[翻訳祭30報告]翻訳検定試験を通してしっかりとした翻訳者の道を開きましょう

第30回JTF翻訳祭2021 セッション報告

  • テーマ:翻訳検定試験を通してしっかりとした翻訳者の道を開きましょう ― 検定の上手な使い方
  • 日時:2021年10月7日(木)14:00~15:00
  • 開催:Zoomウェビナー
  • 報告者:三浦 ユキ(ペンネーム、翻訳者)

登壇者

安藤 惣吉

日本翻訳連盟(JTF)常務理事・ほんやく検定委員長(株式会社ウィズウィグ代表取締役)

医学翻訳教室アンセクレツォ主宰者・講師:ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語、サンスクリット語など古典言語をこよなく愛する翻訳会社経営者。現在、主宰している翻訳教室のためにラテン語の学習書を執筆完了間近。主宰している翻訳教室では、自分の翻訳者としての経験を通し、翻訳の面白さ、辛さ、社会への貢献度など語る。座右の銘は、アイゴ・アイゴ、人生はこれからを捨て、オトケー、オトケー。

浜口 宗武

日本知的財産翻訳協会(NIPTA)常務理事・事務局長(株式会社知財コーポレーション代表取締役)

1965年東京商船大学(現東京海洋大学)卒、運輸省(現国土交通省)にて海上勤務・研究業務。沖縄海洋博覧会調査役(国際イベント担当)、国際特許事務所勤務などを経て1976年貿易・翻訳会社を設立、輸入業の傍ら特許翻訳に従事。2006年に知財コーポレーションに社名変更。日本翻訳連盟常務理事、工業英語協会理事などを歴任。知財信息諮詢(上海)有限公司総経理を兼務。知財アカデミー特許和英翻訳講座基礎編・機械工学編講師。特許翻訳の面白さに魅入られて約半世紀。


JTFほんやく検定について(安藤氏)

実用レベル1級・2級の合格者には、以下の3つの特典がある。

1. トライアル優遇制度

JTF法人会員の一部の翻訳会社で、翻訳者登録時のトライアルが免除されたりトライアル受験条件が緩和されたりする。対象となる翻訳会社は現在20社(JTFほんやく検定ウェブサイトで公開中:https://kentei.jtf.jp/)。

2. 翻訳者評価登録制度の翻訳検定試験として登録

実用レベル1・2級を取得したら翻訳者資格登録の申請に役立てることができる。翻訳者資格登録制度とは、専門的力量を有する翻訳者を第三者機関(発足時:日本規格協会 翻訳者評価登録センター)が評価し登録する制度である。現在は、翻訳者評価登録制度の運営は日本規格協会グループの一般社団法人日本要員認証協会が行っている。

3. プロフィール掲載

JTF Webサイトの「検定合格者リスト」(JTF会員のみ閲覧可能)と「JTF Webジャーナル」に自己プロフィールを登録掲載可(希望者のみ)。プロフィールの掲載により、JTF加盟の翻訳会社(約220社)から仕事を獲得するチャンスが広がり、将来フリーランス翻訳者を目指している人には合格を機に独立する道が開かれる。

その他、JTFほんやく検定受験に際しては、翻訳学校生向けの特典を準備中である。具体的には、JTF法人会員が運営する翻訳学校の現役の受験生が受験する場合、JTF会員価格の受験料が適用される予定(開始時期未定)。

JTFほんやく検定の過去問題と解説集は、JTFのWebサイトで購入するか、JTFほんやく検定の受験申込と同時に申し込みが可能である。過去問と解説集を見ることで問題のレベルを確認することができる。料金は、JTF会員は一部1,018円(税込)、一般価格は一部2,139円(税込)である。一冊ごとに過去一回分の問題・訳例・解説が収録されている。自分が見たい受験回を確認して申し込みされたい。

知的財産翻訳検定について(浜口氏)

日本知的財産翻訳協会(Nippon Intellectual Property Translation Association:NIPTA)はまだ知名度が高くない。日本の企業が海外に知財を展開する際には翻訳力が必要となる。翻訳の供給者と需要者の垣根を越えて皆で集まって翻訳力を開発し育てていくことを目的に2004年に設立されたのがNIPTA(NPO)である。

NIPTAは2005年から知的財産翻訳検定を実施しており、2021年の10月には第33回検定が実施された。同検定は、翻訳業界、(特許出願人としての)企業、将来の翻訳者、そして特許事務所の全てに資するよう、日本の知的財産翻訳環境を整備することをねらいとしている。日本特許庁の後援を受けている。

知的財産翻訳検定とは

特許明細書などの知的財産に関する翻訳能力を客観的に図るための検定試験である。eメールを使用して受験するので、全国、世界中のどこからでも受験可能で、実際、中国やアメリカ、欧州からの受験もある。

英日、日英のほか中文和訳、独文和訳の試験もある。主体となるのは英日、日英であり、以下、英日と日英を中心に述べる。毎年春に和文英訳、秋に英文和訳の試験が行われる。

試験内容

1級…分野別の記述式(プロレベル)

(1)知財法務実務、(2)電気・電子工学、(3)機械工学、(4)化学、(5)バイオテクノロジー、より選択。(1)の知的法務実務とは、ライセンス契約書、知財に関する裁判の判決書、出願後のやりとりに付随する翻訳物等のこと。(2)から(5)については翻訳力に加え、技術理解力が身についているかどうかを見るものである。

2級…技術選択なし/記述式

将来どのような技術分野に進んでも必要となる共通の基礎知識、翻訳力が備わっているかどうかを見る(基礎レベル)

3級…技術選択なし/記述式+選択式問題(エントリーレベル)

中文和訳および独文和訳…技術選択なし/記述式

受験料は、いずれの区分でもNIPTA会員、JTF会員は10%割引が適用される。

合格者に対して発行される認定証は、英和、和英の1級のみ日本語版と英語版の両方が発行される。外国での翻訳需要に対応できるようにすることをねらいとしたものである。

また、英和および和英の一級合格者と、中文和訳および独文和訳の合格者については、本人の了解を得て協会のウェブサイトに氏名と答案が公表される。

受験者数の推移

和文英訳はこの三年に急増。過去最高を更新中。その背景としては、JTFとNIPTAが試験を共同運営するようになったことに加えて、経済状態の変動の影響で翻訳の需要が乱れる時期に受験が増えやすいということがあげられる。例えばリーマンショックの時期には受験者数がピークとなった。現在もコロナの影響で翻訳の需要が減少傾向にあることから受験が増えているのではないかと考えられる。

英文和訳については、減少傾向が続き、一昨年も少なかったところ、昨年から再び増加に転じ、直近の33回試験では過去最高を更新。

試験の特徴

NIPTAによる知的財産翻訳検定の大きな特徴として、受験者全員に評価コメントが提供されることがあげられる。翻訳の正解は一つではないという観点から、採点委員は1級の各分野及び2級についてそれぞれ2名、計12名(各分野の弁理士と、同じ分野のベテラン翻訳者)である。さらに、判断が割れた場合には、全採点委員12名の合議制で合否の修正および評価が行われる。個人の好みで採点が大きくふれることがないようにと最大限の配慮がなされている。

合格者リストは協会ウェブサイトに日本語および英語で掲載される。英語でも掲載されるのは海外の仕事も受けることができるようにするためである。一級の合格者について同意を得て答案を公表するのは、「ここまでできれば一級合格レベル」ということを第三者に見てもらい、透明性を高めるためである。

最後に、2021年8月に実施された和文英訳の1級合格者の顔ぶれについて概観する。フリーランス翻訳者が約半数で、次に翻訳会社勤務、特許事務所勤務の方々が続いている。合格時点での翻訳経験の年数は、5年以上が7割強となっているものの、3年以上5年未満、1年以上3年未満の方のほか、業としての翻訳経験なしで合格される方もあるとのこと。また最終学歴を見ると、文系の方が約4分の3を占め、日本の特許翻訳を支えている人は圧倒的に文系が多いということが伺える。一級合格が何らかのプラスになったと感じている方は80%を超えている。フリーランス翻訳者の方は合格が仕事の獲得や履歴にプラスになるというものが多く、特許事務所勤務の方は専門職手当を受けられた、実力が証明されたことによりリーダーシップを取りやすくなったといったものが見られ、勤務形態により異なるメリットが得られることが分かる。

コロナ禍で翻訳需要が減少している中、自分の翻訳力をアピールする手段として検定受験を検討していただけたら嬉しいとのことであった。

質疑応答

※ 安藤氏の回答は「(A)」、浜口氏の回答は「(H)」で示す。

Q. JTFほんやく検定の3級合格者にはどのような特典があるのでしょうか。

A (A). 履歴書に資格として書くことができるほか、JTFジャーナルのウェブ版に任意で氏名と在住を掲載することが可能です。

Q. 一級合格者の解答の公表についてもう少し詳しく教えてください。

A (H). 公表の許可は、本人確認のために行っている簡単な面接(遠隔の方の場合は電話)の際に併せて確認をしており、大半の方が合意されています。合格といっても100点のことはなく多少のエラーはありますが、そのまま見てもらうことが実態の理解やどのように勉強をしたらよいかの材料になることをお伝えして理解していただいています。第1回から直近の32回まで、全ての回についてその問題と協会作成の標準的な参考訳や講評、合格者答案(本人許諾の場合)を協会のウェブサイト上で掲載しており、受験を志す方々への指針として過去の検定の様子をすべて見ることが可能です(参照:https://www.nipta.org/ExamPast_kakomon.html

Q. JTF翻訳検定について、一級合格者は毎年2~3名となっています。どの程度難しく、再チャレンジ率はどれくらいでしょうか。

A (A). 一級合格の要件としては、まず修正がないということが必要です。実用レベルでそのまま通用するレベルを一級としているので、難しい試験と言えるのではないでしょうか。また、再チャレンジについて公表はしていません。一定数はいらっしゃいます。

Q. お二人にお聞きします。どちらの検定でも、一級合格者の方は基本的に氏名の掲載を希望されるのでしょうか。

A (H). 知的財産翻訳検定では、フリーランス翻訳者の方はほとんどの方が連絡先を含めて公開を希望しています。一方、企業や特許事務所、翻訳会社等に勤務されている方は、所属先までは掲載してよいが個人の連絡先は出さないでほしいとおっしゃる方が多いです。

A (A). JTFほんやく検定の場合は、一級合格者の方はほとんどが氏名の掲載を希望されます。これは、クライアント企業、翻訳会社へアピールするチャンスとなるので、そのチャンスを逃さないようにという皆さんのお考えだと思います。

Q. 知的財産翻訳検定では、評価をする人が二名とのことです。もっと多くの評価者の可能性も考えてから二名に落ち着いたということでしょうか。

A (H). 最初に複数の評価者が必要な趣旨からお話ししましょう。まず専門性の高い翻訳検定ですから、それなりのレベルの人でないと評価をするのは難しいということになります。さらに、翻訳というものの正解はひとつではありません。昔の制度や慣例ではダメだったけれど今はこれでいいのではないかといった議論が必要になることもあります。そのようなディスカッションを経て評価をしてくれる人となると、高度な専門家ということになります。評価の依頼対象となる弁理士やプロの翻訳者の方々は非常に多忙なうえ、検定の評価作業はほぼボランティアで行われるものなので、3~4名を確保するということは非常に困難です。そのような状況で2名の方々をやっと確保しているというのが現状です。評価にあたる採点委員のほとんどは問題を作成する試験委員も兼ねており、氏名は協会ウェブサイトで公開されています。

なお、同一ジャンルで二人の評価者の意見がわれた場合には、全ジャンルの先生に集まってもらい拡大採点委員会を開きます。ここで、最新の実務の情報を共有しながら全試験委員(12名)が合議制で決定を行うことになります。

Q. ふたつの検定試験はオンラインで行われるとのことですが、必要なパソコンレベルはどれくらいでしょうか。

A (A). 合格者は実務レベルということなので、実際の翻訳の仕事で必要なレベルと同等のものです。またほんやく検定では検索(調査)が必要となります。ウェブを使った調査ができる程度のパソコンスキルは必要ということです。

A (H). 同じく実務、勉強に耐えるパソコンレベルです。知的財産翻訳検定でもネット検索が必要になります。

報告者から

全体を聴いて印象的なのは、まず知的財産翻訳検定では二名の評価者が採点しさらにコメントをもらえるという厳密かつ丁寧なシステムである。評価コメントは、合格・不合格にかかわらず受験者の大きな励みになり、勉強になることと思う。特に複数の評価者からのコメントをいただけるので複数の見方を示してもらえる可能性が高く、仮に不合格であったとしても評価者の一方が何らかのポジティブな面を指摘してくれる可能性もあるということだ。

英語でも認定証が発行されるなど、非常に行き届いている。海外の団体による英語力の検定では英語のみの認定証でそれが当たり前だけれど、日本独自の翻訳力を示す検定で合格したということを英語で示す証明があることは非常に心強い。

ほんやく検定については、合格すると翻訳者評価登録制度に活用できるとのことである。報告者はこの制度のことを初めて聞いた。小規模な翻訳会社やクライアント企業では認識されていないものである。ほんやく検定ならJTFのウェブサイト、知的財産翻訳検定であればNIPTAのウェブサイトに本人の同意を得て上位級の合格者のプロフィールを掲載することができると紹介されていた。それに加えて翻訳者評価登録制度を活用できるなら、フリーランス翻訳者の方は検定に合格してその旨掲載することで、実力をさらにアピールするチャンスになると思う。翻訳検定試験について知り、対策を行って試験を受けて合格したら、今度はそれをどのように活かすかが大切である。「翻訳検定試験を通してしっかりとした翻訳者の道を開きましょう」をテーマに本講演で与えられた情報とヒントを最大限に活かしたい。

なお、今回のJTF翻訳祭では、他の講演で海外の翻訳会社をテーマにしたものがあり(別途報告記事あり)、そちらでは翻訳検定についての話題はなかったので、ひょっとしたらほんやく検定および知的財産翻訳検定の存在がまだあまり注目されていないのかもしれない。和文英訳の翻訳者さんも各分野で需要があるということなので、この二種類の検定を活用されたらどうだろうか。海外の翻訳会社についてのセッションでも、日本語の翻訳(ターゲット言語とソース言語の区別なし)は需要が多く、日本語ができる翻訳者は希少価値が高いというデータが紹介されていた。また、特に知財分野で英和と和英の需要が増え続けているとのお話もあった。海外での翻訳需要に応えるという知的財産翻訳検定の趣旨に照らしても、ふたつの検定に合格したら海外の翻訳会社にもアピールできるようになれば良いと思う。

ほんやく検定も非常に難しく、それだけに挑戦のしがいがあるものだし、実用レベルに関して1~2級に評価されるようになっている仕組みはユニークである。そもそも実用レベルとして認定されることは難しいと思う。惜しくも2級であっても(または晴れて2級を取得できたら)1級を目指して再挑戦することができる。

どちらの検定にも対策やマニュアルはない。しかし過去問と解答例を見ることが可能である。過去問を参照し、自分の力に見合っていると思われる級を選んで力試しを兼ねて受けてみてはどうだろうか。

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