適切な文体で表現されていること。2級は完成度の点では1級には一歩譲るが、実務では十分に通用する翻訳であると認定され、実務上では若干の修正が必要であるが、重大な誤訳はないこと。3級は内容理解力、表現力などの面で欠点もあるが、限られた時間内での作業、試験という特殊な環境などを考慮すると、実務で一応通用する翻訳力があると認められ、今後の自己研鑽が鍵である人、となっている。

「ほんやく検定」に合格すると認定書が付与され、公的な資格証明となる。受験料は税込みで、基礎レベル5級が5,500円、基礎レベル4級が6,600円、実用レベル1科目(英日翻訳または日英翻訳)が11,000 円である。

※ JTF会員およびNIPTA会員は一般受験料より20%割引。併願割引もある。

2019年度の受験者状況は、英日翻訳の1級から3級の総受験者数490名だった。合格者と合格率は、1級が3名で0.6%、2級が21名で4 %、3級が64名で13%、1級から3級の合格者率は17.6%だった。日英翻訳は1級から3級の総受験者数は301名だった。合格者と合格率は、1級が5名で1.7%、2級が20名で7%、 3級が41名14 %、1級から3 級の合格者率は22.7 %だった。4級は受験者が144名、合格者が79名で、合格率が55%、5 級は受験者が105名、合格者が63名で、合格率が60%だった。受験者の総合計は1040名、合格者296名で、合格率28%となっている。これらの結果より、特に1、2級は難易度の高い価値ある試験といえるのではないか。

受験科目別では、英日翻訳が47%、日英翻訳が29%、4級が14%、5級が10%となっている。年代別では、 20代までが18%、 30代が30%、 40代が26%、 50代が18%、 60代以上が8%。30代と40代の割合が大きいもののさほど年代差はなく、また個人的には60代以上でも自分の積み重ねてきた翻訳の力量を試したいという人がいるのは特筆すべきことと考える。

ほんやく検定の合格者特典の1つは、1、2級に合格した場合、日本翻訳連盟の法人会員約20社の翻訳会社でトライアル優遇措置として、トライアルが免除、またはトライアル受験要件が緩和されることである(トライアル優遇措置対象翻訳会社リスト:https://www.jtf.jp/pdf/kentei_trial.pdf)。

第二の特典は、ほんやく検定は 翻訳者評価登録制度(一般財団法人日本要員認証協会 翻訳者評価登録センター)の翻訳検定試験として登録されているので、1、2級に合格した場合、翻訳者資格登録の申請に役立てることができる。翻訳者評価登録制度とは専門的力量を有する翻訳者を第三者機関(一般財団法人日本要員認証協会)が評価し登録する制度である。

第三の特典として、1、2級に合格した場合、任意でJTF会員向け公式Webサイトにある「検定合格者リスト」とJTF機関誌「日本翻訳ジャーナル」に自己プロフィールを登録・掲載できる。登録によって、約220社のJTF加盟の翻訳会社の目に触れ、フリーランスとして仕事を獲得する機会が広がる。

出題者からは、英語と受験分野の専門知識の内容をしっかり学習してほしいとのコメントがあった。ぜひ、頑張って学習していただき、翻訳力量をはかるための受験を検討していただきたい。

NIPTA「知的財産翻訳検定」とは?

知的財産翻訳検定は、日本翻訳連盟と日本知的財産翻訳協会が公益法人として合同で実施している検定試験である。

知的財産とは国力のバロメーターとも言われている。なかんずく出願企業にとって海外で特許を取得することは重要である。日本における特許翻訳の能力を向上、拡充していく目的で、個人の翻訳者と翻訳会社、特許事務所、エンドユーザーである出願企業がお互いの利害得失の垣根を超えて皆で一緒にやろうと、2004年に設立された団体が日本知的財産翻訳協会(NIPTA)という特定非営利活動法人である。

活動の柱の1つは、知的財産翻訳検定で、そのコンセプトは、翻訳者・翻訳会社をコアとして日を当てること。エンドユーザーである出願企業には、海外における知的財産確保・特許権取得のために、翻訳を活用する手段として優秀な翻訳者・翻訳会社を見つけやすくすること。特許事務所においては、優秀な外国語スタッフを確保すること。これから特許翻訳の道に進む人にとっては、学習の進度を測るマイルストーンとして活用していただくこと、というものである。

試験内容は、特許翻訳の核である特許明細書の翻訳技能を測る試験である。日本特許庁の後援、特許関連の各団体の後援の準公的試験である。ほんやく検定同様、インターネット経由の試験なので、全国どこからでも受験できるので、実際外国からの受験も増えてきている。年間春秋の2回実施で、春は和文英訳のみである。1級、2級、3級があり、1級をプロレベルとしている。1級は、(1)知財法務実務、(2)電気・電子工学、(3)機械工学、(4)化学、(5)バイオテクノロジーの5分野。特許翻訳の技術の理解、技術分野に応じて得意な言葉はあるので専門性を見るため1つのジャンルを選んでいる。複数受験も可である。

2級は技術分野の選択はなしで、特許明細書翻訳の基本を理解し実務に堪える力があると認められるレベルかどうか試験する。ただし、そうはいってもそれぞれの専門性の方向性があるので、専門による有利不利が出ないように広範な内容で、技術レベルとしてはどの受験者にも理解できるような内容を問題文としている。3級は大学生やこれから特許翻訳者を目指す人のためのエントリーレベルである。

秋の英文和訳試験も同様のグレード分けしている。秋は、英語の2級相当のレベルの中国語から日本語、ドイツ語から日本語の翻訳試験もしている。2級同様、色々な分野から複数の出題をし、技術のレベルはだれにでもわかるレベルとなっている。

受験料(税込)は、英語試験は1級が15,000円、2級が10,000円、3級が5,000円で、中文和訳(※秋検定試験のみ実施)が10,000円、独文和訳(※秋検定試験のみ実施)が10,000円である。

※ NIPTA(当協会)正会員(個人・団体)、 JTF会員および大学生は、一般受験料より20 %割引。

英語試験1級合格者ならびに中文和訳、独文和訳合格者は、ご本人の承諾が得られればホームページ上に名前を掲載している。 受験者の参考になるよう、さらに本人の答案も許可が得られた範囲で掲載している。

ほんやく検定同様、ISO17100 の日本要員認証協会の登録要件を満たす試験であり、試験レベルを統一するために合同で実施するようになった。例年春の和文英訳試験のほうが受験者が多い傾向にあったが、2019年度にJTFとNIPTAが合同で実施するようになってから受験者数が増加している。つい先日11月1日に第31回試験が実施され英語・中国語・ドイツ語からの和訳試験であったが、中国語とドイツ語の試験の受験者が急増し、秋の試験としては最高の100人越えの試験となった。

また、試験の大きな特長としては、結果の通知の際、答案の合否のみならず、答案についての採点者の講評も全受験者に郵送で送付される。改善点の指摘や不合格の場合の理由も記される。翻訳の正解は1つとは限らないので、採点の客観性を担保するため、複数の採点者が採点する。また、採点者の意見が割れる場合は、全科目の採点者が集まった採点員会場で議論し、最近の実務プラクティスの変化を加味して合否の判定をしている。

もう1つの特長として、御本人の了解を得て開示している合格者リストにおいて、日本語にページに加え、日本の優秀な特許翻訳者を海外クライアントに紹介するべく、近年英語ページを作成した。実際掲載された合格者から海外クライアントからの問い合わせもあったという声が届いている。今後はより、クライアントをホームページに引きつける工夫なども考えていきたい。

この他、NIPTAでは知的財産翻訳ジャーナルを月刊で発行している。内容は世界の知的財産関連のニュースの翻訳、語学の切り口からの解説や、翻訳の学習に関する記事で好評を得ている。会員以外にも販売しているので、ぜひお読みいただきたい。

質疑応答

Q. 検定の今後の方向性について
A. 検定というのは自分の力量を図るために受験するものだが、検定自身もより受験者にとって魅力あるもの役に立つものとなっていかねばならないと考えている。

Q. 機械翻訳を使用しての受験は可能か
A. 検定の趣旨は、受験者の実力をはかるためのものであるという大前提で、ツールとしての使用は制限していない。

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